ガシャンッ・・・
とも、
バシャン・・・
とも取れる音が、そこに響いた。
「ちょ・・・っとカイト?!」
が、抗議の声を上げる。
だけど、そんなの、聞こえない。
「風呂の中って、声がこんなにも響くんですね、マスター」
濡れた髪に手を入れて掴んで上向かせると、そこにあった見慣れた瞳。
さっきの濁ったような色じゃなくて、この人本来の綺麗な緑が、そこに見えた。
そして掴んでる髪の色は、初めて見せてくれた、白にも銀にも見える、金色の色。
海神の背に乗って 番外
シャワーがさっきから出っ放しで少しウルサイけれど、それでも気にならない。
そんなことより、今はこの人が、無性に欲しいと思う。
それは、あのページを見たから?
分からない。
『でも、これがないと、何にもできないなんて。
 まるで、私達と一緒ね』
なんて、メイコが冗談で言ったから。
でも、たしかにあれをもし自分達置き換えたら、彼は僕達・・・の・・・
「お・・・まえさ・・・
 ときどき・・・・・・何かあるの?」
タイルに背中を預けて、がカイトに聞く。
だけど、肝心の言葉は余りにも小さくて、シャワーの音に遮られて聞き取れない。
そしてそれが流れているお陰で少しは温かいバスルームのタイルに、今はほんの少しだけ救われた思いがする。
水滴で冷えたタイルに押し付けられたら、間違いなく風邪を引きそうだから。
そして、その問いかけにカイトは答えず、ただ彼の唇を求める。
その感触は優しくて、思わず『勘違い』しそうだ。
「・・・ん・・・」
頭が真っ白になりそうで、思わず身体の力が抜けてしまって、ズズッと身体が沈んでいくのにも、カイトはそのままついてきた。
服も、髪も、ずぶ濡れで、水を吸って重そうだったけれど。
「ねぇマスター」
風呂場にカイトの声が響いて、残る。
「な・・・に?」
反対にの声は、掠れて小さくて、響くには届かなくて、直ぐに消える。
「僕があなたを求めるのは、あなたが僕の、僕たちの中心だから」
パシャンと床のタイルに手をついて、シャワーの水を背中に浴びながらカイトが言う。
「ネットでね。
 見たんです。
 宝珠を無くした竜の話」
「・・・なに?」
何を言ってる?
ボーっとしてきた頭には、その言葉が上手く入ってこない。
だから聞き返した。
だけど、
「なんでも・・・ありません」
とカイトは答えを言わず、その言葉を最後に、カイトの瞳に熱が篭った。
 
 
「・・・ん」
のぼぜる・・・
降りしきるシャワーの所為だけじゃないけれど、身体が熱くて、あと水分が・・・ちょっと・・・足らなくなってきて、頭が少しくらくらしてきた。
「カイト・・・ちょっと・・・」
そう言ってみたけれどカイトは聞かず、行為は続けられた。


ったく・・・
あ・・・ヤベ・・・


そう思ったのを最後に、の意識は、闇の中へと沈んでいくのを感じるけれど、完全じゃない。
でも、こうでもしないとカイトは自分を解放しないだろう・・・と踏んで、そのまま身体から力を抜けさせる。


「・・・マスター?」
ぐったりしたに驚いて、カイトが顔を上げる。
「マ・・・マスター?!」
身体を引き起こして、タイルに倒れ込みそうになっている彼の体を腕を回して支えて、顔を覗き込んで、閉じられた瞳を見た瞬間、かなり慌てた

カイトが、思わず叫んだ。
「マスター、マスター!」
呼びかけても、の目蓋は開かない。
それに更に、カイトが焦る。
「マスター・・・マスター!目を開けてくださいマスター!」
ど・・・どうしよう。
そういえばさっき、少しつらそうに制止の声をかけてきたけど、僕は・・・止めなかった。
もしかして、その時に何か重大な問題が起こったのですか?
僕は、何か大変なことをしでかしてしまったのですか?


人は、まだまだ分かりません。マスター!


「マスター!マスター!起きて・・・起きて下さい・・・目を開けて下さい・・・
 マスター・・・起きて・・・」
少しずつ涙声に変わってくるカイトの声に、はほんの少し、心の中でため息をつく。

だから、泣くなって・・・
泣かれたら、本当に・・・何もできなくなるじゃないか・・・


泣かれるのが苦手な自分と、ことある毎に泣くカイト。
あぁ。
自分が彼に弱いのは、そこなのか?
と、は分析する。
が、答えなんて出るわけもないから、そこで、切った。

慌てるカイトの呼びかけに、僅かにの瞳が開くと同時に、要求した。
「・・・み・・・ず・・・・・・」
「マスター・・・?!」
「水・・・カイト
 冷蔵庫から・・・水持ってきて」






「結局未遂だったんで・・・」
シュル・・・
それにしても、あんな写真を撮り、あんな文を添えて送ってきたのは一体誰?
気になりながら、カイトはマフラーを巻いてベッドの上に蹲っている格好のの背中に、ゆっくりと唇を落す。
しかしそれは完全に触れることはなく、触れるか触れないかの絶妙なところを、その隙間に入り込んでいる空気で触れていくと少しずつ、

息が上がっていく。
「やっぱり、触れていなくても、触れているようになるんですね」
ゆっくりと今度こそ、唇で触れると、ハッキリと分かるほどに彼の身体が震える。
「・・・っん」
気配で『感じる』のか。この人は。
また一つ、覚えた。


それにしても、あの写真。
そして、添えられた文。
まさに、そうとも見えるから、不思議だ。
そして以前みた、あのページに書かれてあったあの長い架空の生き物のこと。
長いあの架空の生き物の名前は、竜神。
彼らは、その手とも足ともいえるその手に、時には口に、彼らの力の源である珠を持っている。
そしてその生き物に自分を当てはめたら、まさしく、その源は、になる。


この人がいないと何もできない、機械な自分たち。
珠がないと、何もできない架空の生き物。



姿は違うけれど、少しだけ、僕たちとその生き物は似ている。



だから、大事に守る。


だから、求める。


あぁ。
この衝動は、そこから来るの?


分からない。
けれど、それでも・・・僕は・・・
アトガキ
VOCALOID 海神の背の「おまけ」
おまけです。
2008/05/17
管理人 芥屋 芥