my favorite thingS
朝起きたら、かなり不機嫌なカイトの顔が目の前にあった。
彼が自分に対して怒っているらしいのは分かるのだけれど、思い当たる節がない。
「何怒ってんだよお前」
さっきからそう問いただしてみるけれど、答えは不機嫌な表情だけだからサッパリ分からない。
頭をかしげながらも、彼に珈琲を頼むとドカドカとこれまた珍しい足取りというか、普段の彼なら絶対にしないであろう足音を立てた歩き方でデスクの方へとやってくると後ろに立つのが気配でわかる。
普段は意識を研ぎ澄まさなければ分からないほどの彼の気配が、これほどはっきりと分かるというのは珍しい。
そう思いながら、キィという背もたれの音を立てて後ろに立つカイトを下から見上げる形でカイトの顔を見上げると、そこにあるはずのアル物が無いことに気がついた。
「お前、インカムどこやったの?」
その言葉は、覿面に効いた。
不機嫌なカイトの顔が益々不機嫌……通り越して怒ってる。
やがて、小さく
「……ました」
と、語尾だけ聞こえる形にしてカイトが答えた。
「なに」
今度こそ体勢を変えて、椅子ごと彼の方へと体を向けると今度こそ丁寧にが聞いた。
「お前、インカムどうしたの?」
見上げる形で真っ直ぐに彼の目を見て問い掛けると、今度は泣きそうなカイトの表情が目に飛び込んでくる。
――おいおいおい、なんなんだ一体。
内心焦っていると、カイトが今度は素直に質問に答えた。
「マスターが、壊したんです」
と。
答えを聞いて、そしてそうなった経緯を聞いては直ぐに静岡の彼の製造元へと電話を入れて、やがて出かけてくるといって何かを買ってきた。
部屋に入るなり閉じこもり、何かをしている彼の後ろからカイトがその様子を覗き込む。 「マスター?」
ビニールに入っていたのは、何かの……これ、もしかして工作キット?
そう思ってそこに立っていると、帰ってきてから30分もしないで
「できた」
と、短い声が上がってカイトを振り返った。
「これ、あんまり上手くないけど、製造元から新しいのが来るまでの、一応代替え品。簡単な物で簡単に作ってるからあまり良くないし、音も悪いと思うけれど」
申し訳なさそうな表情でそう言って手渡されたのは、手作りの……
 
それ以来、それは僕の宝物になった。
急ごしらえのあまり音も良くない、扱いが悪いとすぐに壊れてしまいそうなそれ。
でもマスターの手作りだ。
それが何よりも僕にとっては嬉しいから。
ありがとう。
大切に、するね。
 
 
 
 
カサリという音がして、それを拾い上げてみる。
そこに書かれたものを見て、カイトは固まった。
そこには、材料費の全てを合わせても500円掛っていないことが記されていた。
 
 
五百……円掛ってない……ごひゃく……えん?
 
 
僕って……一体……
 
 
 
 
「ねぇマスター、カイトはどうして沈んでるの?」
ソファに座ってお酒を手にしたメイコが、ダイニングテーブルの椅子に沈んだ表情と雰囲気で座ったまま動かないカイトを見て問い掛けてきた。
彼女の、何かニヤニヤとした視線を真っ直ぐに見返しながらも
(レシート見てショック受けてる……とはいえないよな)
などと考えている。しかし口では別の言葉で彼女に返事をした。
「……ん、何でも無いよ」
と、お互い全てを分かっている者同士の、そんな会話が、レシートを力なく掴んだまま白くなるカイトの後ろであったとかなかったとか。
アトガキ
VOCALOID KAITOメインのオール夢//番外とも

2009年 皐月初頭--LONG-管理人,霧尾リク様との電子会話にて生まれました。

チャットで盛り上がった末に出来た話です。

元ネタは霧尾リク様です。
Thank You!

2009/05/02
管理人 芥屋 芥