右腕に軽い怪我を背負った彼が言う。
「なんでもありゃせんぞ?」
そう言いながらも、夜一の顔は険しい。
その顔に何もいえなくなったのか、はそれ以降話し掛けてはこなかった。
隠し事
腕の傷、それはさっき対峙していた少し大きめの虚に一瞬の隙をつかれたのだから、それは仕方がないとは思う。そのあとキッチリと片付けたのだが。
そこまで怒らなくたっていいじゃん・・・と。
「ま、帰って晩酌の一杯でもして寝るわ」
そう言うと、そこから足早に去ろうとしたのだが・・・
何故か今日の夜一は変だった。
「待て、」
と、怪我をしてない方の腕を掴んで引き止める。
「なに。」
「少々、付き合え」
周りには刑軍の連中がいることくらい、も百も承知している。
だいたい、軍団長がこんなところに一人で出られる訳がない。
きっと虚を相手にしていた時も、『手を出すな』と命令していたのだ。
そして今も、『顔を出すな』と命令しているのだろう。
案の定、夜一が視線を一瞬だけ周りに送ると、気配が消えた。
いや、一人残っていたが・・・
「一人残っているようじゃの」
その言葉に、その最後の一人の気配も消えた。
「人払いとは・・・どうかしたのか?」
軍団長の警護隊が退くのだ。
恐らく内密な何か・・・があるのだろうと踏んだから話し掛ける。
しばらく、夜一は言葉を発しなかったが、やがてポツリと
「喜助のことじゃ」
と言った。
「兎に角、怪我をなんとか治さねばの~」
そう言いながら、酒を持ち、瀞霊廷の中を歩く。
「こんなのかすり傷だって、夜一よ~」
酔っ払って、千鳥足の二人。
夜もそこまで深くない道の真中で、その前に出てきたのは、
「何やってるんですか・・・」
という、呆れ顔の浦原喜助の姿があった。
「よ!喜助!元気だったか?」
と、妙にハイテンションのに浦原が怪訝な顔をするが、隣にいる夜一の姿を見てすぐに合点がいった。
元々酒はそんなに強くない彼が、そこまで酔っているのは・・・
「夜一サン、飲ませましたね?」
口を耳元で内緒話をするように、手を当てて言うと、
「ダメかの?ん?別にに酒を飲ませたらイカンという訳じゃあるまい?」
と、ニヤリとしながら言う。
明らかな確信犯、だった。
「お主がいつまでもグズグズしておるから、一肌脱いだのじゃ。光栄に思えよ?」
そう言うと、夜一サンはその場から消えた。
アタシの前で無法備な姿なんて、見せないでくださいよ。
「まぁ、お前は隊長だしなぁ」と言いながらも、座敷でゴロンと転がる姿にドキリとする。
「で、実際どうよ。」
「ん?興味ないですねぇ。実際、アタシには関係ないですから」
お茶を煎れるために炊事場に向かうアタシの背中を視線で追ってること、バレバレなんですが・・・
まったく、そういう気配は消す気ないんですね?
「お前に一番似合わねぇよ、色恋沙汰なんて・・・」
隠さずに言うサンに、ドキっとしました。
知らないでしょうね。
この気持ちを、隠しながらアタシはあなたと話していることを。
この気持ちを、ずっと、そう、死神になった頃から、アタシはあなたに隠していることを。
そして、これからもきっと隠しとおすことデショウ。
なぜなら、あなたがアタシの気持ちに気付くことはないでしょうから。
「そうですか?」
お茶を持って座敷に戻ると、死覇装を傷のあるところまで襟を下ろしていました。
あのー・・・
サン?
アタシに鼻血を噴けとおっしゃりたいんですか?
一瞬固まった浦原にが怪訝な視線を送る。
「どした?ボーっとして」
いあ・・・
見とれてたッス!って、言えません・・・よね?
「どうしたんです?傷ですか?」
何事もなかったように振舞え・・・てるでしょうか・・・
ちょっと自信ないです。
「あぁ。四番隊詰め所に行って応急手当はしてもらったから大丈夫だって。いやー、途中から夜一が加わってくれたから、助かったよ。」
そう言うと、置かれた湯のみに手を伸ばし、
「それはそうと、ホントに覚えてないのか?」
「知りませんってば」
「でも、向こうは覚えてるって、夜一から聞いたけど・・・」
この気持ちを、伝えることなど、できはしないでしょう。
伝えたが最後。
告げれば最後。
アタシは、あなたに気持ちを打ち明けることは無いでしょう。
その答えが、答えを聞くのが、アタシには恐怖なのですから。
虚と相対するよりも、自分が死ぬことよりも、あなたの口から、否定の言葉が出るのが怖いんです。
だから、隠しとおします。
・・・
唯一作った、あなたへの隠し事・・・
言ったら最後。
告げれば終わり。
何より恐怖だった・・・ハズ
お酒が入ってるからなのか、サンはやけに絡んできて・・・
アタシは少々イライラ気味。
だから・・・
言ってはいけなかったのに・・・
「アタシはサンが好きなんですよ?」
ハッとしました。
サンは、目を見開いて、アタシを見ていました。
その口から、否定の言葉が出るのが怖かった。
だから、塞ぐしかなかったんです。
「ん・・・ん・・・んんッ・・・」
腕を突っぱねて、体を離そうとする。
「ヤ・・・メロって喜助!」
手の甲で口を拭う。
その視線が、揺れていて、何を考えているのか読ませてくれない。
だけど、一瞬だけ瞳をつむったのを、アタシはハッキリと見ました。
そして・・・
彼の口から出た言葉に、驚くのです。
「知ってたよ。喜助」
「知って・・・たんですか?」
微かに頷くのを、アタシは見逃さなかった。
「知っててサン、アタシをからかってたんですか?」
「違う。」
「じゃ、一体なんです?知っていながら、見てるだけだった。アタシをからかって楽しんでたんでしょ?」
「違う!」
「じゃ、一体なんなんですか!サ・・・ン。」
風の流れるような霊圧に、圧倒される。
「話を聞けって。」
そう言葉を発すると、霊圧が消えた。
ふうっと、一息ついて、ゆっくりとが口を開く。
「夜一に、お互い一杯くわされたなー」
降参とばかりに、両手を天に向けて肩をすくめる。
「俺はお前が、まっとうに幸せになってくれたら、それでよかったのさ。だから、知ってるってことを隠してた。それだけさ」
コツン・・・と、背中を預けてくる。
その暖かだけでも、アタシは泣きそうになるのです。
「それでも、アタシはあなたが・・・あなただからいいんです。それだけ・・・なんです」
知っていながら黙っていたことと、知らないだろうと思っていて言わずにいようと決めていたこと。
でも、そんなものを隠して生きるより、吐き出してしまった方が楽になれることもある。
「ま、お互い様・・・っていうことで。なぁ、喜助。」
そこで言葉を切ったを肩越しに後ろを見ようとすると、
「とりあえず・・・」
そこでサンは眠ってしまいました。
こんな穏やかな寝顔を見せられたら、アタシ襲っちゃいますよ?
ホント、自覚あるんですかねぇ・・・
「喜助・・・お前昨日何をした!」
「なにって、そりゃーもう。あ~んなことやこ~んなことを、ちょっとだけ・・・ね。」
語尾にハートマークつけて話す浦原に、の気分は最悪になっていく。
「一体なにをしたんだ・・・お前」
「それは・・・アタシの、あなたへの隠し事ですよ。言えませんw」