「エレン、お前は上をやれ」
 布でマスクをしたリヴァイが指示を出す。
 ホコリっぽい建物が、潔癖のリヴァイにとって許せないものだった。
 まず窓をバタンと開けて空気を入れ替える。
 一部屋、二部屋と納得するまで清掃し、三部屋目の窓を開けたときに降りてきたエレンから声が掛かった。
「上の階の清掃、完了しました」
 と。
 リヴァイが振り返り、さらにエレンが質問を投げてくる。
「オレはこの施設のどこで寝るべきでしょうか?」
「お前の部屋は地下室だ」
「また……地下室ですか?」
「当然だ。お前は自分自身を把握できてない。お前が寝ボケて巨人になったとして、そこが地下ならその場で拘束できる」
 そこで一つ呼吸を置いて、リヴァイは続ける。
「これはお前の身柄を手にする際に提示された条件の一つ、守るべきルールだ」
「……」
 沈黙が下りるが、それを破ったのはエレンだった。
「……でも……昨日は……」
か? アイツなら心配ない。昨日はブレードを部屋に置いていたはずだ」
 そう言われ、確かにベッドの傍にブレードがあったのをエレンは思い出す。
 軽い雰囲気だったため見落としていたが、よくよく考えると、彼はやることはやっていたのだ。
 話を切り上げるように、リヴァイが告げる。
「お前が掃除した部屋を見てくる。ここをやれ」
「はい……」
Attack on Titan
10.The Order
 カツカツという靴音を立ててリヴァイが階段を上っていく。
 動かないエレンの後ろからペトラが声をかけた。
「失望したって顔だね」
「はい?!」
「珍しい反応じゃないよ。世間の言うような完全無欠の英雄には見えないでしょ? 現物のリヴァイ兵長は……思いの外小柄だし、神経質で粗暴で近寄りがたい」
「いえ……オレが意外だと思ったのは、上の取り決めに対する従順な姿勢です」
「強力な実力者だから、序列や型にははまらないような人だと?」
「はい……誰の指図も意に介さない人だと……」
「私も詳しくは知らないけど、以前はそのイメージに近い人だったのかもね。リヴァイ兵長は調査兵団に入る前……都の地下で有名なゴロツキだったって聞いたわ」
――ゴロツキ……
「そして、何があったか知らないけど、エルヴィン団長の元に下る形で調査兵団に連れてこられたと」
「団長に!?」
 驚いたエレンだったが、話はそこで終わってしまう。
 リヴァイが戻ってきたからだ。
「オイ……エレン」
 ビクリと体を驚かせたペトラが箒を床に撫でらせる。
「は……はい!!」
「全然なってない。すべてやり直せ」
「は……はい」
 急いでエレンが上の階に向かっていく。
 それを見送って、リヴァイが窓に目をやって
「ペトラ、お前はこのままここをやれ。俺は少し出てくる」
 と言った。





 井戸水を桶に汲んでいるエルドと話すを見つけて、リヴァイが声を掛ける。

 そして、エルドに対しては汲んだ水を持って行くように指示する。
「エルド、上の階にいるエレンの手伝いをしてやれ」
「わかりました」
 そんなエルドの後ろ姿を見つめて姿が見えなくなったころ、が口を開いた。
「昨日振りです、兵長。さっきエルドにも言ったんですけど、団長の計画伝えますよ」
「あぁ」
「団長は30日後に大規模壁外遠征を申請し、受理されました」
「随分急だな」
「新兵とエレンも連れていく予定です」
「……そうか」
「あと、これは兵長だけに教えることなんですけど……」
「なんだ」
「今回、エレンは囮というか、まぁ、囮です」
「……」
「超大型か、鎧かのどちらか、もしくはそれ以外の意識ある巨人が出た場合は、捕らえる予定です」
「そうか」
「ですが、超大型の出現は遠目からでもわかるため、現れるとしたら俺は鎧かそれ以外だと考えてます」
「それは……エルヴィンにも言ったのか?」
「まぁ、あの人も同じ考えでしょうね」
「そうか」
「その時が来ましたら、ひとまず臨機応変に対処お願いします。とりあえず、古株の団員にしか囮のことは伝えてないので、内密にお願いしますね」
「……わかった」
「犠牲者、出るでしょうね……今回も」
「……だろうな」
 風が吹き抜ける。
「俺も、いつ死ぬか……」
「テメェは死なねぇよ」
「それは分かりませんよぉ」
 ヘラリと笑うを見て、リヴァイが腕を伸ばす。
 そのままの頭を引き寄せて、触れるだけのキスをしてすぐに離れる。
「死ぬな、これは命令だ」
「へいへい」
 軽い返事をしたが、空気を入れ替えるように告げる。
「とりあえず、数日間はこちらでエレンのことよろしくお願いします」
「分かっている」
「それじぁ、失礼します」
 そう言って帰ろうとしただが、思いついたようにリヴァイを振り返る。
「あ、そうだ」
「なんだ」
「今日の夜あたり、ハンジさん来るって言ってましたよ」
「わかった」
アトガキ
死ぬなという命令
2026/02/21 up
管理人 芥屋 芥