と同時に、これは夢だということもまた、は思った。
夢で逢いましょう
あまり自分の好きな色じゃない、明るめの赤と白のチェック柄の長袖シャツを着て、は見覚えがあった。色素の薄い茶色の髪を肩まで少し伸ばして、白いシャツとジーンズ姿で、ペンキを塗っている。
(藍染?)
そう思ったが、声にはならなかった。
どうやら藍染はこちらには気付いてないようだった。
懸命に家にペンキを塗っている。
そして今、自分がいるところはこの家の庭だということに、その時初めては気付いた。
周りを見ると、色とりどりの花が植えられていて、後ろにはベンチとテーブルがある。
そして自分が今いるところは芝生があってという、現世で言うところのいわば理想の家らしき場所。
今ここで声を掛ければ、目の前の藍染は恐らくいや、確実に自分を見るだろう。
だけど、その後はどうなるんだ?
今藍染は自分の存在に気付いていないし、恐らくここから静かに立ち去ればきっとそのままで終わるだろう。
それに、藍染が本当の顔が今覗かせていないという保証は何もないんだ。
斬魄刀もない、霊圧・霊子もないこの世界で、ただの少年とかした自分と大人の藍染では勝ち目がない。
掛けるんじゃない。
そう思うけれど、夢の中の自分は彼に声を掛けていた。
「藍染?」
ヤメロ!
後ろから掛った声に、藍染がその手を止める。
そして、ゆっくりと振り返った彼の顔にあったのは驚きだった。
だけどそれは一瞬で、すぐに合点がいったような顔をした。
「あぁ・・・はハッキリと感じ取った。
コイツは、藍染だ。
冷たい瞳、冷たい視線。
恐らく、誰よりも自分が知っている彼だった。
思わず体が引く。
下がる自分に、ゆっくりと彼が近づいて来る。
ベンチに足が取られた瞬間を逃さずに、藍染が一気に間合いを詰めた。
刺すような冷たい空気をまとわりつかせながら、をその腕(かいな)に抱く。
誰も彼もが藍染を「優しい」だとか「温和」だとか、そう表現するが本当の彼はそんなんじゃない。
本当の彼は、「残酷」で「冷たい」
体が硬くなる。
「震えてるのかい?君が。らしくないね」
本来の声音で、だけど口調だけは偽りの姿を装っている藍染の口調で言う。
だから余計に不気味だった。
ゆっくりと、背中に回っている藍染の腕が動く。
「警戒してるだろう、君。体が硬いよ。硬ければ、柔らかくする方法を僕は知ってるよ?」
髪に顔を埋めて藍染が言った直後だった。
視界が反転した。
目の前には芝生の緑が広がって、自分が地面にうつ伏せに叩きつけられたことを知った。
お陰で体が痛い。
「ぐっ・・・」
普段なら絶対に出ないうめき声が出る。
どうしようもない力の絶対的な差を、まざまざと感じる。
ただの少年の自分と大人の藍染の、埋まらない差。
逃げようと伸ばした腕を、難なく掴むと地面に押さえつけた。
服の中で彼の手が這いまわる。
一瞬だけ、自分の部屋が見えた。
体が目を覚ましたのだ。
それでも夢は覚めなかった。
だけど、その一瞬で自分の現実にある体の状態までもが、夢の中の自分の意識にフィードバックする。
感じてる・・・自分の体が。
夢の中で嫌がってるのに、現実の自分の体は熱い。
その矛盾の感覚には混乱した。
気持ち悪い・・・
この夢は・・・変だ。
どこかが歪んでいる。
「どうしたんだい?あぁ、そうか。現実にある君の体の状態を見てしまったんだね。」
藍染が後ろからそう言った。
冷たい息が、耳元に掛る。
「ここは・・・どこだ」
擦れた声でが問う。
「夢の中だよ。本当は僕の夢。だけどその中に君が入り込んできたんだ。いわば君は僕の意識の中では異物。本来ならば入り込んではならない領域。」
藍染の夢の中?
どうして?
「さぁ。そればかりは僕とて分かるはずもない。同調したとしか言えないね。実に興味深いことだよ、君?そうすると、君の根は僕とほぼ同じということになるからね」
誰が・・・そう言おうとしたけれど、その言葉は悲鳴に変わった。
「さて、問題だ。僕は今君の中に指を入れているけれど、果たして何本入ってるかわかるかな?」
逃げようとするけれど、腰に腕が回され固定されて動けない。
「本当ならばこんなことを許すような人じゃないだろう?けど生憎ここは僕の夢の中だ。好きなようにできる。そうだろう?」
暖かい陽気の中、うつ伏せにされ後ろから指を入れられて、イヤだと思うのに、現実の体の熱も加わって・・・
頭の中がグシャグシャになっていく。
こんな状況には対処できない。
今まで他人の夢の中に入ったことなんて一度もないし、そんなこと聞いたことがない。
「さぁ、早く答えないと、指が君の体の中を『這う』よ?」
・・・這う?
「言っただろう?『好きなようにできる』って。ホラ、早く答えないから・・・這うよ?いいね?」
「ど・・・ういう」
言葉はそこで止まった。
体の中から支配されている、そんな感覚が襲ってきたのは。
目の前が真っ赤になり、全身が痛みを訴える。
ねっとりと、しかし確実に体の中から自分をまさぐっている。
・・・まさか・・・これが『指』?
「小さいところには、更に小さくして這っているから、すぐに分かるだろう?神経の一本一本まで巻きつかれる感覚はどうだい?」
耳元で囁く。
だけどの耳にはもう届いてなかった。
痛みでそれどころじゃない。
気持ち悪さを通り越して、吐き気を覚える。
今すぐ体の中に入ってる物全てをひっくり返して払い落としたいくらいに。
一体どうしたらこれがなくなる?
「ほら、僕の指何本入ってるの?君が答えないからこうなってるってこと、分かってくれないと困るね」
朦朧とする頭の中で、藍染の声が響く。
何本?・・・分からない。
だけど口は動いていた。
「三・・・本」
「正解」
途端指が引き抜かれ、体の中を這う感覚も消え去った。
そして腰がグイッと引っ張られ上体を起こされる。
「ほら、よく見て。君が悶えてる。」
顎を固定して、視線を逸らせないようにする。
目の前には何故か鏡があって、その鏡の中に写ってる自分の姿・・・いや、瀞霊廷にいる自分の姿がそこにあった。
何か言いたかったけど、声にならない。
その代わりに涙が流れた。
「なに泣いてるの?あれが今の君だよ。それにしても、体は正直だねぇ」
感心したように藍染が言う。
鏡の中の自分は、布団を握り締めながら、熱をやり過ごそうとして・・・それでも尚沸き続ける快楽に今にも埋もれそうに見えた。
体も熱く、息も荒いのがハッキリと分かる。
何故なら感覚だけがここにいる自分にフィードバックしてるから。
早く目覚めないと・・・このままじゃ体が狂う。
「さて、このまま君を帰すわけにはいかないよ。僕の方の処理、してもらわないとね?」
緑の芝生に、青い空。
景色だけ見れば平和そのものの世界が広がっている。
だけど・・・
息が荒い。
頭が真っ白になる。
それでも、どうにかしてこの苦痛から逃れたくて手を伸ばすけれど、何かを掴む前に藍染の手に絡め取られる。
何回、彼の精を受けただろう。
それすら、もうはっきりは覚えていない。
たがそれでも、藍染はいつまでもを解放しなかった。
気を失って、ぐったりとなっても、ずっとそうやって彼を抱きつづけた。
気がつけば、朝だった。
体は熱い・・・昨日の夢の影響か・・・
体は痛くないのに、何故か心が痛い。
『私とお前は同類だよ、君。また、夢で逢おう』
「誰が会うものか。」
そう言って否定するけれど、それでも、最後の藍染の、その言葉が頭の片隅からいつまでも、離れなかった。
それでも夜は訪れる。
青い空、緑の芝生に、家。
歩みを止められない、己の姿。
そして、掛ける声。
「やぁ。待っていたよ」