Sky Lord
01.theBlack Lagoon
「よ、バオ」
 声をかけると、覿面にイヤそうな顔をされた。
「ミルクはねぇよ。帰っておねんねしとけ」
 カウンターに座った一人の金髪の少年に対し、店主であるバーテンが不機嫌極まりない声音で言い放つ。
「ミルクなんかいらねぇよバオ」
 が慣れた様子で、店主の奥に並ぶ酒を指して。
「ラムだ。一瓶くれ」
 と言った。
「おいおい。ガキがラムだぁ? 冗談ヌカスナ」
 冗談だと思ったのか、バーテンが失笑と共に言葉を返した。
「冗談じゃねぇよバオ。つい前のことも忘れるほどボケたのか? お前に生きてたのかよって言われて結構ショックだったんだけどなぁ。俺」
 そう言うの顔は明らかに『子供』ができる表情ではない種類のニヤニヤとした顔をしている。
 反対にバーテンのバオの顔は蒼白になっていた。

 ガッシャァァァァン!!

 バオの手からすべり落ちたガラスが割れる。
 ツンッとくるキツイアルコールの匂いが辺りに漂う。
 そして、これ以上ないってくらいバーテン、バオは顔を引きつらせて驚いた表情をしていた。
「お……お……お前! か!!?」
 バーテンがの名前を呼ぶと一瞬店内の空気が固まり静まり返った。
 そして、ジロジロと入ってきたガキを見ていた視線が一斉に消え、それぞれの『作業』を再開した。
「テ、テメェなんだってそんな格好なんだ? っていうか、なんでガキの姿してんだよ」
 バオが勢い余ってカウンターに身を乗り出して聞いてくる。
 ったく。
 だからここを待ち合わせにスンナって言ったのに。ダッチのヤツ。
『一仕事終わってから帰りに寄るよ』
 なんて。
 ま、待ってりゃ来るだろ。
 そう思って、尚も聞いてくるバオの質問には答えずに改めて出されたラムを一瓶、グラスに注ぎ飲みだした。




「で? 見ない顔が一人混じってるけど。ソイツ誰?」
「ん? あぁ。今日の仕事でレヴィが勝手に拾ってきた日本人だ」
 相変わらずのスキンヘッドにそのトレードマークのサングラスの黒人の大男が教えてくれる。
「へぇ。よぉ、レヴィ。久しぶり」
「おぉ。なんだなんだ。お前ぇがガキになっちまったっていう話は聞いてたけど、ホントなんだな」
「まぁな。で、今日の仕事で日本人連れ帰ってきたんだって? よぉベニー久しぶり」
 カウンター席の端の方に座ろうとする金髪の青年であるベニーに軽く挨拶して、中国系アメリカ人であるレヴィという銃を携えた女の方に話を向ける。
「そーなんだよ。ある日突然だ。で、ダッチ。なんで連れてきた? 名前は?」
 そうに言われ、思い出したようにダッチが連れて来た日本人を見て名前を聞いた。
「ロクロウ・オカジマ? 変な名前だ」
「気にしてるんだ。放っといてくれよ」
 と酒が入ってる日本人、オカジマが英語で答えた。
「こりゃ失礼。『口さがねぇ』のが性分でな」
 と、大して謝る気はないのだろう口調でダッチが答える。
「いや。いいさ。それにしても……この酒場はひどい。地の果てだ」
 と言うオカジマさんその言葉と共に、背後では争いが勝手に始まっていて誰かが誰かを殴る音が響いている。
「うまい喩えだ。ここは元々南ベトナムの敗残兵が始めた店だが、逃亡兵なんぞを匿ったりしているうち、気が付きゃ悪の吹き溜まりだ。娼婦、ヤク中、傭兵、殺し屋。どうしようねぇ無法者ばっかりさ。嫌いかね? ロック」
 酒を飲みながらロックに問う。
「居酒屋が一番いい。だいたい、俺争いごとは向いてないだんよ」
「そういう顔だ。ベニー、ちょっと電話入れてくるわ」
 そうダッチが告げて席を立つその後ろから、ロクロウ・オカジマさんが声をかけた。
「ミスタダッチ。さっき俺のことなんて呼んだ?」
「『ロクロウ』だからロック。クールだろ?」
「ロックねぇ……」
 そんなロックと呼ばれたオカジマさんに答えたのは珍しく金髪で眼鏡をかけて酒を飲んでいるベニーだった。
「気にしなさんな。あだ名をつけるのが好きなんだよ」
 酒の入ったグラスを傾けて、ベニーは続ける。
「変わってるんだよ、彼は。二年付き合って分かったことは、タフで知的で変人だってことくらいだ。理解しようとしたって無理だね」
「どうも。あんただけ感じが違うな。前はどこに?」
「フロリダの大学さ。火遊びが元でマフィアとFBIを怒らせちゃってね。それで……」
「トランクに詰められて重し代わりにされるところをあたしが助けたって訳よ」
 銃をいじり、チャキンという音をさせてレヴィが言葉を引き継ぐ。
「クソ話さ、止しなよベニー。昔話するほど歳は食ってねぇ、そうだろ?」
 銃をテーブルに置き、の前に置かれた酒瓶を勝手に持って自分で継ぎ足し
「貴男に一杯、私に一杯♪ ってね。せっかく飲りに来てるんだ。もうちょいクールな話をしようや、なぁ日本人?」
 注いだグラスをカウンターに滑らせて、ロックに勝負を挑む。
「……これは?」
「ビールなんざ小便と一緒さ。いくら飲っても酔えやしねぇよ。男ならこいつ(ラム)だろ? まぁ女の勝負も受けられねぇ『玉なし』ってんなら……無理に、とは言わないけど。それならズボンやめてスカート履かなきゃね」
 シュルッという音がして、オカジマさんがネクタイを緩める音が響く。
「リボンもつけてダンスパーティに行って……?」
――切れたかな?
 そう思っただったが、次の瞬間オカジマさんが流れていったラム酒のグラスを一気に飲み干しタンッ! と少し大きな音を立ててカウンターテーブルに置いた。
――争いごと、嫌いなんじゃなかったっけ?
 はそう思ったが、ベニーが同じことを口にした。
「おいバーテン」
 そして、ロックとレヴィの声が見事にハモる
「「バカルディあるだけ持ってこい!!」」
アトガキ
ブラックラグーン
2025/11/25 up
管理人 芥屋 芥