熱が出て動けないに、卯ノ花はそう静かに告げた。
背負い人
「状態は?」天井を見上げて静かに問う。
「刀で、胸を一突きされた状態でした。運ばれたときにはもう、既に手の施しようもない状態で・・・」
伏し目がちに言う卯ノ花に、
「逝去された・・・」
と、が続きを言う。
「えぇ」
認めた卯ノ花に、「そうですか・・・」と静かに言う。
「これもまた、旅禍の仕業なのでしょうか。隊長が殺されるほどに、彼等は強いと・・・」
卯ノ花の言葉を、は黙って聞いている。
「旅禍が来てからというもの、瀞霊廷全体がどうもおかしくなっていってますね。これは何か」
「そうですね」
彼女の言葉を遮る形で、天井に向けていた視線を彼女に移して、が言う。
その瞳に何かの意思を、卯ノ花ははっきりと感じ取った。
「それでは、さん。お大事に」
そう言って、去ろうとした卯ノ花に後ろから声が掛る。
「卯ノ花隊長。わずかでもいいんです。何か、違和感を・・・彼の遺体から感じ取ってくれますか?」
振り返った卯ノ花を真っ直ぐに見て、が言う。
「違和感・・・ですか?」
それは、彼女が僅かに気圧されるほどの意思を持った瞳だった。
そしてそれは、彼の『隊長』としての言葉だった。
「はい。」
「どういう・・・ことでしょう」
訳がわからずに卯ノ花は戸惑う。
それでも・・・と、卯ノ花は思う。
彼は、何か大きくて重いものを背負っている。
そのことに、私は気付いていた。
だけど、彼はそれに私たちが触れようとするたびに、スッと笑顔でそれを隠してしまう。
まるで「見てはダメだよ?」とやわらかく、だけれど硬い意思でそう言われているかのようだった。
私より、はるかに長い歴史を歩んでいる隊長に、私はあえて最初に思ったことだけを疑問として聞いただけで、それ以降はなにも言わなかったし、彼からも何もなかった。
余計なことには一切触れずに、本当に最初に思ったことだけを・・・
だからこの人は、その質問にはかなり素直に答えてくれたと、私は思う。
「どうして、私にあなたのことを教えてくれたのですか?」
そう聞いたときに彼から返ってきた答えは
「だって卯ノ花隊長、僕の太極印、ご覧になったでしょう?」と、柔らかな笑顔でそう答えた。
自らの霊圧の封印
普段は第零段階の封印で、ほとんど霊圧が『ない』状態を指すのだと、そう教えてくれた。
「自らで納得しなければ、答えにはたどり着かない。これは、全てを疑ってみて初めて見える答え。全てが虚像・偽り・虚ろ。それが指す一つの答え。されど、それは偽っている者達が巧妙に隠している答えでもある。」
「偽っている者・・・達?」
どういうことなのか。
今『者達』、つまり複数いることを、この人は言った。
「はい」
「複数いる、そういうことでしょうか」
「言葉通りの意味です。それともし、僅かでも構いません。違和感を感じたら、我々が信じているものや、絶対的に安全が確立されているものや場所に・・・行ってみてください。」
分からない。
彼が何を言ってるのか。
彼は、一体何を知っているの?
一体何を背負っているの?
「僕がこの状態ではなければ、事態は今すぐにでも解決できます。旅禍の問題も、藍染の問題も。だけど、今僕は動けない。故に、事態が急速に動いているんです。」
僅かに悔しさが滲む声で言う。
最後の言い方に、卯ノ花は目を見開く。
まるで、誰かに「動けなくされている」かのような言い方を・・・
疑問をはさみたかったけれど、彼の「急いでください。時間はありません」
という言葉に、何も聞くことができなかった。
だから私は、そのまま部屋を出るしか、なかったんです。
誰もいなくなった部屋で、一人になってしばらく経った頃、の声が響く。
「このままでは、全て水の泡になってしまう。事態を見越して一応の先手は打たせてもらったけれど、それが効くのはこの先のことに関してなんだから全く言葉もないよ。こちらで抑えるはずの僕の今のこの状態を考えると、向こうの方が上手だったね。」
『主上・・・』
ベッドの脇に置いてある斬魄刀が、具現化して答える。
『藍染が殺されたって?だったら何故緊急回線でこちらに内偵を頼んでこない?今までならば、絶対にあり得ないことだよ』
隊長クラスを脅かす存在の脅威に対して、四十六室が緊急回線を使って何も言ってこない。
いや、四十六室は最初から零番隊の隊長として指名したに対して、何も言ってはきていないのだ。
だからすぐにには分かってしまった。
-四十六室は、既に殺されている・・・と。
『はい』
『そうなると、地獄蝶を使った四十六室からの伝令は全て彼らから・・・という結論になるね。』
『その事実しか、残らないかと思います。』
の思考考察は更に続く。
『旅禍が来てからというもの、日ごとに早くなっていく処刑の日付。これは、旅禍達が彼らに迫っていることを意味する。 もしかしたら、焦っているのは向こうも同じなのかもしれない。だから朽木ルキアの処刑の日がどんどんと縮められているんだ。』
『はい』
『全く、ホント。僕も腕が落ちたねぇ。ごめんね、森羅光玉』
深い反省と、自戒を込めた謝罪だった。
『いえ・・・あなた様に謝れれば、私はどうしたら良いか分からなくなります。』
困ったような顔で、森羅光玉が答える。
それに対しても、困ったような顔で笑った。
だけどすぐに真剣な顔をして、
『ごめん。でも、正直言って悔しいんだ。誰も彼もが藍染に踊らされている。まるで盤上の駒のように、それぞれ己が選択している方向が、実は藍染が引いた道だなんて一体誰が信じるだろうか。この瀞霊廷で恐らく真実を知っているのは僕一人だけだけれど、僕だってこうなっている以上は、藍染に踊らされている何よりの証拠だよ』
だからと言って、もし旅禍に会えば何もいえない自信は・・・ない。
引っ掻き回しているのは向こうも同じだから。
藍染が、動きやすいように動いている。
事実、彼らが来た故に藍染が『死んでも』、問題は後回しにされているのが現状だ。
本来ならば、こんなことは在りえないことだ。
だけれど、それが今現実として後回しになっている。
誰もが旅禍を捉えることで躍起になっていて、『五番隊の隊長が殺された』ことすら知らない死神だって大勢いる。
「悔しいなぁ。」
『主上・・・』
本当に悔しそうに天井に視線を向ける。
『あの時、藍染の鏡花水月が中途半端に掛ったからね。体が、この病室を出ようとしてくれない・・・全く、困ったものさ』
降りようとすると体が暗示に掛った状態のために、熱が出て倒れる。
只でさえ降りようと思っている、今すぐにでも動きたいと思っていることでも体が反応し、微熱が続いている状態だ。
「どうしたもんかな」
恐らく自分のこの状態が解かれるのは、少なくとも藍染が自分の『勝ち』を確信したときだろう。
それまでは自分は動けない。
だと言って、無理に卯ノ花を言いくるめるようにはしたくなかった。
何故なら彼女もまた、あの催眠に完全に掛っているから。
だから自分にできることは、彼女自身がこの問題の本当の部分に気付くしかないと思ったからこそ、あえて全ては話さなかった。
こうしてる間にも刻一刻と迫っているのに・・・何もできない自分が歯がゆい。
と、は心底そう思った。
「涅と、誰かが戦ってるね・・・」
静かに言う。
懐かしい霊圧を感じて、僅かにの顔が歪む。
「これは・・・」
そうか。
じゃ彼は、宗弦お孫さんだね。 竜弦は、ここには来ない。
だけどその息子ならば、ここに来てもおかしくない。
そうか・・・
だけど、さっきも霊圧の衝突があった。
あれは朽木隊長と、知らない霊圧を持つ誰か(恐らくこの人が旅禍だろう)と、夜一だった。
そういえば近くに浮竹の霊圧も感じたような・・・
どうなっているのか、まだ見えない。
まだ分からない。
だけど・・・
僅かに感じる霊圧で、事態がどのように動いているのかがなんとなく分かる。
それでも、止められない自分が悔しいと、は思った。
「気が付きましたか?」
次に目が覚めたのは、夜?
「あ・・・あの・・・」
目の前に卯ノ花隊長がいてびっくりした。
「あのあと、無理をなさったのでしょう。熱が出て酷くうなされていましたよ?」
「そう・・・ですか」
天井から彼女に視線を移してが言う。
「とうとう、本日。朽木ルキアさんの処刑の日程に最終決定が下りました。明日の正午です」
「な・・・に?そんな、急に?」
驚いてそこからの言葉が出ないに、
「えぇ」
と卯ノ花が答える。
「それと藍染隊長のご遺体ですが、やはり違和感は感じません。」
これ以上、死者を詮索してもどうしようもないという風に卯ノ花は言う。
だけども、は食い下がった。
「お願います、卯ノ花隊長。もう少しだけ・・・どんな些細なことでも構いません。こればかりは、ご自分で気付くしかないんです。」
この言葉に、朝は分からなかったの思いが、今ならなんとなく分かる。
気付いてほしいのだ。
本当のことを。この私に・・・
「分かりました。もう少しだけ探ってみます。ですが、一体何があるんですか。この事態の裏に、一体何が。」
何かを隠している。
私自身が気付けなければならないことを、恐らく喉元まで出かかっているその言葉を、この人は必死で抑えている。
そして、それがこの人が背負っている、とても重くて重要なものだということも。
「朝の僕の言葉、覚えてますか?」
「はい」
覚えている。
-嘘、偽りを行うものが、それを隠している。
それを言うと
「もう一つ。『全てを疑ってみて初めて見える』とも言いましたね。僕が藍染の死体に、あなたを『あなた自身』で答えを見つけさせようとしていることと、非常に関係しています。そのあとに、『我々が信じているものや、絶対的に安全が確立されているものや場所』にも重要な今回の謎を解く手がかりがあります。」
「まるで、謎々のようですね。あなたは、一体何を知っていらっしゃるのですか。」
問うと、静かに答えが返ってきた。
「藍染の、本当の顔です。」
いつもの隊長ではなかった。
いつも、フワフワしていて、笑顔で・・・あの人の周りだけなんだか時間がゆっくり動いているような、そんな感覚をいつも感じていたのに・・・
「答えを見つけたとき、恐らくあなたの中で今まで点にしか見えていなかったこの事態の本当の姿が一本に繋がるはずです。その最大の手がかりが「藍染の遺体に、あなたが感じる違和感」にあります。こればかりは僕がいくら言っても信じられないことでしょう。ですが自分で納得された答えならば、あなたなら動くはずです。時間はありません。急いでください」
言葉が反芻する。
もしかして、一番彼の持つ答えに近いのは、私?
全てを疑え・・・あの人はそう言いました。
最後あの人は、藍染隊長に、『隊長』とつけなかった?
「卯ノ花隊長、そろそろ・・・」
「わかりました。」
やっと、分かった。
何故・・・一本につながるのか。
本当の反逆者が誰なのか。
あれほど答えに近いことを言われながら、それでも・・・僅かにあの人を疑っていた。
気付いたそのときに、彼が背負っているモノの大きさに、私は初めて気付きました。
「さん、やっと・・・」
病室を覗くと、そこに彼の姿はなく、忽然と消えていた。
「・・・」
恐らく、動けるようになったのでしょう。
手遅れかもしれません。
ですが・・・
少しでも、事態が良い方向に進みますように・・・