「なぁ、日本を背負うってどんな感じなんです?」
甲板でいきなり聞いてきた片桐さんに、俺は一瞬何を言ってる?っていう顔をしてしまった。
「だから、日本を自衛官として一尉は背負ってるわけだろう?どんな感じなんだろうなって思ってさぁ」
困った顔が出ていたのだろうか。
「いやいや、俺は民間だからさ。公人として、どうかなって思っただけだから」







久々に出た甲板で、ラッタルを昇ろうとして声を掛けられた。
「話しませんか?一尉」と
時間が空いていた俺は、軽い気持ちで答えたわけだが。
別に背負っているとかという気持ちは・・・
あぁ、前に尾栗三佐が言っていたっけ。
『日本を守るってデッカイじゃないか』って
でもそれは自発的なもので、背負っているという意識はない。
背負う・・・
「別に、背負っているとか、そんな意識はないですね。」
「う〜ん。やっぱりもうちょっとキャッチになりそうな答えが欲しいねぇ」
「キャッチって。こんな時代に来て、こんな事態になったっていうのに、仕事熱心ですね」
「まぁね。書いてないと落ち着かないからさ。で、どうなの?実際」
いや・・・
と言い直して、
「どうだったの?実際」
言われて困った。
俺が自衛官になったのは、日本を守るとか背負うとかの意識とは全く逆の・・・
ひどく自己的な理由からだからだ。
考えあぐねていると、
「片桐さん。一尉、ちょっと借りるぜ?」
ヒョイと、腕を引っ張られて通路に引きずり込まれてそのまま進んでいくその人の後姿は
「ちょっと。何するんですか尾栗三佐」
慌てた俺に、三佐は振り返って
。片桐さんに言ってないだろうな。」
唖然とは・・・
こういうこと言うんだろうな
「言ってませんよ。言う訳ないでしょう?どうしたんです?」
本気で訳がわからない。
どうやら用事があるわけでもなさそうだし。
だとしたら考えられる理由としては
「いや。言ってないならいいんだ。」
「三佐・・・もしかして嫉妬しました?」
「な?!」
核心を突いてしまったな。これは
小さく息を吐くと、
「別に子供じゃないんですから。」
腕を振り解いて三佐を見た。
「尾栗三佐、あんなことで一々嫉妬しないでくだい」
冷徹な俺の瞳が目の前の三佐を射抜くのが分かった。
「わかってるさ。だけどな、やっぱり面白くないんだよ。悪かったな」
ため息が出た。
「ま、いいですけど。」
片桐さんには悪いことしたな。
そう思って戻ったら、片桐さんはもうそこには居なかった。
、もし同じこと聞かれたら、『日本を守るってデッカイじゃない』って言っとけよ?」
「それ、あなたの受け売りでしょ?」
「そうだけどさ。しかしこんな変な事態に、日本も何もあったもんじゃないって、思うけどね。実際」
「生きてる。それだけで今は十分です」
「だな・・・」
遥か未来に、俺たちの存在する日本があるのか、それは俺にもわからない。
だけど、生きて、そこに存在するのなら、それは幽霊なんかじゃない。
「じゃ、二直ですのでもう行きます」
「おう。」
通路に出ると『補給長』の顔に戻って、後ろを振り返ると尾栗三佐は、月をずっと見上げていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「いつも美味しいとこ取りだな康平は」
「まったくだ」

アトガキ
2017/07/16
17777Hitで何かしたかったんだと思います。
2017/07/16 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥