LOM
「ゆっくりできましたか?」
目がさめると、なぜかの姿がそこにはあった。
「あぁ。ところで今、何時だ?」
「0230です。それと、艦長が気を利かせてくれましてね。食事、もってきました。食べますか?」
「では」
去ろうとした彼の腕を、いや正確には手を思わず掴んだ。
掴まれたの顔は逆光で見えなかったが、それでも困惑してることが雰囲気から察せられた。
だが、それ以上に困惑していたのは菊池の方だった。
「どうしたんです?砲雷長」
その言葉にハッとなり、手を離す。
「あ・・・なんでもない。ありがとう」
しかし、相手の言いかけた言葉を見抜けないでもない。
「この際です。全部吐き出したらどうですか?」
厳しい目をして、そう言った。
「そういうところは、康平以上だな」
小さく息を吐いて、観念したように言う。
「そうですかね」
「あぁ。あの二人にはいえないことでも、お前なら言えるような気がする、そんな感じだな」
「なんですか、それ」
ハハハと、言葉を冗談と受け取っては本題を切り出した。
 
 
 
 
 
「実感がないんだ、俺には。」
ベッドに座って、後ろ手をついて話を聞いている。
狭いベッドの中じゃ、それくらいしか話を聞く体勢をとれないからだ。
「見ていたのはワスプの光点だけ。それが消えたということは、つまりは沈んだということだ。 だが、俺には実感がない。この手が数千の命を奪ったなんて・・・」
は、黙って話を聞いていた。
「蚊を殺したほどの実感もないんだ。わかるか?」
手の平を見つめながら言う菊池に、そしてその手が震えていることには気付いた。
「俺は・・・」
言うべきかどうか、迷った。
これはあの二人には話せないこと。
分かっている。
これは、こいつに逃げているだけだ・・・と
だが、話してしまいたいと思っていることもまた事実だった。
そして、それをぶつけられる相手が彼なのだということも
 
 
 
 
 
出合って七年
初めは尾栗から始まったことでも、これだけ長い付き合いになるとは最初は思っていなかった。
気難しい菊池が、これほど長く交流を持てた相手はあの二人を除いては皆無に等しい。
その中で、いつも上手い具合に立ち回ってくれるは、今やもう精神的なよりどころだ。
康平とは全く違う、言うなれば正反対。
あいつは、肝心なときには何も言わない。
黙って、ただひたすら黙って話しを聞いてくれる。
だがこいつは普段口数が多いほうじゃないが、その言葉の中で相手にとって一番必要な言葉を引きずりだす。
そして溜まった膿を全部吐き出させて、それを一緒に流してくれる。
人の膿を、まるで当然のことのように・・・
しかも、それが天然でできるのだ。
 
 
 
 
「ちょ・・・うわぁ」
自分に向けて置かれていた、体を支える腕を無理に引っ張り込んだ。
バランスを崩したところに体を上に引っ張り、押さえつける。
「菊池三佐?」
が驚いた瞳を向けるが、だがこの想いに嘘は付けなかった。
「どうしたんですか?」
下になったが、心配そうな顔をして言ってくる。
、聞いてくれるか」
この言葉は、単なる保険。
「大丈夫ですよ。ちゃんと聞きますから。」
それでもまだ、迷いはあった。
ここで軽蔑されたらと思うと、思うように言葉が出ない。
「何泣いてるんですか。ま、話したいと思ったら話してください。」
 
 
 
 
 
「・・・俺は、ワスプが攻撃を中止させないことに、僅かだがホッとした。トマホークを、無駄にせずに済むという、感情だ。」
 
 
弾薬の補給は、絶望的。
そう言ったのは、紛れもなく俺だ。
主砲はなんとかなるだろうが、SM-2・ハープーンといった、電子機器を搭載した武装は、この時代では影を踏むことすら不可能。
そして、CIWSのフルメタルジャケットも製造は不可能だと・・・
だからか。
弾薬の節約を考えたのは!
 
 
 
「この手で数千の命を奪うことへの恐怖。そして、その裏に感じたことがある。尾栗には言わなかったが・・・」
独白が続く。
そしては途中から、この不安定な三佐が何を言いたいのかわかってしまった。
「わかるか?ボタンを押しただけで数千の命が吹っ飛ぶ。そして・・・絶望を与える。だがそれと同じくらいの・・・」
聞きたくなかった。
だが耳を塞ごうにも腕は上から抱き込まれているため動かせない。
ならば!
「やめてください。そんな言葉聞きたくありません!あなたは、分かってるんですか?それを認めてしまえば、本当の殺戮者になる。だから認めないで下さい。俺は、あなたからそんな言葉なんて聞きたくありません!」
 
 
 
 
初めて、『聞きたくない』と言ってしまったことを後悔した。
だが、彼が言いたいことがなんなのか、そして俺が聞きたくないと言った『内容』が、恐らく間違いじゃないということは分かったはずだ。
規則正しく動く背中に、腕を回してポンポンっと軽く手をやると、腰に周っていた腕に力が篭った。
 
 
 
「どうよ。様子はって雅行、寝てるのか?」
ドアを開けて入ってきたのは、尾栗航海長だった。
「へぇ、やっぱりお前、人を安心させるのは上手いな。久々じゃねぇの?雅行のこんな安心した顔は」
覗き込んできた航海長に
「そんなことよりも、この状況どうにかしてくださいよ」
「いいじゃん、抱き枕でさ。今離したらコイツ絶対怒るぜ?」
「航海長・・・楽しんでます?」
「そりゃなぁ」
悪びれる様子もなく、話に乗ってくる航海長。
昼、背中でしんみりしていた人とは同一人物とは思えない。
「どうした?」
急に黙っただが、声を掛けられて慌てて返す。
「いや、なんでもないです。航海長も、もう休んでください。俺はこのまま寝ますから」
「あぁ。ま、色々ありがとな。じゃ、おやすみ」
扉が閉じた後、おもむろには口を開いた。

 
 
 
 
 
「起きてますね?菊池三佐」
アトガキ
はい。3に続きます LOM う〜ん適当に付けた題名だったのに・・・
なぜかLongOverMotivertionってそんな大層な題名の略語となってしまった・・・
そして,『3』は・・・裏行きと相成りまして候。
アニメジパを見て,強烈に感じたことをただ書きなぐっただけとも言う。
2017/07/16 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥