そこは、日々JAZZを愛する人たちが集う場所であり、また日ごろの疲れを話すことによって、好い音楽を聴きながら癒す、そんな空間。
Dolphin Street
the Cherokee
「じゃ、カウント、お願いします。」the Cherokee
が楽器を持って、に頼む。
そのカウントは、自分にとって少し速めのカウントだと思ったが、それでもなんとか、これならまだ付いて行けるなんて思っていたら、それが
一気に『倍速』になった。
「・・・マスターがカウントしたのは、『四拍目』のカウントだったのね・・・」
隣に座るメイコが驚いたように、呟く。
これ・・・ちょっと・・・
「メイコ・・・この曲の速さ、いくらで出た?」
CPUが勝手に計算して、速度をはじき出す。
・・・
・・・・・・四分音符・・・384・・・
メイコが、信じられないといった様子で、云ってくる。
「「・・・速過ぎ・・・」」
声が、ハモる。
しかも、その速さが少しずつ加速していっている。
一曲が終わる頃には、平均が390にまでアップしていた。
「ふう・・・疲れたぁ・・・」
ギターを置いて、が椅子から立ち上がり、アンプの上に置かれたペットボトルの水を一気に煽る。
「さん。さっきのは少し・・・速かったのでは?」
ベースを置いて、遠慮がちに言うのは。
「う~ん・・・なぁ、お前等で、平均どれ位出た?」
が扉のところに座っているボーカロイド二人に質問を投げかける。
何故二人なのかというと、今は夜の10時過ぎで、ミク、リン、レンの三人は時間切れだから。
それに、今は人が多いことも手伝って、がこの部屋に立ち入らせなかったけど。
そして、どうして僕たち二人がいるのかというと・・・
「えっと・・・前半の平均は384。
後半の平均は、更に上がって390って出ています」
答えたのはメイコ。
それを受けて、が感想を洩らす。
「ちょっと・・・『入り』が早かったか。
なぁ、君。もうちょっとカウント落す?」
顔をに向けて、それでも言葉では一応にも確認を取った。
「そう・・・ですね。
でも、当日のカウントを取るのはさんですから、どうなるか・・・」
「つまり、本番任せってことでしょ?
まぁ、速めのテンポで練習してても、損はなしってところですかね。先生」
の言葉を受けて、が結論を出す。
「まぁ、当日次第ってところが、怖いとろこなんだよねぇ」
と言いつつ、その表情は楽しそうだ。
「で、は選曲してきた?」
楽器をスタンドに立てかけながら、がに聞く。
「えぇ。春らしいのをいくつか」
と、ベース周りの片付けが終わって、奥から出てきたが答えながら持ってきたペットボトルのお茶の蓋をあけて飲んだ。
「お前、結構キッチリしてるよなぁ・・・」
といいつつは立ち上がって、部屋を出て行った。
そのあとは少しだけ練習のおさらいをして、この日は終えた。
そして今この部屋にいるのはとカイトの二人。
さっきまでここに居た人たちが全員下の階へ降りていく中、意図的に残った二人に、メイコは何も言わずに黙って部屋を出て行く。
僅かに与えられた、今、この瞬間のマスターとの時間。
それに少しだけ感謝して、カイトはゆっくりと口を開いた。
「マスター・・・あの・・・」
「まぁ・・・言いたいことは、分かるから。
よく我慢したな・・・くらいしか、言えないんだけど・・・な」
「マスタ・・・」
泣きそうになる。
だ・・・だめだぁって・・・
そんな・・・やざしいこと・・・いわれだら・・・
本気で・・・涙が・・・
「カイト。泣くのは、彼らが帰ってから・・な?」
僅かに低いの視線を、まともに受ける。
「・・・は・・・はい・・・」
そして、クルリと体を反転させてドアの方へ向かうの、少しだけ後ろ向きに差し出された手にカイトの手がゆっくりと重なる。
「マ・・・マスタァ・・・」
まるで、その手が宝物のように、ゆっくりとカイトは掴み、その肩に額を乗せた。
クシュ・・・
優しく髪を撫でるその手は、とても優しくて・・・
やっぱり・・・僕は・・・
「じゃ俺はと君を送って行くから」
そう言うと、三人は家から出て行った。
残されたのは、メイコとカイトのボーカロイド。
「じゃ・・・私はもう寝るね」
そう言うと、メイコがリビングからミクが眠る部屋へと足を向ける。
その後ろから、カイトが彼女に声を掛けた。
「メイちゃん・・・聞かないの?」
と。
その言葉に、一瞬だけ立ち止まった彼女だったが、それでも部屋へと足を進めて
「大体分かってるから。
でもカイト。
その場にもし私がいたら・・・きっと・・・」
そこから先の言葉は、メイコは言わなかった。
きっと・・・
を駅で降ろし、車内にはとの二人だけ。
「実際。
あの場にいたのが『KAITO』だから、言えた言葉ですけどね」
思い出したようにが言う。
「もしメイコだったら・・・止めてたよ」
それに答えたのはだ。
「その前に、言いませんよ。
ま、カイトが温厚な性格なのは知ってましたから」
「お前・・・確信犯か」
「それ以外に何が?
それと、今日は諦めますけど、明後日からの土日は泊まりますから・・・
あ、ここでいいです」
そう言って、がドアを開けて、降りた。
「じゃ、おやすみなさい」
そう言うと、彼は夜の闇の中へと消えていく。
その後姿を、バックミラーで見ていたが一言、呟いた。
「お前を法外者にはできないよ、」
と。