「未来を知ることが、どんなことなのか・・・草加少佐、あなたは耐えられますか?」
それは、一尉・・・つまり我々の時代の大尉にあたる者からの最終警告だった。
時間
「草加は少佐だ。粗相のないようにな」
本当は士官室係が水を持っていくんだろうが、それは補給長自らが持っていったほうがよかろうという艦長の判断で、今の目の前には資料室の扉がある。
この向こうに、にとっては過去、の人である海軍少佐がいる。
それだけでも普通では考えられない事態だというのに、その少佐が見ている資料は、彼にとっては未来の出来事であり、現在彼が知っていい情報ではないはずだった。
 
 
しかし・・・アスロックの発射を見られた限りは、この後をどうするかを決めるのは、俺たちの判断じゃない。
艦長は角松二佐に一任しているようだ。
「どうなりますかね。あの少佐」
柳生士官室係りが洩らした声をが聞き逃すはずがない。
「さぁな。少なくとも物資は日々なくなっていることは事実だから、これをどうするかどうか・・・だよ」
「・・・そうですねぇ。」
 
 
補給科としては、生活物資の補給が困難な状況をどうするのか
それだけだ。
それだけをとるならば、現在の帝国海軍に協力をしつつこちら側の補給を確保する。
士官室で尾栗三佐が言ったことには賛成だ。
だが菊池三佐の言ったことのほうが大事だとも思う。
ま、一介の一尉でしかない自分がこんなところ・・・補給科詰め所でうだうだ考えたところで答えなどでるはずもないと、は自覚している。
あとは上が、あの三人と艦長が決めることだ。
そんなところに、艦橋から声が掛った。
 
 
水差しくらい曹士に任せればいいのに・・・
 
 
そうは思っていても、できるだけ接する人間を少なくしようとする上の判断なのだろう。
それに、補給科の曹士は若い連中が多い。
もし洗脳されでもしたら・・・
そう危惧する声も、上から(恐らく菊池三佐だろうと踏むんだが・・・)出たらしい。
 
コンコンッ
返事はなくても扉に手をかける。
「失礼します」
昔の訓練を思い出しながら、水差しを机の上に置く。
あとはもう『失礼しました』を言って出て行けば終わり。
そう思って扉のノブに手を掛けかけたところで、後ろから声が掛った。
「君は・・・」
まさしくにとっては予想外の言葉。
思わずその手を止めて、振り向いてしまった。
「君は、私がここに・・・いや、違うな。この先の歴史を知ってしまうことを、どう思っているのかな?」
椅子を回転させてこちらを見る草加少佐。
 
 
何かを・・・宿してるな、この人は
 
 
自分の直感がそう告げる。
この手の感覚は今まで外したことはない。
「未来を知ることが、どんなことなのか・・・草加少佐、あなたは耐えられますか?」
「それは、警告のつもりかな?」
「どう捉えられるかは、少佐にお任せしますよ。ですが、ここから先のことは、恐らく海軍少佐たるあなたには・・・」
「海軍少佐草加拓海はもうあの海で一度死んだ、私はそう認識している。」
「ですがあなたは、今ここで生きている。認識と現実は、違いますよ」
そう言うと、少佐の顔に真剣さが宿った。
「そういうあなた方はどうなのかな?時間を飛び越え、遥か未来からやってきたあなた方こそ、この時代には・・・いや、この『時間』には合ってない存在だと、私は思うのだが?」
「それは・・・」
言い返す言葉がない。
自分の方がよほどこの時代には不自然な存在なのだと・・・
帰る術を持たない俺たちに、では一体どうすればいいのか。
教えてほしいのは俺たち・・・なのだ。
「今この時が、一刻一刻と俺たちの居た時間から外れていってるのは、その原因は恐らくその最初にあるんだと、思います。」
タイムスリップといものが、もし存在するのならば、並行空間もまた存在するはずで。
今進んでいるこの『時間』は、きっとその並行空間の一つなのだと、そう思えて仕方がないのだ。
そして、いつか・・・
向こうの並行空間といつか・・・また出会える・・・
そんな希望がの中にはあるのだった。

 
 
 
 
補給長、補給長、至急備品庫に来て下さい。繰り返します・・・』
突然掛った艦内放送につい
「行かなければ・・・」
と言ってしまい、自分が今呼ばれている補給長だということを草加に教えてしまった。
「補給長?君が?」
意外そうな顔をする草加少佐に
「それでは失礼します」
と、半ば無視した形をとって資料室から退室したは、慌しく廊下を走り備品庫へ向かって行った。
 
 
 
資料室では草加は
「手始めに、補給物資の確保から、やらなければならんかな・・・」
と独り言を言って、資料をめくり始めた。

 
 
 
 
ここから彼がジパングへ第一歩を踏み出したことを、この時まだ誰も知らない。
アトガキ
テーマが結構曖昧だった 035: 時間
まぁ,石原っちの講義の回でもよかったんだけれど。

 
なぜか草加の選択の辺りの回を選びました。
それにしても,草加初めて書いた割には結構・・・やっぱりつかみ所がないヤツですねと・・・改めて再認識しました芥です

2017/07/16 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥