『マスタァ・・・』
ミクが泣きそうになりながらも自分を呼ぶ声が、少しだけ頭の中を巡ってる。
リンもレンも、少しだけ怒ってたし・・・それに、ミクほど顔に出てなかったけど、泣きそうだった。
メイコは、顔に出さないし態度も普段と変わらなかったけれど、それでも、帰ったら存分に歌わせ下さいといったときの目は、笑っていなかった。


悪いこと・・・したな・・・


は少しだけ後悔するけれど、それでも、この予定だけは避けられない予定だから、仕方ないといえば仕方ないことなんだけど・・・
それに、もうこれは予定じゃなくて・・・決定事項だから・・・ごめんな。皆。
それにしても、なんで俺はカイトに甘いんだろう・・・
自問するが、答えなんて出るはずもなく、そのまま沈む。
海神の背に乗って
「あ・・・の・・・」
一人残ったカイトが、机に向かって仕事をしているに向かって、声を掛けづらそうに、声をかける。
本来なら、自分もパソコンの中に入らなければならなかったのに、残されたのはきっと、あの時ワガママを言ったから・・・だ。
「マスター・・・あの・・・」
もうこの人と二人きりだった時間は、二度とやってこない。
もし、二人きりだったとしても、それは、姉や妹弟達に、無理を強いていることになるから・・・
この前のときは・・・不可抗力だったけれど、でも、あの時、レンを布団に降ろすとき、そのまま壊してしまおうかと、本気で思った。
・・・でも、ソレをすると今度はマスターが俺を壊す・・・かも・・・だから・・・だから、できなかったし、それに、レンを壊すと言う事は、リンにまで迷惑が掛ってしまう。
そうなれば、バラバラになる。
メイコは俺を許さないだろうし、ミクにも悲しい思いをさせる。
そんなこと、できない。
『人』であるこの人を差し置いて俺が暴走したら、真っ先に壊されるのは、僕の方だから。
「何」
振り返らずに答えるだが、それでも、意識は自分を向いているのが分かる。
なんでこんな『あやふやな空気』のようなものが、理解できるのか。
それは、自分(KAITO)にも分からなかったけれど、でも・・・
僕は、少しでも貴方に・・・
そんな想いを隠して、彼の返事にカイトは応える。
「あの・・・マスター・・・あの・・・本当に、僕だけ残して・・・いいんですか?
 僕もパソコンの中に戻ったほうが・・・」
そう提案すると、ため息が大きく耳に届いた。
「お前が最後に入ったら、余計ややこしくなるよ?
 それでもいいの?」
と、顔を体もそのまま机に向けたままで問い返してくる言葉に、反論できない。
「マスター・・・」
「それに、海に行きたいと言ったのは、カイト、お前だよ?」
「だから・・・それは・・・潮が・・・」
潮で錆びてしまうからと、それで諦めたのに、でも、それでも行けるかもしれないと言ったのは、この人の方だ。
「それに、『許可が下りる』って・・・もし、マスターの言う許可というものが下りなかったら・・・その・・・マスターが考えてることも実現しない訳ですし・・・」
ベッドに座って、徐々に項垂れながらカイトが言う。
この人が『外』で貰ってくる『許可』が一体どういう内容のものなのか、どんな事を考えているのかとか、気にならないと言えば嘘になる。
でも、もしそれが下りなければ、僕はきっとこの先ずっと・・・海は、見れない。
いや、それは俺だけじゃなくて、メイコやミク、それにリンとレンも、同じく見れない。
「いや・・・それは多分、大丈夫じゃないかなぁ。
 俺の予想だけど、6・4の割合で下りそうな気がする。
 なんせアイツ等も、データ収集だ!って言って、何だかんだと理由つけて乗せてるの、俺知ってるし」
と、パソコンの画面を見ながらペンを走らせてが答える。
「アイツ・・・等?
 乗せてる?」
え・・・?
それは・・・どういう・・・?
「お前等は日本語版。
 ボーカロイドはそれだけか?っていう話さ。
 カイト。珈琲」
答えをはぐらかして、が珈琲をカイトに頼む。
「あ・・・ッハイ」
久しぶりの珈琲を頼まれて嬉しい反面、さっきの言葉が引っ掛かって、台所まで歩きながら、カイトは考える。
『お前等』は、僕たちのこと。
『日本語版』は、この国の言葉で話す僕たちのこと。
・・・僕たちは、確かに日本語・・・ば・・・ん?
『それだけか?』
あ・・・
あぁ!
考えがそこに至って、彼の言いたかったことが理解できて、カイトの顔が明るくなる。
しかし次の瞬間には、疑問も同時に湧き上がってきて、カイトは少し混乱した。
英語版・・・のボーカロイド・・・
え?
でも、どうして英語・・・版?
疑問に思いながら、ここに来てから教わったやり方で、カイトは珈琲を入れる。
マスターは案外珈琲に敏感で、最初の方は慣れなくて、よく『煎れ方変えた?』って、言われたっけ。
今じゃそんなことは言わなくなったから、多分、大丈夫なんだろうけれど。
「マスター、珈琲」
「ん」
パソコンの画面は一瞬で情報として入ってくるくせに、机の上にあるアナログの紙の情報は、処理に少しだけ時間が掛る。
それに僕、漢字・・・あまり読めないし。
が自分を振り返らないときは、仕事に集中してるとき。
これは、憶えてる。
だからカイトは、黙ってカップをそこに置くと、ベッドに戻って、教わったばかりの曲を体の中で響かせて時間を過ごす。
二人きりだったときは、よくこうして時間を潰していたっけ。
なんて、兄弟が来る前のことがほんの少しだけCPUの底から上がってきて、なんだかくすぐったい。
でも、後ろめたさも、同時に湧いてくる。
マスターを・・・この人を、僕だけで独占していいのだろうか?
って。
『兄』としての設定が、少しだけ罪悪感を生ませていく。
『独り』ならそんな設定は起動しないのに、彼等がいるだけで起動する基本設定が、今は少しだけ・・・要らないと・・・思った。
 
 
 
「マスター・・・僕、先に・・・」
折角煎れた珈琲も冷めてしまって、仕事に集中しているに、ベッドに横になりながらカイトが声をかける。
そろそろ寝ないと・・・一日の処理の限界が近い。
「ん。お休み」
「おやすみ・・・なさい・・・」
何もすることがなくても、CPUとメモリには負荷が時間と共に掛っていく。
だから、今日はそろそろ限界。
目を閉じる一瞬前に、マスターが振り返ったのは僕の目の錯覚?
 
 
 
キュイ・・・
椅子が静かに響く音が、部屋に木霊する。
そして静かに、言葉が響いた。
「まぁ・・・確実に下りるだろうけど・・・
 でもKAITOだと、乗って下りた後ぶっ倒れないかなぁ・・・」
と、独り言を言ったのを聞いたものは、誰一人として、居なかったけれど。
アトガキ
VOCALOID KAITO夢
う〜ん・・・突っ走ってます。ごめんなさい。
それにしても・・・どこまで突っ走ってんよ・・・私・・・orz
2008/05/01
管理人 芥屋 芥