ゲート内の物は、絶対に外に出しちゃいけなかったのに。
なんで出したんだろう。
ううん。
分かってる。
私には、あの人しかいなかったから。
In the Rain
その部屋にはホワイトボードに長机が二台置かれていた。その机にそれぞれ三人。合計六人がそこにいて、何かについて話し合っていた。
その時に出てきた『BK 201』と『CL Triple6』のという二つの名前。
この両方の星の持ち主が関与した案件、共々全てが未解決。
しかも、相手の死因も不明。どうやって殺したのか、その方法も能力も不明。
ただ分かっていることは、彼らが『契約者』であるということだけ。
当面の目標を、ゲート内の物を持ち出した女『篠田千晶』に狙いを定めて調査することにした。
中心人物らしき男が号令を下す。
それにより、会議は終了した。
「松本、河野の両名は女の捜索に当たれ」
「了解しました」
と、舜生が出かける前に思いついたようにに告げた。
それに「あー……忘れてた」と答えて、は彼にメモを渡す。
「ほれ、今回の任務で住むアパートの住所」
「ありがとうございます。ですが、このままここに?」
今回の任務は少し特殊だ。
いや、今回から少しいつものそれとは事情が異なる。
昼間は会社に行って働きながら夜は任務をこなすという、昼も夜も忙しい身となるのだ。
そんな舜生の問いかけにが「らしいな」と答えると、舜生はキョトンとした顔で
「なんで……ですか?」
と聞いた。
確かに隣人として住んでしまえば調査もしやすくなる、がそこに住み続けるとなるという話は聞いていなかったらしい。
来日するにあたって、働く場所が用意されるとは聞いていたが、まさか住む場所まで今回の任務で使った部屋をそのまま今後の任務においても使うことになることまでは聞いていなかったらしい。
「なんでって。そりゃぁお前、今回の件が終わって直ぐ引っ越せば反対に怪しまれるだろう? それにそこは何かと便利なアパートだから、身を隠すには十分最適なんだとさ」
と、まるで他人事のようにが組織からの伝言を届ける。
それに「はぁ……」と生返事をすると舜生は
「行ってきます」
と言葉を結んで、部屋を出るときに珍しく笑顔になったに「行ってらっしゃい」と送り出された。
渡された紙を見ながら舜生は住所をたどる。
ターゲットは現在偽名を使ってそこにいるらしい。
そして、舜生が女と遭遇できなかったときを考えて、黒猫のマオが顔を確認する手筈になっていた。
しかし、舜生を電気屋と勘違いした小柄ながらも元気すぎる大家のおかげで、部屋に案内されるのが遅れたために舜生は、部屋に案内された丁度その時に外に出てきた『原口』さんの顔を見ることに成功した。
これは想定外のことだったが、ここで自己紹介をしておくのも悪くはない。
それに、これから隣同士になるのだし大家の手前もある。
だから舜生は
「李 舜生(リ シェンシュン)です」
と自ら名前を名乗った。
まぁ大家が自分の名前を忘れていたからも、理由の一つだったが。
「必要以上に仲良くする必要はないからね」
と大家がしゃがれた声で釘を刺してきたが、これからこの女から情報を聞き出す必要がある場合は、『そう』することもあるだろうとヘイは思った。
『ターゲットを確認した』
とマオが無線を飛ばす。
「じゃ、もうそっちに任せるよ」
そう答えたのはだった。
『お手並み拝見と行こうか。黒の死神とやらのな』
突き放したように言うのはホァンだが、あの男のあぁいう物言いには慣れているし、別に誰も気にしない。
もまた、さして気にも留めずに作業を再開した。
――ほぉ……
と思いつつは目の前にあるパソコンへと手を伸ばした。
そしてキーボードを打っていく。
やがて、画面が思った通りの情報を吐き出し始めた。
「侵入成功……っと」
待ち合わせの公園で、さっきまでターゲットである女とキスをしているフリをしていたヘイに、木の陰からがそう言って現われた。
「あ、見てたんですか」
と、困った様子で言って振り返ったヘイの顔は『李 舜生』に戻っていたが、一瞬前までは恐らく『ヘイ』の顔だったことが容易に想像ついた。
「『あ、見てたんですか』じゃねぇよ、色男。は、置いといてだ。追加情報持ってきた。どうやら現在、彼女を追ってるのは警察だけじゃないようだ。眠」
と、最後は後ろに立っていたドールに視線を向けて告げると、少年の瞳が閉じてゆっくりと抑揚のない声で話し出した。
「追ってるのは一人と二人。一人の方は契約者で、二人の方は人間」
それにが補足という形で舜生に告げた。
「二人の方はさっきお前が撒いた方。だが、一人の方は向こうの組織のお仲間だ」
この言葉で、舜生から黒の死神の顔へと変わったのがには分かった。
人数が多くても、相手が人間ならば問題ない。
人が契約者に勝つには、それ相応の訓練と鍛錬がいる。
そして、さっきの男たちはそうじゃなかった。
しかし相手が契約者となると話は別だ。
おまけにその契約者が、ターゲットが接触していた男の仲間だというのなら、話は更に厄介になる。
だから
「ありがとうございます」
とだけ言うと、舜性は急いでそこから走って女を追っていった。
それを黙って見送ったは少年を振り返り
「さて、眠。腹減ったろ。メシでも食いに行くか」
と、のいつもより少し優しいような、そんな穏やかな声でドールを呼んだ。
「ヘイが、落ちた」
屋台を目の前にして、眠が立ち止まってポツリと言った。
すぐに空を見るが、彼の星は流れなかったので死んでいないことは容易に知れた。
そしては、さっきからずっとヘイを追跡していた眠に
「眠。もうすぐ雨が降る。後はインに任せて、お前は休め」
と言って席についた。
黙って眠もの隣の席につく。
屋台の注文はがした。
ドールである眠が、自分から何かを食べたいといった欲求を言うことは滅多にない。
こうしてが時々連れて食べさせなければ、何ヶ月も飲まず食わずだ。
ドールには、いろいろな種類がある。
定期的に食物だけは食べるもの、水だけで生きられるもの、何も食べようとも飲もうともしないもの。
感情を失ったときに何が残るのかは、元の人間それぞれによって出来上がり具合が不安定らしいというのがもっぱらの定説になっているが、眠は『不定期に』何かを食べさせなければ死ぬタイプだった。
そしてその見極めは、にしかできなかった。
「ヘイッお待ち!」
屋台でラーメンを食べた後、二人はゆっくりと歩いていく。
途中のコンビニではビニール傘を三本買い、それらを持って目的のところまで歩いていった。
そう呟いたのは、公園の池の水に足をつけていた銀髪の少女。
そしては空を見て、傘を開いた。
その直後、雨が降った。
雨音が自分の周りでしているのに、雨が自分に当たらないことを不思議に思ったのか、少女がゆっくりと周囲を見渡すように振り返る。
「誰?」
彼女は目が見えていない、盲目のドールだ。
「濡れるよ。銀」
そう言うと、インが少し頷いた。
「止んだか」
雨は上がり、傘を閉じそう呟いたに対し、眠が
「……動いた」
と言った。
「奴等か」
その問いに眠がゆっくりと頷く。
「イン。ホァンに連絡入れろ。奴等が近くまで来ていると」
というとゆっくりとインが頷いた。
そして、契約者は動き出す。