「座ってるだけでいいから」
そう言って、連れて行かされたところ・・・ってコレ・・・何?
目の前に現れた広い建物と、その中にあったこれまた馬鹿デカイ『機械』に、圧倒される。
そして、微かに匂うのは、昨日マスターのスーツから匂ってきたアノ、『ケロシン』の匂い。
「いいから、おいで」
僕の服のデータは既に変更し終わっていて、と言っても、コートとマフラーを脱いだだけの格好で、それの目の前に立っている。
で、マスターの格好はこれまた初めて見る格好で・・・
どうやら、『フライトジャケット』っていう格好らしいけど・・・それ、なんだか凄く重そうですよ?
状況に追いつかなくて混乱していると
『日本版の奴が乗るのは初めてだな』
と、後ろから僕と同じモノの声がして、振り返る。
そこに立っていたのは、金髪で濃い青を基調としたシャツに、ジーンズ姿の
「LEON?」
と言うの声は、確かに驚いていた。
海神の背に乗って
「ヤァ
 アエテウレシイヨ!」
彼は、カイトを越えて真っ直ぐにの方へ歩いてきて、いきなり彼に抱きついた。
「ぅわぁ!」
のそんなレオンに対しての驚きの声が周りに響きわたり、そんな様子を目の前で見たカイトが目をとても大きく見開いて驚いた表情を隠せない。
いや、それ以上に、海外版であるハズの彼LEONが、日本語を話した?
そこに驚いていると、がレオンの腕から一歩逃れて
「お前、日本語うまくなってないか?」
と聞いている。
なんだ・・・か・・・僕・・・必要ない?
ガイロイロオシエテクレタダロ?
 ソレデオレモ、イロイロオボエタノサ」
のところで言葉を切ると、今度はカイトを振り返り
「ヤァKAITO。ハジメマシテ。オレハLEON」
と、笑顔で右手を差し出して、自己紹介してきた。
いや、アナタがレオンだっていうのは分かります。
分かりますけど・・・
でも、どうして『マスター』じゃない人に、そこまで出来るんですか?
「・・・は・・・はぁ。
 初めまして」
「ナンダナンダ、ゲンキガナイゾブラザー
 ソウダKAITO。オレハキミニコレヲワタソウトオモッテココニキタンダ」
「渡・・・す?何を?」
そう答えている間にも、彼から送られてくるデータをカイトは素直に受け取る。
というよりも、こういうことは・・・慣れてるから・・・
できるならマスターの見てるところではあまり行いたくない事だけど、でも、今はそんなこと言ってられない。
「レオン・・・さん・・・これ・・・」
初代ボーカロイドの、同じ男の声として造られた、英語版と日本語版。
だけど、その性格はどうやら全くの正反対らしい。
データを受け取ったカイトの方は、少し『あたふた』しているのに対して、渡したレオンの方は、ニヤリと笑っている。
『俺のデータさ。
 これなら、俺が英語で話してもわかるだろう?』
『分かりますけど・・・でも、この重いのは一体?』
言葉のデータとは別に渡された、少し重いデータの正体は一体何?
疑問に思ってカイトが聞くと、が、口を開いた。
「レオンの飛行データだよ、カイト。
 言ったろ?データ取ってるって」
「え?」
一瞬、処理が追いつかないカイトに、レオンが笑顔で捕捉する。
「ソウソウ。
 オレノフライトデータダヨ、KAITO。
 サンコウ二ナレバトオモッテネ」
そう言って、彼はカイトの首に腕を回して引き寄せると、まるで人がヒソヒソ話をするかのような体制をとり、に背を向けて
は今回、君の為に無茶をすると思って、少し対G加重を強めに設定しておいたから。安心して、KAITO』
そう言うレオンの表情は、楽しくて仕方が無いといった表情をしていて、笑顔だ。
そこへ
『レオン、聞こえてるよ』
と、が珍しく茶々を入れる。
それに顔を上げたレオンが肩を竦めて
『あれ?聞こえてた?
 おっと、時間だ。
 、KAITO。グッドラック』
と言うと、身体を反転させて、どこかに行こうとする。
あ・・・しまった。
僕、お礼・・・言ってない。
『あ・・・あの!レオン・・・さん』
『ん?何?KAITO』
『あ・・・ありがとうございます!』
それに彼はヒラリと手を振って答えると、どこかへと、消えていった。
「カイト。時間がないから、レオンから貰ったデータは座ってから開いて、それに従って設定変更は自分で出来るよね。
 じゃ、行こうか」
そう言うと、今度こそ、階段を上がって、ボタンやスィッチが沢山ある操縦席というところに、納まった。
 
 
 
 
 
レオンさんから貰ったデータを開いてみる。
飛び出してきたそのデータはすごい量で、一瞬メモリが危なくなるけれど、何とか耐えた。
「それにしても・・・凄い量・・・」
そして、テキストドキュメントのところに、彼のメッセージがあって、それを読む・・・けれど
「レオンさん・・・」
読み終えたときには、その文章を少し気恥ずかしく思ったカイトが、彼の名前を呟く。
どうしてそこまで、あんな事を平気で書けるんだろう。
それにしても・・・マスターは一体何してるんだろう?
違うことを考えようとして、前に座るのことが、少しだけ気になる。
彼はずっと何かをやっていて、時折無線でどこかと話してるようだった。
だけど
『出る前に話し掛けると、前に座る人は怒るから』
と書かれたレオンのデータに、カイトはしばらく黙っていることに決めた。
 
 
 
 
 
うわぁ・・・本当に上がってる!
軽い・・・どころじゃなくて、一瞬体が軽くなったかと思うと、急に重くなって、あっという間に地面が下に見え・・・て・・・ってなんで上に地面が見えるの?!
ってえぇぇぇ!これ一体どうなってるのぉぉ???
「マ・・・マスター!?」
前に座る彼を大声で呼ぶ。
「コ・・・コレ・・・一体どうなってるんですか!?
 地面が・・・地面が下じゃなくて・・・今斜め上に見えてるんですケド?!」
「騒ぐな、カイト。
 今からもっと面白いことオッパジメルんだから!」
そう言うと、今度は、視界が・・・回って、地面・・・じゃない。これ・・・海?!
な・・・なんで、海が?
嘘・・・どうして?
さっきまで街中だったのに、もう海なの?!
海が!真正面に・・・な・・・なんか・・・コレ・・・近づいてきてない?
・・・って!オチテル!!
「マ・・・マ・・・マスタァァァ!コレ落ちてる落ちてる!!!」
あっという間に、海が真正面に見えてくる。
落ちるって、こんなに速いの?
落ちるって、こんなに怖いの?!
ねぇ!マスターは怖くないの!?
だけど、凄い重圧が身体全体を襲ってきて、途中から話せなくなってしまった。
レオンさんのデータがなかったらきっと僕は気を失っていたと思う。
ドンッ!!
という雷のような轟音が、あっという間に、遠くで響く。
もし、事前にレオンさんからデータをもらっていなければ、きっとKAITOのソフトはどこか破損していたであろう程の大音響が、空に向かって、この機体とは正反対の方向に響き渡る。
・・・も・・・もしかして僕は、とんでもないことをこの人に言ったんじゃないだろうか・・・
ここに来て、初めてそれに気付いたカイトだが、もう、遅すぎた。
 
 
 
 
 
 
「あーあ・・・スプリットSして音速超えてらぁ・・・
 それにしても相変わらず、飛行空域とは言え、無茶やりますよねぇ・・・」
そう言って、彼はカメラを構えて、ジッと片目でソレを追う。
シャッターは、ずっと押したまま・・・半押しの状態で、ソレを追っている。
耳には、イヤフォン。
背負っているバッグから、何か細い棒のような物が、一本、伸びている。
「さて、遊びは終わりで、・・・今からか・・・
 あの人、どこまでスコア伸ばすんだろ」
という青年の声は、やけに、楽しそうだった。
アトガキ
VOCALOID KAITO夢
表の主人公と裏の主人公と。
後,全体的にカイトのテンションが高いです
2008/05/05
管理人 芥屋 芥