世界中を飛び回っている男の名前が、直接この携帯のディスプレイに出ることはほとんどない。
いつもは彼の部下だったり、関連会社の人間だったり。
それで事は足りるのだから、別に直接かけてくる必要性など、通常は皆無……
ということは、逆に考えれば、そんな男が直接電話を掛けてくるということは、とどのつまり、この先『厄介ごと』が待っているということに他ならないわけで。
ったく。
だからと言って出ないわけにはいくまい。
あの男との関係は、最早切っても切れない程の奥の方にまで根を張っているからな。
と、そこまで一瞬で考えた男が、たっぷりスリーコール置いて携帯の操作ボタンに触れた後、耳をあて、話を聞いた。
「ハロー?」
Inconsistencies Merchant
『よぉ。元気かな? 元気だな』と、相手の返事を聞かない自己完結型の話し方。というよりも、自分の名前を奴が覚えている時点で奇跡に近いか?
「なんの用だキャスパー。武器はこの前買った……」
『買ったばかりだろう?』というの言葉は聞き入れられず、遮られる。
『あーあー。今回はその件ではないよ、。実は、ある子供と取引をしてね。で、僕はそれを成功させなければならなくなったんだ』
相変わらずの自己中心的な電話だ。
とは思ったが、それ以上に驚いたことがある。
子供と取引しただと? あのキャスパーが?
相変わらず他人(ひと)に興味を最初に持たせる話術には感服するが、それにしても武器商と子供って。
何か接点でもあるのだろうか?
とは思ったが、恐らくロクなことじゃないと判断し、それでも話を聞く体勢をとった。
『興味が湧いたか? 湧いただろう、? 武器商人と子供。この絶妙なチグハグ感は、そちらじゃ考えられないものだからな。とはいえ、君は『知っている』からこそ安心できるわけだがね』
電話の向こうで、多分自分に酔っているのだろう独り言を延々キャスパーが言っている。
評価してくれているのは有りがたいが、かといってそちらに足を踏み入れるつもりのないにとって、そんな評価は無意味だったが。
「なんとなくだが想像はつくよ。で、そんな武器商人たる君が俺に直接頼みたいことっていうのは?」
用件を聞いた。
この時点で取引は成立したも同然だ。
『あぁ。孤児の世話を頼みたい。いつもの通りに』
電話の向こうで、少し真剣になった声で男が言った。
それで、ほぼ全ての内容が理解できた。
が、それにしても『そんな子供』がここに住むのか?
そう思ったは、電話の相手に質問を投げかける。
「キャスパー。最初に確認したいが、来るのは『本人』か?」
と。
また一人、増えるのか。
暗い気持ちとも、落胆の気持ちとも判断つきがたい微妙な気持ちがに芽生える。
が、電話の向こうの相手は至って明るい様子で
『まさか」
と一笑に付し、言葉を続けた。
『僕はそんな、素質をドブに棄てるような男でもなければ、『将来』などという不確かなものを提示されて呑むような男じゃないのは君も知っているだろう? 。本人には僕の妹の警護をしてもらうことにした。というより、それが条件なのでね』
答えるキャスパーの声は浮かれていて、そして妹という言葉には引っ掛かりを覚える。
――妹?
しばらく考えて答えが出た。
――あぁ、ココか。
と。
キャスパーの妹で、同じ武器商人をしているココ・へクマティアルのことか。と、は冷静に思い出し、考える。
それにしても、相変わらず妹には甘い男だ。
そうは思えど、口には出さない。
そしてそんな男が、その条件を子供相手に承諾したということは、その子供の能力を相当高く買っているということだろう。
まぁ、どうでもいい話だが。
いくつかの重点を抑えた簡単な話の後
「じゃ、報酬はいつも通りで」
という言葉を最後に、一方的に電話が切れた。
ッたく。
どこまでも自分勝手な男だ。
だが、それが許される男だ。
あの男、キャスパー・へクマティアルは。
だが、彼と話した後にいつも残る後味の悪さは、きっと相手が、いくら自分が嫌っていても、やはり必要だから握るものを売る『死の商人』だからか。
世界中にモノを運べる海運の巨人と言われる、ロイド・ヘクマティアルの実子。
そしてHCLI社の……
そこまで考えては考えることを止め、別のところに電話をかけ、先ほどまで話していた男の依頼を受ける準備を整えていく。
どうせソレを売らねば、彼等の商売は成り立たない。
そして自分も、握らなければ生きていけない。
握って、棄てて、買って、それの繰り返しでここまで来た。
結果救われた人もいるが、死んだ人間の方が遙に多い。
自衛のため、守るために、殺す。
ほら。
世界はこんなにも矛盾している。
銃は、規制されているはずのこの国にも溢れている。
普段は見かけないが、一度潜るとそこには常にある代物だ。
ほら。
あなたの後ろにも、撃鉄の音が、静かに……