そこは、日々JAZZを愛する人たちが集う場所であり、また日ごろの疲れを話すことによって、好い音楽を聴きながら癒す、そんな空間。
Dolphin Street
Session'!
「え?Session'!
榊先生、来られないんですか?」
本番前日、ほぼ直前になって掛ってきた電話で、珍しくが驚いた声で電話口で話している。
「・・・はい。
・・・・・・分かりました。じゃぁ、ピアノは無し・・・で・・・はい分かりました。
ですが榊先生、そういうことは前日じゃなくて・・・」
「なんだって?」
と、ドラムのセッティングをしていたが携帯を閉じたに問う。
「いや…なんか、自分が出られないから、代わりの人に頼んだって。
で、その言葉だと、その人、火鳥先生っていう人らしいんですけど・・・先生、知ってます?」
「火鳥先生?・・・う~ん・・・初めて聞く名前だけど・・・で、その人がなんだって?」
「何でも、自分の代わりに当日先に店に入ってるから直ぐに分かるだろうって。
ちなみに、もうマスターの方には了解取ってるらしいですよ」
「榊先生の代わり・・・ですか。
その人、相当上手そうですね。なんとなく」
そう言ったの言葉は、どこか自信があって、は、同意するように返事を返した。
「やっぱもそう思う?
実は俺もそう思ってんだ。だって、『あの』榊先生の代わりだぜ?」
と言いつつ、楽器をネックにかける。
「じゃ、カウント、いくよ」
ドラムのセットを終えて、周りを一瞥してスティックを持ったが、促すようにソレを叩いた。
「そう。僕が火鳥竜介って言うの。
火の鳥と書いて『かとり』。で、名前に水を司る竜が入り混じってるヘンな名前だけど、よろしく」
彼は、初対面からそんなことを言った。
「はぁ・・・」
正直、驚いた。
というより、その言葉を聞いた全員が呆気にとられた。
これほど強烈な自己紹介の仕方があるだろうか・・・
そう思えるほどに、強烈だった。
それにしても、榊先生の知り合いっていうから、とんでもなく・・・その・・・豪華な人を予想してたんだけど・・・
なんていうか、その・・・正直どこで知り合ったのかも分からないような、そんな感じの30代の、至って普通の男の人だった。
で、そんな人から出される音は、やっぱりの予想した通り、凄かった。
っていうか、先生と火鳥先生が、ほんと、音で会話してんじゃねぇの?っていうくらいに凄かったんだ。
で、演奏が終わった反省会も撮ってたんだけど、ちょっとその様子、聞いてみる?
なんか・・・すげぇマニアックだったんだ。
この人。
「そう。
認知神経心理学っていうのやってるの」
奥まったところで、男はそう切り出した。
「心理学・・・ですか?」
「いいえ。
認知神経心理学・・・です」
と、言葉の後ろだけ理解できたらしいの言葉を再度訂正して、火鳥が言う。
「なんだか・・・難しそうですね・・・」
演奏が終わって片付けが済んでしばらくして、明後日から航海に出るからと、さんが先に帰った後、残った四人と火鳥が店に残って話している。
尤も、ととカイトはもっぱら聞き専だったけど。
「例えば、ボーカロイドのカイト君だっけ。
彼は、さんだけの時には一人称は『僕』に代わるよね。
あ、ごめんね。
さっきちょっと小耳に挟んだから、例に出すけど。
でも、もしかしたら、彼は機械だからそういう設定にしてあるのかもしれないけど、でも、それは僕も同じだから、その仕組みが分かるんだ。
つまり、相手によって一人称が変わる、その脳の認識と認知の違いとかを調べてるわけ」
「もっと詳しく言うと、『見える』か『見えない』かの違い。
ホラ、そこの壁に『見えませんか?人が居るのに』・・・っていう、霊脳者が『見ている』ものを、解析していこう・・・っていうことさ」
この人、マニアックだ。
というより、この語り口、誰かに似てる・・・
と、は火鳥の話を聞いていて痛烈に思った。
そう。
身近に居るじゃないか。
『専門』や己の好きなことを語らせると、止まらない人間が!
そう。
。
その人だ。
「ちょ・・・っと、アポロンの話になる前に、ちょっと質問なんですけど、いいですか火鳥先生」
口を挟んだのは意外にも。
「じゃぁ、さっきの水晶球の話で、勝手に脳が映像を作って、それを認識する・・・ってことは、見る人間によって『見え方』が違う。
つまり、百人いれば、同時にほぼ同じものが見える可能性は限りなくゼロで、最初に見た人間の情報が加味されることによって、最初に見た人間と
同じような像を、勝手に他の、後の連中が脳の中で作る。
だから、似たような認識が拡大解釈されて、どんどん広がっていく。そう捉えていいんですか?」
「へぇ。すごいね君。
端的に纏めたね。
でも、僕が扱う映像記憶というのは、もうちょっと踏み込んでいてね。
まぁ、それはこれから話すけど・・・」
この男、最後までトリックを明かさない気でいるようだ。
時に脱線し、時に本筋にフトした瞬間戻ってくる話し方は、よりも、数段上手かったが、将来はもこういう感じになるんだろうか・・・
というよりも、話がアポロン宮殿の話から占いに至るまで。
『結局・・・
その見えた映像をどう解釈するか』
ということ・・・らしい、とは結論付けたが、『ニンニク』が語る宗教論には興味を引いた。
だから後日、火鳥先生が勤めているT大にお邪魔して・・・
なんて思っていると、ガタガタッと音が鳴って、椅子が動いた。
「あれ?
帰るんですか?」
と、ステージがある方へ向かう二人と、何故かとカイトまでが席を立っていた。
そして荷物は、持っていない。
あぁ。
そう言えば、バタバタしててボーカロイドの曲飛ばしたんだっけ・・・
そう思い、カウンターの方に少し頭を出してみて見ると、残っているお客は関係者ばかり。
まぁ、少しは気楽か。
それに、『フロント』のボーカロイドが居るんじゃ、管である自分は裏に徹するだけ。
彼の歌唱力は、もう既に聞いて分かってるから・・・と、は静かに録音のスイッチをオンにした。