視界は灰色の中にあって、光と影の世界を交互に映す。
声を出すことは咥えさせられた手ぬぐいが許さず、周りを見渡すことは、その上にフワリと掛けられただけの白い羽織に遮られ、ただただ、与えられる感覚に身を任せるしかない。
体を引き起こされ、そのまま後ろから腕が伸びてきて体にまるで蛇か何かのように巻きついてくる。
背中に当たる市丸の胸が、異様に熱い。
逃れたい・・・
そう思いはしても、それでも、この体勢から逃れられる術は、今のところ・・・ない。
最後に嘲う者
息荒いなぁ・・・少しひんやりとするサンの手の平に自分の手の平を重ねてそう思う。
体の中心に熱がいって末端にまで血が周らない、なんとも血の気の少なそうなサンの性格そのまま現したような、そんな体してはるんやね。
なんて、そんなことを冷静に思いながらも、彼の着物の合わせのところから差し込んだその手は、止まらない。
今度は後ろから左腕を回して彼の顎を捉えると僅かに上向かせて、その熱を帯びた彼の瞳を覗き見る。
瞬間、怒りが彼の瞳の奥で光ったような気がしたが、それも直ぐに熱によって霞んでしまった。
「・・・ッ!」
声を出す寸前まで追い詰める。
顔を羞恥で真っ赤にして、声を殺すの顔は部屋の薄暗さをものともせずにはっきりと見える。
まるで、彼の髪から光がこぼれるようにして、その顔を浮かび上がらせているかのように・・・
同じ銀髪でも、こんなにちゃんやねぇ・・・
と、市丸は思う。
いや、自分の髪は名前の通り『銀』というよりも、白に近い色をしている。
この、今自分の目の前にある透き通るような、僅かな光でさえ反射する銀糸の髪とは大違い。
一本一本が細くて柔らかいその前髪を撫でるようにしてツイッと小さく引っ張るように触れていく。
壊したいような、壊したくないような。
まるで猫が、ネズミを壊さないように(殺さないように)壊れないように(死なないように)玩ぶその様を思い起こさせる。
時には優しく、しかし熱は相変わらず溜め込めこませたまま、市丸はの抵抗心を徐々に奪っていく。
服も、完全には脱がさない。
腰巻の布を軽く解いて、前をゆるくはだけさせる程度に抑えている。
それでも市丸には十分で、彼の感じる箇所だけを重点的に時にワザと外しながら、熱を上げていく。
「・・・ッ」
息が荒く、その瞳も熱に溶かされているだが、声だけは彼にとって重要な『何か』なのか、決して上げようとはしない。
或いは市丸に、自分から感じてることを示したくないだけなのかもしれないが・・・
その異変が起きたのは、市丸がしばらくの項に執拗に唇を寄せていたときに起こった。
それは、にも、そして市丸にも直ぐに分かるほど見知った人物の霊圧だった。
市丸はゆっくりと顔を上げ、この部屋の引き戸の方へと視線をやる。
も同様だったが、こちらは市丸とは違い明らかに動揺していた。
近づいて来る、その人の霊圧。
この階にいるのは、全員が十番隊の隊員だから。『彼』の用事の先が自分であってくれるな・・・
今までにないくらい、緊張した面持ちで廊下を歩いてくる人物がひたすらこの部屋を通り過ぎることだけを考える。
しかし、それを許さないとばかりに、市丸の手が動いた。
「・・・!?」
僅かに揺れる霊圧に、廊下を歩く人物の足音の何かが変わる。
市丸は、この部屋に結界を張っている。
だがそれは、隊員レベルの仲間を誤魔化すための簡単なもので、彼と同じ隊長格では通じない代物だ。
万が一部屋の引き戸が開けられたら、その違和感に彼なら直ぐに気がつけるほどのモノでしかない。
これ以上霊圧が揺れれば、引き戸の向こうに歩いている彼は、自分が起きていると気付くだろう。
そうすれば、確実に彼の用事は自分に回ってくる。
こんな真夜中に、わざわざ眠っている隊員を起こしてまで用事をさせるくらいなら、元から起きている隊員を彼なら使うから・・・
気付かせるわけにはいかない。
扉を開けさせるわけにはいかない。
だけど、後ろに居る市丸はそれを許さないとばかりに、を除々に追い詰めていく。
声も出せない、霊圧も眠っている時のように震わせることができない状況。
いや、声はなんとか押さえられるが・・・この男(市丸)・・・こんなところを彼に見られたら一体どうするつもりなのか・・・
真意が読めない。
相変わらず薄ら笑い表情をその顔に貼り付けて、そして自分の霊圧は完全に消して、それでも動く。
翻弄されるのは、少年に見える恐らく山本総隊長と同じ位の年月を生きているであろう、銀髪の隊員。
廊下を歩く彼の足音が、明らかにこの部屋の前で止まる。
――あけるな あけるな・・・開けるな・・・
呪文のようにそう思い、それに呼応するかのように心臓が早鐘のように打っている。
緊張で、常ではほとんど出ることの無い冷や汗が全身から出ているのが自分でもわかる。
体の中はこんなにも熱くなっているのに、表面は緊張で冷えきっている。
その落差に、思わず体が震えるのを止めることはできなかった。
「、起きてるのか?」
引き戸の向こうから、この部屋の主を呼ぶ声は正に彼で。
その時を待っていたかのように、市丸の手が動いた。
「?!」
思わず息を呑み、出そうになった声を寸でで止める。
そしてその手を止めようとして彼の手に重ねるが、緊張と悦楽が体の中で混ざりあった状態で手に力が入るわけもなく、ただ添えられるだけになってしまった。
まるで『動かしてくれ』と言っているかのように、の手が市丸の手に重なる。
止めようとしたのに、端から見れば誘っているような彼の手に市丸がニヤリと笑う。
声も出せない、霊圧も動かせない。
緊張が体を冷えさせ、悦楽の熱が体の中を駆け回る。
先ほどから噛んでいる唇はもう、噛みすぎて痛みの感覚がない。
それでも手放せない意識に、はただ、泣きたくなった。
「アレー?そこに居るのって隊長ですかぁ~」
深夜にそぐわない、底抜けに明るい声が引き戸の向こうから響いてくる。
この声・・・松本?
何故彼女がこんなところに?
市丸も、どうやら彼女の登場は予想外だったらしく、驚いた様子でその手が止まる。
「松本・・・
お前こんな時間まで何やってんだ」
と、隊長の声が呆れた様子で響く。
「え?さっきまで飲んでたんですけど、ソイツ等とかくれんぼして遊んでたら、隊長がここに・・・
って、ここの部屋じゃなぁい。もしかして隊長・・・」
と、後半は明らかに『ニヤニヤした松本』の表情が思い出せるほどの声音が響く。
だが、それは流石に日番谷が止めた。
「お前なぁ。
少し手伝って欲しい用事があったから、起きてる者はいないかと思ってここに来ただけだ。
『かくれんぼ』をする程に時間があるなら、お前に手伝ってもらってもいいんだぞ?」
と、部屋の前の引き戸でそんな会話をさせている。
「こんな深夜にお仕事なんて、お肌が荒れちゃうわ」
なんて、冗談半分の声音の松本の声が聞こえ、それに答えたのは盛大な日番谷のため息だった。
「・・・松本」
「はい?」
「手伝え」
「はぁい」
やけに素直に松本が従うということは、日番谷の顔が相当怒っていたか、何かしていたか。
それは、戸を挟んでいるため分からなかったが、なんとなく想像がついた。
二人の気配が去ってしばらくして、市丸再び動いた。
部屋の薄い壁一枚隔てて、こんなにも違う。
彼らがいた廊下はいつもの十番隊舎なのに、自分の部屋はねっとりとした熱を帯びいて、まるで違う世界のようなそんな感覚さえ生まれさせる。
その落差に、目の前が真っ暗になる。
部屋の闇に囚われているのは自分で、逃げ出したいと思っていても体は動かない。
市丸の胸に背中を預けて、ただただ彼から与えられる快楽とも苦痛とも呼べる衝動に動かされている自分は一体なんなのか。
分からない。
分からないまま、市丸が動く。
それでも、意地になって声だけは出さない。
体が反応していることは十分分かっている。
だけど、それは・・・ッ!?
頭が真っ白になる。
その瞬間、何か冷たいものが頬を伝ったが、それが何なのかの頭が理解するより早く、緊張と快楽まみれになった体が休息を求める。
トス・・・
そんな静かな音をさせて、の体が市丸の方へと倒れこむのをソッと受け止めてやる。
意識を失いながらも、まだ息が荒いの耳元に顔を近づけて、そして、小さく言う。
「ゴメンナ」
その時の市丸の表情を見た者は、やはり、誰も居なかった。