Sky Lord
03.A little early gift
「ちょ……待て待て待って」
「何を待つんや」
「待ってって。俺はさ、さっき帰ってきて飯食ったの。ゆっくり休みたい」
 希望をが告げると、手塚と忍足二人の視線が鋭く絡み合う。
 それは、共同戦線を張る戦友の視線だった。
「なんや、そんなことか」
「そんなことって……」
――これだから体力有り余ってる高校生は!!
 はそう思ったが、言葉にならなかった。
 そんなの不満を見抜いたのか、仕掛けたのは手塚だった。
。預けて」
 光る糸が手塚から伸びて、の背中に伸びていく。
「ッ?!」
 の顔が、少し苦しそうに歪む。
「……国ッ!」
 痛いのだろう、テーブルに右肘を付いて背中を少し丸めて、右手でギュッと左肩を握っている。
「わかった……から……」
 少し苦しそうに了承の答えを出すに満足したのか、手塚が引いた。
「なら良いです」
 完治しているとは聞いていたが、まさか痛みが残っているとは知らなかった忍足が心配して声をかける。
「大丈夫か? 
「ありがとう侑士。ヘーキ。ちょっと痛むだけだから」
「ならえぇんやけどな」
 納得してない表情の忍足を黙らせるために、が話を元に戻す。
「……マジなんだな?」
「ですね」
「せやね」
 二人の回答にが小さなため息を吐く。
 本気でMERCILESSのサクリファイスである手塚に肩の傷を押さえられたら、痛みはこんなものじゃ済まない。
 傷口が開き、血が出る可能性さえあるのだ。
 それだけは避けたいは、半ば諦めの境地に至る。
――仕方ない。付き合うか……
 と。
「シャワー、浴びてくる。それとも先に浴びる?」
「先、どうぞ」
 答えたのは手塚だった。



「上がったよ」
 ジャージに黒Tシャツ姿ではリビングに現れた。
「次、浴びてきます」
 入る順番をすでに決めていたのだろう手塚が、浴室の方へと消えていく。
「それにしても、なんでそういう結論に?」
 侑士と二人きりになったが、リビングの椅子に座りながら尋ねた。
「まぁ、やりたいことはさっさとやっとかなアカン、っていう話や」
 正直、氷帝の『忍足侑士』の耳が落ちたら同校の女子生徒は黙ってない気がするが、そこは大丈夫なんだろうか、とは思う。
「ホントは四月まで待ってほしかったんだが……」
 がそう言うと、忍足が首を横に振る。
「受験もあるし、何より来月は誕生日やろ? ちょっと早いけどプレゼントや」
「俺がか?」
「そう」
「そう……か」
 タオルを首にかけ、少し水気の残る髪を放置するを忍足が指摘する。
「乾かし。風邪ひくで」
「わかった」
 そう答えるが、今まで一度も風邪などひいたことがないだ。
 が、それでも忍足の言葉を了承する。
 席を立ち、洗面台に足を向けてドライヤーを取り出して乾かそうとするその後ろから、忍足が声をかけた。
「乾かしたろか?」
「やってくれるのか?」
「もちろん」



 ドライヤーの音が部屋に響く。
「もういいか?」
「もうちょいや」
「わかった」
 手塚がシャワーから上がると、床に座ったがソファに座っている忍足に大人しく髪を乾かされているのが見えた。
「忍足、交代だ」
「お、上がったんか」
「あぁ」
 話してる間に、忍足がドライヤーを手塚に渡し、浴室へと消えていく。
「何か、話していましたか?」
 忍足が座っていたソファに腰を下ろし、の髪の様子を見て、大丈夫だと手塚は判断する。
「まぁな。なんでこの時期になったのかとか、そりゃ色々あるよ。俺としてはさ、来年の四月まで待ってほしかったけど、手塚はもう三月には向こうに行っちゃうもんなぁって思ってさ」
 そうだ。
 手塚はもう、来年の今頃は日本に居ないのだったなぁと、ぼんやりが考える。
「ですので、いい機会だと思ったんです」
「AIRLESSが侑士に移って、ちょっと焦った?」
 少しの沈黙の後、手塚が質問に答えた。
「前任者のだったなら、あなたとなんの関わりもなかったので良かったんですが、忍足は違いますから」
 小学生のときに、関西で関わりを持ったと聞いている。
 忍足があんなに心を開いて懐くのだ。
 何かあったのだろうことは予想できるが、実のところ手塚は詳しく知らない。
 ただ、テニスコートで出会ったことだけは教えてくれたので知っている。
 そこからの付き合いだと、以前話してくれたのだ。
――まさか東京に来てまで会うことになるとは思わなかったけど
 とは、の言葉だ。
「案外、国って心配性だよね」
「あなた限定です」
「俺だけ?」
「はい」
「それは、ありがとう、でいいのかな」
 自分の気持ちに不器用なが、一つ一つ確認するように手塚に告げる。
「はい」
 すっかり水分が抜けた髪を手塚がそっと撫でて、そのまま左肩の傷跡に持って行く。
……」
 体がビクリと震えるのを懸命に抑え込もうとしているの様子を、手塚は後ろからジッと見つめる。
「もう……あんな干渉はしないでほしい。傷開いたらどうしようかと思った」
「完治はしてるでしょう?」
 視線すら捉えるほど、敏感になっている肩に手を這わせる。
「まぁ、そうだけどね。それより、国。ほんとに良いのか?」
「構いません。ぐずぐずになったあなたを抱くのも、良いものだと思ったので」
「それはそれでエロいけど……二連続はほんと勘弁してほしいんだけどねぇ」
 が肩を落として、大きくため息を吐く。
「頑張ってください」
「善処する。ところで、ドライヤー使う?」
「使います」



 忍足が黒Tシャツと黒ジャージ姿で浴室を出るとはリビングで何かを開けて飲んでいて、手塚がソファに座ってドライヤーで髪を乾かしていた。
「何飲んでるん」
「水」
「さよか」
「部屋、先行ってる」
 コトリと持っていたカップをテーブルに置いて席を立つ。
 その後ろから、忍足が声をかけた。
「分かった」
アトガキ
忍足君と手塚君
2025/10/01 up
管理人 芥屋 芥