LOM
上で火災が発生してる。
艦全体が揺れたのと、その直前にあった艦長の指示で何かが突っ込んできたというのは理解した。
そして、自分の部屋であったところが火災により被害にあっていることも・・・
 
 
「予備応急班は至急02(マルフタ)甲板に上がれ!応急班、班員編成消火に当たれ。」
「艦内の破損状況知らせ!」
「負傷者の集計を取れ!!」
怒号が飛ぶ。
21世紀では、訓練以外じゃ絶対にありえない状況だ。
 
 
慌しい時間だった。
艦内の破損状況を調べるためと、救助・消火のために走り回る。
「補給長、医療班から連絡です。」
「分かってる!そんなことより消火しろ!ってお前、血出てるじゃねぇか」
「こんなの、かすり傷ですよ。それより救助に行ってきます。」
恐らく応急班の誰かだろうが去っていった方向を見て、それから自分も走り出す。
止まってなんか居られない。
 
 
「医務長、何か足りないものがあればドンドン言ってくれ」
当然分かっていたことだが、『ここ』が戦場となるときは一つしかない。
そして、その重みは十分に理解している。
衛生員が要求を言ってくる。
それを一つ一つ頭の中に叩き込む。
 
 
「航海長・・・」
艦橋に上がって愕然とした。
SPY-1レーダーが、ごっそりとなくなっている。
こんなんじゃ、修復は・・・
頭を殴られたような衝撃を受けながら、視線を前に移したとき
「なっ?!」
目の前を、轟音を発しながらトマホークが飛んでいった。
「砲・・・雷長?」
自分が、信じられないといった声音でそう洩らしたのを、どこか他人事のように聞いた。
前甲板から飛んだトマホークから、しばらく目が離せなかった。
そしてそれは、艦橋にいた全員がそうだった。
ただ一人。航海長を、除いては。
 
 
 
大方の状況が読めてきた頃、頭の方も冷静になった。
と同時に周りの空気に臭いがついているということも、感覚が理解するようになった。
そして、それに耐えられない者も出てくるということに。
「大丈夫か?」
「補給長。自分は、血の臭いはだめなんですよ。」
真っ青になりながら、今にも倒れそうになる体を支えてやる。
「分かったから、少しでも余裕が出たら持ち場に戻れ。兎に角今は弱音を吐くな。わかったな!」
「・・・了解しました。」
こう言うものも、後を絶たない。
だけど今、死者も出た状況で弱音を吐かせるわけにはいかなかった。
 『常に強くあれ』とは言わない。
だが、ここはまぎれもない戦場であり、弱いところは見せられない。
 
 
 
着弾するまで30分
飛んでいったトマホークのことが頭の隅から離れない。
その時間がとてつもなく、永遠に長い時間だと思わせるような、そんな時間だった。
そして、その後に起こりうるであろうワスプの惨劇も
 
 
不意に、昔言われた言葉が頭の中に木霊する。
なぜそんな話になったのか、経緯は忘れたが
『例え合法でも、人を殺すのは、いやなんだよ』
そう言って苦笑した菊地三佐の顔が急に浮かんでは、消えた。
ならば、なぜトマホークを?
ガンッ!
一発だけ、壁を殴った。
手がひりひりと痛み出したが、そんなことはどうでも良かった。
 
 
 
 
 
 
『対空戦闘用具収め』
『対空戦闘用具収め、良し』
『第三直哨戒員残れ』
艦内放送が終わってしばらくして時間がきて、は自室に上がった。
上がったところで、火災によって焼け、消火によって水浸しになった部屋しか残ってはいないが。
それでも色々とやるこがあるはずだ。
それでなくても、補給科・機関科の応急班・及び工作班にとってはこれからが戦場と言ってもいい。
 
 
 
「医務長、すまんな」
部屋から出てきたところを偶然通りかかった。
「いえいえ。私も砲雷長のこと心配してましたから。また何かありましたら言ってください」
そう言うと足早に医務室に戻っていく彼女の背中を見送って、ドアが吹っ飛んだ自分の部屋の前に立った。
一尉、ちょっと・・・いいか?」
 
 
 
 
呼ばれて入った尾栗三佐の部屋だが、重い空気が流れいた。
なぜなら尾栗が口を利かないから。
も、あえて自分から口を開こうとはしない。
そのことが、一層部屋の空気を重くしていることなど、百も承知である。
だが、いつまでもこうしている訳にはいかずは小さく息を吐くと、
「用事がないようでしたら、失礼します」
 
 
 
 
 
立ち上がり、後ろを向いたところを引っ張られた。
あまりの突然なことにバランスを崩しそうになって立て直そうとするけれど、それ以上の力で引っ張られたものだから、そのまま後ろに倒れこんだ。
「なにするんですか。航か・・・」
「黙れ」
低い声だった。
恐らく、昔使っていた声音なのだろう。
自衛隊に入る前の、声。
「俺は、止められなかった。あいつの決断を。信念を」
「・・・航海長は、トマホークの時動じてなかった。知ってましたね?」
「あぁ。CICに行って、雅行を止めるつもりだった。だけど・・・止められなかった。
 お陰であいつは、余計なものまで背負っちまったんだ。」
張り飛ばしてでも止めるべきだったのだ。
だが、仲間がやられたのは己の判断ミスだと言い切った。
その時の瞳の強さを、自分はハッキリと見た。
あそこまで背負うと覚悟した人間を、止める手段を自分は持たなかった。
だから洗面所で縋られたとき、何もいえなかった。
言う資格がないと思ったし、何を言っても慰めにもならないことも分かっていたから。
ただ俺たちと違うのは、その流れた血を見たかどうか・・・
だよな。
、しばらく雅行見てやってくれ。きっと今回は俺たちだけじゃフォローできないと思う。」
周ってる腕に、力が篭った。
「分かりました。ところで、いい加減離してください。」
「イヤだ」
即答で返事が返ってきた。
「三佐!」
・・・頼む」
弱々しい声で言いながら、額を背中に当ててきた。
三佐の体が震えてるのが分かった。
そして、恐らく心の中で泣いてることも。
これほど、自分の観察眼が恨めしいと思ったことはない。
そして尾栗三佐も観察眼がいいほうだから、俺が気付いてることも知ってるのだろう。
こんなところで探りあいをやっても意味がない。
だからは、息と共に体の力を抜いた。
 
 
 
 
「満足ですか?」
「あぁ。ありがとな」
「では、失礼します」
の背中が、俺は一番居心地いいと思うぜ。」
「七年前もそう言われた記憶あるんですがね。ま、いいでしょう」
「んじゃまぁ、ゆっくり休め。」
 
 
 
 
 
 
「それにしても、今晩からどうしようかな・・・」
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
部屋が復旧するまで、俺・・・艦内宿無し?
アトガキ
シリアス路線で最後これかい!
ジパング最初のSSだと思います。
2017/07/16 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥