夜の炊飯室
飯長の仕事場たる炊飯準備室に定時に向かうと、炊飯長が廊下に出ていた。
一尉。倉の鍵、どうぞ」
「ありがとう炊飯長。」
毎日の飯の準備は、おそらく戦場以上に戦場だろうと炊飯長を見てるとつくづく思う。
一尉、一直のあと来ませんか?夜食用意してますよ」
思わず掛った声には足を止め振り返って
「貴重な食料になんてことするんですか・・・」
と呆れたように言った。
「ま、出港記念ってことで、航海長と今夜飲もうってことになりましてね」
はぁ・・・あの人は一体何考えてるんだか。
「それで夜食の準備ですか」
「そういうこと」
「で、補給長の許可を貰ってからと航海長が言ったんでね」
そう言ってニヤリと笑った。
ぐ・・・
意地でも共犯にするつもりかあの人は・・・
「どうしますか?一尉」
ニヤニヤしながらいう炊飯長にしてやられたとすごく後悔しているである。
 
 
 
あっという間に過ぎた出港前準備
運び込まれた食料品の中にお酒が混じっていたのを、それをが見て見ぬ振りをしていたのを、あの航海長はちゃっかり見ていたのだ。
船倉にまであの人は出没するのかよ・・・
と、大きなため息をついて肩の力を抜くと、
「分かりました。一直が終わったときにここで」
と言い残して船倉へと消えた。
 
 
 
 
小銃の数が減っていないか、冷蔵庫(通称 倉)の温度確認・・・
旧海軍で主計科と言われていた補給科の主な仕事は、『食料管理と金庫番』なのだから、この艦の経済事情がの肩に掛っているといっても過言ではないし尾栗三佐が艦橋部分を走り回る航海科なら、補給科は船底(ボトム)を走り回る科であるとつくづく思う。
海曹だった時に色々な科に回されたが、その時から補給科とは相性というか・・・仕事がしやすかったように思う。
科員の報告を受けて命令を出す。
巨大な冷蔵庫の入り口を見上げながら、は思う。
このまま、何事もなく過ぎ去ってくれ・・・と
出港前からいやな予感がする。
まるで自分が・・・

一尉、交代です。」
いきなり目の前に来た科員に驚きながらも、それを態度に出すではない。
まるで何事も無かったかのように顔を上げて
「二直、がんばってくれ」
といって、その場を去った。
 
 
 
 
 
「・・・副長?」
炊飯室を入ってすぐに、一人数が多いことに気付いたは思わず声を出してしまった。
「菊池が二直でいないからな。」
と、言い訳をした角松二佐。
共犯はあんたもかよ・・・
と呆れ顔のに、
「いいじゃん。たまには艦の中でハメを外したってさ、ってことで、無事出港おめでとう『みらい』」
と言った後、壁にコップをコツンとやって一杯飲んだ尾栗三佐。
、飲めないだろうが・・・ま、楽しんでくれ」
 
 
たまには、こういうのもいいかもしれないと、思う。
僅かな酒を惜しむように少しずつ飲む。
アルコールを体が受け付けない自分には宴会とか飲み会とかとは一生無縁だろうと思っていたけど、『あの時』以来尾栗三佐がよく呼ぶようになってからは、飲めない人間は飲めない代わりにやることがあるとか、色々気付かされたから。
その点では感謝してるんだが・・・
ま、酒の席ではこんな野暮なことは・・・思わない思わない。
雰囲気に酔えることを、尾栗に振り回されることで覚えたは、素直にその場の空気を楽しむことにした。
秘密の宴会?は、二直が終わる30分前には終了したから、菊池にはばれずにすんだのである。
の顔を見て、誰にも気付かれないようにホッと肩の力を抜く尾栗。
どうやら不安そうな影が消えたようだ。
『あの時』もそうだったから。
『お前からちゃんと説明してくれるまで、俺からは何も言わねぇよ』と言って見逃したのだ。
普通じゃない状況に驚き、しかし頭の半分は冷静になっていく自分を感じた。
そして問い詰めることもしないまま、こうして七年が過ぎた。
未だからは何も言ってこない。
それならそれで良かった。
しかし出港前に見た少し不安そうな顔が気になったから。
だから危険を冒してこんな宴会?を開いたのだが・・・
共犯になってくれた炊飯長と洋介には感謝してるぜ?
 
 
 
 
 
口が裂けてもいえない言葉を思う尾栗。
そうやっていると洋介が解散命令を出した。
「じゃ、総員起こしまで各自解散」
「「「了解」」」
アトガキ
やってもーたーやっぱり酒関係かよ・・・と突っ込みは自分で入れました。
ちなみに炊飯長の名前は本編でも出て来ないんで分かりません。
予想としては補給科のCPOかなと思う。

角松は出港日の夜は一直だと思う。
21:00で「時間だ」って言ってるし(アニメジパングで)
ま,出港日くらいはね。艦に対してお世話になりますという想いを込めて・・・って感じですかな
2017/07/16 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥