キラキラと揺れる水晶に、思わず手を伸ばした。
水晶
「?どうしました?」
不思議そうにこっちを見るに、つい悪戯心が芽生えてしまう。
「うりゃ」
と言って、首に掛っている皮ひもを無理矢理引っ張ると頭が俺の目の前にきた。
その表情は、少し不満そうだ。
「やっぱ綺麗だよな」
思わず出た本音。
だがの顔はしかめっ面だ。
「ハァ?」
と、思わず地が出てたりする。
「いや、ちょっと見せてくれ」
そう言うと皮ひもを首から取ってくれて、俺はその先で光っている水晶を蛍光灯にかざしてみた。
 
 
 
 
自然な形を、そのまま自然に皮ひもで括ってあるだけの水晶。
その先端は尖っていて、加工されたモノとは全然違う、ごつごつしたものだ。
「お前、こんなもん何処で見つけてきたんだ?」
そう言うとノートから顔を上げて、
「近くの石屋で譲ってもらったんですよ。」
と言った。
オイオイ、こんなとこに石屋なんてあったか?
なんて思ったが、その顔に「返してください」なんてあからさまに出てたから、
「今度教えてくれ。なんかこれ見てると欲しくなってな」
と、かざしながら言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
それにしても暑い。
冷房がないの部屋で、俺は扇風機の前でうだってる。
一緒に来た雅行は、買出しに行くと言って、出て行っていない。
多分この暑さに耐えられなかったんだなと、俺は踏んでるんだが・・・
「尾栗一尉、お願いですから扇風機独り占めしないでください。俺だって暑いんですよ・・・」
その抗議の声を完全に無視して、出来上がったノートと解答を見比べる。
「問二、間違ってるぞ。あぁココもだ。」
それにしても、こんなんで候補生の試験受かるのかね。
少々不安だが、だが確実に正解数は上がってきてる。
「じゃ、もう一回だ。」
ゴロンと転がって扇風機の恩恵を一身に受けていた俺は、いつしか寝てしまっていたようだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「確かに、いい方法だな」
「こうしてると、色々落ち着くんですよ」
ん?
何が『いい方法』で誰が落ち着くんだ?
「ん・・・どうした?」
目覚めきってない頭をどうにかこうにか上げて見てみると、机の向かいに座ってるハズのの姿がない。
不思議に思って頭をめぐらすと、の後姿と、恐らく帰ってきたのだろう、雅行の後姿が目に入った。
二人でなにやら覗き込んでいる。
「どうした?」
そう声を掛けると、雅行がこっちを見た。
「起きたのか。」
「あぁ。どうしたんだ?二人して」
四つん這いで二人がいる方へ行くと、洗面器が・・・
 
 
 
 
 
その中にあったのは・・・
 
 
 
 
 
「なんで、水晶入ってるんだ?」
と、思わず指をさして言ってしまった。
「なんでって、入れたからだ。」
呆れたように言う雅行に、
「なんで入れるんだ?」
そういうと、雅行は一息ついて
「お前も見るか?」
と言った。
 
 
しばらく洗面器見てて・・・
その中から泡がポツポツと・・・
これって・・・
言葉が出なかった。
初めて見た光景。
水晶から泡が出る」なんて・・・
「スゲェな」
思わず言ってしまった。
見とれてると、雅行が立ち上がって台所に向かって行った。
が慌てて、「俺がやりますから」と追いかける。
その瞬間に俺の周りに吹いた風の冷たさに、俺は驚いた。
だがそれは一瞬のことで、また次の瞬間には蒸し暑さが戻ったけれど。
 
 
 
 
 
「じゃ、がんばれよ」
「自己管理には、くれぐれも」
そう口々に言って、俺たちはの家を出た。
アパートの二階から階段を降りきったところで、俺から口を開いた。
「なぁ・・・さっきの・・・」
「康平。が、本人が知らないところでそのことは言うな」
「じゃぁ・・・」
「もう何年の付き合いになると思ってる。分かってるさ」
「そうか」
しばらくお互い黙っていたが、今度は雅行から口を開いた。
「知ってたのか」
「・・・まぁ。少しはな」
「そうか。」
「でも意外だな。分かってて付き合うなんて。」
「俺は、がどんなモノを持っていようと、アイツの人格まで否定したくはないからな」
真っ直ぐに俺を見た、雅行の視線。
「そか」
揺らがない瞳に、少し安心した。
のヤツ、一発で受かるといいな」
話題を変えようと、ワザと明るめの声を出して言うと雅行は、普段護衛艦に乗ってるときとは別人のような優しい瞳になって、
「あいつなら、なら受かるさ」
と、言った。
アトガキ
ちょっと後半崩れてますけれど。
なんか,お題っぽくないけれど・・・069の眼鏡同様・・・
ま,いいか」と思うのです。
2017/07/16 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥