Sky Lord
09.before theBlack
「暑い」月が真上にある。
九月の夜とは言え、暑さが抜けない南国の夜だ。
暑いものは暑い。
だが、そんな暑さなど物ともせず、ヘッドライトを付けた黒塗りの車がその門の前に横付された。
窓を開けて開口一番、サングラスを掛け黒髪をオールバックにし、黒のスーツを着た男が呆れたようにこう言った。
「よぉ、。お前、本当にガキの姿になっちまったんだな」
「まぁ……そっすね」
「で、肩の傷はそのままだって?」
「ひとまず、そういう風に見えてるだけで、完全に元に戻ったって訳じゃないです」
「そうか。まぁ、乗れ」
そう言われてドアが開き、は横付された車に乗り込んだ。
「ところで、張大哥」
「なんだ」
「よく俺が海軍特急便を使うってわかりましたね」
そう。
今回が選んだルートは通常のものではなかった。
空港だと、あの二人に張られている可能性があったため、海軍特急便を使ったのだ。
『荷物はお前か、』
『あぁ。頼む』
家から基地への到着までに力の使い方を学習し、再び『大人』になったが選んだ移動手段。
それが海軍特急便だ。
しかしそれをこの横に座る男、張維新にそのことを伝えていなかったため、ロアナプラまでは一人で行くことになると思っていたのだが。
どうやらお見通しだったわけだな、とは思った。
「あぁ、そんなことか。それよりも、どうなんだ? 少しはガキの姿に慣れたか? 」
「二日目、もうすぐ三日目ですが。まぁある程度は把握しました」
「そうか」
車内に沈黙が下りる。
話すこともなければ特に用事もないのでは黙っていたのだが、張と呼ばれた男の方はそうではなかったようだ。
「」
「なんでしょう」
「服を脱げ」
まさかそんな命令をしてくるとは思わなかったは、少し驚いた表情で張と呼ばれた男を見直した。
「今、ですか?」
「あぁ、今だ」
「……了解」
二度目の確認は無駄。
そう判断したが、来ていたTシャツを脱ぐ。
「後ろを向いて背中を見せろ」
そう言われ、言われるがまま男に背中を向ける。
「……か」
「旦那?」
男が何を言ったのか分からず、首だけで振り向こうとしたの体がビクリと震える。
指で傷痕をなぞるように触れられたからだが、男はそんなことに頓着せずに告げた。
「背中、キスマーク付いてるぞ」
「……あんまり見ないで下さいよ、張の旦那」
その言葉に、が脱いだT-シャツを張と呼ばれた男がバサッと投げて寄越す。
「着ろ」
「へいへい」
一体何の確認だったのか不明だが、正直言って背中に常時ある『MERCILESS』と浮かんでくる『AIRLESS』と本来の名前である『WINGED』の二つの名前があることくらい百も承知だろうに、とは思った。
「イエローフラッグでダッチと落ち合え」
と張の旦那が告げ、ひとまず
「了解。ところで旦那は?」
と返すと
「俺は家に帰る」
張がそう言って、再び車内に沈黙が下りた。
「ありがとうございます」
運転手と迎えに来てくれた張にそう告げたが車を降り、この街の中立店であるイエローフラッグに足を向ける。
今日泊るところは車の中で確保できたから、はそのまま店の中に入っていく。
すると、店のカウンターで男女が勝負をしているのが見えた。