Sky Lord
04.Drop my ears with you
 部屋に入ったはそのままシャツを脱いでダブルベッドに横になり、見慣れた天井を見上げる。
「……耳落とし、かぁ」
 まさか本気で自分が『落とされる』対象になるとは思わなかったが、AIRLESSの名前が彼、忍足侑士に移った以上、その言語闘争者であるに自分に拒否権はない。
 命令される側である以上、命令されたら応えなければならない、というのが名前の力だ。
 とはいえ、女役……で、いいんだよな? まさか襲う側か?
 複雑な胸中がを襲う。
「めんどくさ……」
 そう呟いたとき、部屋のドアが開いた。
――タイミングの良いことで
 そのままベッドに座る侑士に、が告げる。
「いいのか? 侑士」
「えぇよ。ずっと思ってきたし。抱く覚悟はある」
 その言葉の証明として、侑士が眼鏡を外している。
 侑士の眼鏡は伊達だ。
 それを知ったのは、出会ってしばらく経ってからだ。
 理由は『裸眼』つまり目を直接見られるのが恥ずかしいから、だそうだが、出会ったころからは、外してもあんまり変わらない気がする、とは思っていた。
 まぁ、本人の気持ちの問題だから黙ってはいたのだが、それを外すということは、つまり本気の証、ということかなぁとぼんやりとは考えた。
――それにしても、『抱く覚悟』……女役決定か……
 と、は思う。
「さよか……」


「キス、えぇか?」
「聞くな……んっ」
 キスは、どこかで習ったのか? と思うほど上手かった。
「……どや?」
「いちいち感想が必要か?」
 息が上がりそうになるのをなんとか抑えて一呼吸で告げる。
「言うたな?」
 挑むような侑士のキスに、の息が思わず上がる。
「……んぁ」
 モゾモゾとシャツの中に手を入れた侑士が体のあちこちを触りだし、唇が口から離れて首元から左の肩にかけて降りてきたところで、の体がビクリと震えた。
「やっぱ、ここ性感帯やん……」
「うるさ……ッ!!」
 唇を落とされ、思わず体が跳ねそうになるを侑士が抑え込んで、そのまま左肩に舌を這わす。
「侑……!」
 制止の意図を込めて名前を呼ぶが、侑士は止まらない。
 指をの体に這わせ、感じるところを探している。の体が反応すると、おもしろがるようにそこを重点的に触り始める。
「っあ……んっ……!!」
「……? ここか?」
 の肩口から顔をずらさず言葉を告げたために息が当たり、の口から苦痛とも、快楽ともとれる声が漏れる。
「っぁ……ひっ」
「感じてるも、えぇね」
――確かに……感じすぎだな。痛い……
 意識する左肩から背中にかけて、疼きが走る傷跡に思わず心の中で苦笑いする。
 疼くせいか、左腕から左手にかけて力が入らないようになってきた。
――久しぶりだな、この感覚……
 背中の中心部分まで一直線に入った刀傷は、快楽を腰のあたりまで響かせてくる。
 その延長で、直接下肢にも届くのだ。
「侑士……」
 男の体は快楽を偽れない。
 感じてきてることは、体が証明してくれる。
「感じてんの?」
 左手で下肢をまさぐられる。
 答えるのが悔しくて黙っていると、左の肩に直接舌を這わせられた。
「……ッ」
 は、はっきりと快楽を感じて背中を反らす。
……もっと感じて?」
――早く終われよ……
 そう願うが、侑士の手が胸の受けから脇、脇腹のあたりを繰り返し撫でてきて、たまに胸の突起をつまんで弄ってくる。
 予測できない手の動きに、の気持ちが付いてかない。
「……っあ」
「気持ちいい?」
「……ん」
 短い返事だったが、侑士はしっかりとその意味を受け取る。
――ほんと……妙なところで天才的に察しがいいよな……
 そして、仕掛けたのは侑士だった。
「名前、出すで?」
 正直『NoSign』であるAIRLESSが、しかもサクリファイス側の名前が『誰かに定着したところを見た』という者はいない。
 だが、今の侑士は名前を支配しているようにには映った。
 その証拠に、傷がないはずの右の背中が、AIRLESSの名前がある方の背中が疼き始める。
――名前、出たな……
 と、心のどこかに残る理性が考える。
の名前が出てるかどうかなんて、見んでもわかる。俺の糸はに繋がってる。わかるやろ?」
 ぼんやりとし始めた頭にスッと入ってくる侑士の声に、がゆっくりと頷いた。



 力の入らない左手と右手を侑士に掴まれて抵抗を封じられると、足を開くように『命令』される。
 侑士が名前を出してからの頭にモヤがかかったように思考が散乱し、体中を異様な快楽が襲ってくる。
――どう……いうイメージ……
 どういう想像でもって、侑士がこの状態を生んでいるのかには分からなかったが、それでも快楽の波が襲ってくる。
「んっ……あぁ!」
……」
 両足を大きく広げられて、足の間が晒されているその様子を、侑士がジッと見つめている。
「……ゆう……し?」
……咥えるで?」
「……」
 正直言ってイヤだと言いたいが『命令』されている以上、断れないは従うしかない。
 沈黙を了承と受け取った侑士が遠慮なく頭を下げる。
「侑……!」
「黙って」
「やッ!?」
 命令されたのと、咥えられのとが重なって、制止の言葉は声にならなかった。
「ん……んぁ……」
 侑士の口の中は気持ちよかった。裏筋をなめられ、先端を舌でクリクリと刺激されて、はビクリと体を震わせた。
 両手を握られて抵抗できずにいると、そのまま声を出すよう命令される。
「気持ちいいなら、声、出しや」
「ああ……あぁぁぁっ!」
 ぐずぐずに溶けていくような、そんな感覚に襲われただが、侑士は寸でのところでを開放した。
「……??」
 疑問に思って侑士を見ると、頭に付いている耳を触って確認している。
 その頭にはまだ耳が付いていて、落ちてはいなかった。
「危な。落ちるか思た」
 少し焦った様子で侑士が告げる。
 恐らく頭に付いてる子供の証である猫耳、通称『耳』が落ちかけたのだろう。
「……」
……いれたい」
 その言葉に、過去、一度刺激された奥が疼く。
 それ以前に耳が落ちていたにとって、アレが本当の耳落としの儀式だった。
 痛みで、でも気持ちよくて泣いた昔。
 でも今なら……
「……侑士の……好きにすればいい」
 の言葉にゆっくり頷いた侑士が告げた。
「指、入れるで?」
 と。



 ローションと指に慣らされた後、熱いものが入ってきた。
「あぁ……ずっと思ってきた願い、叶ったなぁ……」
 感慨深げにそう告げると、侑士は手を伸ばしての髪をサラリとかき上げる。
「俺さ、嬉しいねんで? 
「……」
 答えられずにいると、侑士が動いた。
 はじめはゆっくりだったが、次第に大胆になってくる。ずちゅり……という音を立てて、侑士のものが肉壁を擦り上げていく。その感覚に、の背中がゾクリと震えるのが止まらない。
――支配……されてく……
 今まで誰も捕まえなかった『NoSign』であるAIRLESSで支配されていくのが分かる。
――あぁ……こうなるのは……
 運命、という言葉で簡単に片付けたくないだが、なんとなく理解した。
「何考えてる?」
「……いや、なんもないよ」
「何も考えられへんようにしたる」
――何か考えてたことはお見通し、か……
 そう考えて、は感じることに、ただ、専念する。
 霞掛かった視界に映る、侑士の黒い髪……そして……の視界が弾けた。
 と同時に、ずるりとソレは落ちていった。
 まるで、いままで付いていたのがウソだったかのように、それは落ちた。
「あぁ……落ちた……」
アトガキ
忍足君の猫耳、落ちました
2025/10/11 up
管理人 芥屋 芥