マスター・・・
夜、スリープモードから目が覚めて、窓の外に手を伸ばす。
すると世界が広がって、部屋の中の見慣れた様子が目の前に現れると、すぐに視界に入ったのがベッドで眠る彼の姿だった。
「マスター」
まだ体が本調子じゃなかったけど、それでも、ガヤガヤとここよりも騒がしいパソコンの中より、できるだけこの人の・・・
ねぇマスター
僕は今、少し・・・ほんの少しだけ・・・
許される予定調和

眠りが浅いから、異変はすぐに分かる。
「・・・前・・・何・・・出てき・・・て・・・の・・・」
半ばボーっとしているが、枕元に頭を預けるカイトに寝ぼけ眼のまま、ゆったり聞いてくる。
「マスター?」
「お前・・・大丈夫なの?」
その問いかけに、カイトの表情が少しだけ曇る。
なぜなら、あまり良くないから。
「大丈夫じゃなかったら、ちゃんと休んで・・・」
「いやです」
「カイト?」
「イヤですマスター」
騒がしいところは、余り好きじゃない。
かと言って、静か過ぎるところも好きじゃない。
一番落ち着けるのはマスターの隣。
あなたの隣が、一番落ち着くのです。
多分、これは他のボーカロイドも同じだと思うのだけれど、それでも・・・一人だけパソコンに入っているなんて、いやだ。
「カイト。
 わがまま言わずに、パソコンの中・・・」
尚も戻るように言うに、カイトが泣きそうな声で彼を呼ぶ。
「マスタァ・・・・・・」
呼んだ後に小さく呟かれた彼の言葉は、深夜二時の最低限の音しか響かない部屋に響くことは無かったけれど、それでも目の前で横になっている人間には、ハッキリと届いた。
それを聞いたが一息小さくため息を吐くと、ビクッとカイトの体が微かに揺れる。
ザッ
布団が揺れたかと思うと、そのまま体をベッドの端に寄せて、がベッドの半分をあける。
「マ・・・スター?」
一瞬何が起きたのか判断がつかなかったカイトに、
「いいから入って」
と、布団を持ち上げてが声をかけてきた。
「マスター?」
それでも、彼の行動を理解できずにいると
「さっき『イヤだ』って言ったのは誰?
 その代わり、熱暴走しても知らないよ」
そう言うと、そのまま横を向いてしまった。
「マスタ・・・あ・・・ありがとうございます」
許してくれた。
それだけがうれしくてベッドに入ると、まだ起きていたらしいが少し呆れたように
「顔、すごくニヤついてるけど・・・大丈夫か?」
と言ってきたから、つい
「だって。マスターの隣で眠れるの、嬉しくて!」
と、笑顔全開で答えていた。
だって、本当に嬉しくて。
マスター、僕は本当に嬉しいんです。
だけれどマスターは少し面倒くさそうに
「まぁ・・・いいけどね。じゃ、寝るなら寝てくれ。
 明日も早いんだし・・・おやすみ」
というと、今度こそ本当に眠ったようだった。
そんな向かい合っている彼に、今度こそ本当の『お休みなさい』を込めて鎖骨辺りにほんの少しだけ頭を当てると、カイトの体に触れているの腕に、ほんの少しだけ力が込められた・・・ように、カイトには感じた。
 
 
「カイト・・・あんた・・・」
朝起きると、メイコの不機嫌な顔が見えた。
「あんた・・・マスターの・・・」
徐々に声が低くなっていく彼女に完全に怯えた形で、それでもカイトは反論する。
「ち・・・違うよメイコ!
 ちゃんとマスターの許可はもらってるよ!」
と言いつつ、カイトの身体は少し震えているのを確認したメイコが、盛大なため息と共にその雰囲気を一掃させると、カイトに言った。
「まぁいいわ。
 だけどあんた、まだ体が本調子じゃないんだから、今日は一日パソコンの中で休んでてって、マスターが言ってたから・・・
 というわけで、さっさと入って。」
と、手を伸ばしてマフラーを掴むと、そのまま『来い』とばかりにメイコが引っ張っていき、やがて机の前に立つと、強制的にプラグをカイトに繋いでパソコンの中に、入れた。
その様子をドアを少し開けて見ていたレンが
「やっぱ、メイコ姉ぇは強ぇなぁ」
と呟くと、同じく覗き見していたリンが
「憧れるぅ」
と、メイコに対して尊敬の眼差しでレンに答えになっていない答えを返す。
その言葉や口調にやや頭が痛い思いをしたレンだったが、次のメイコの言葉に思いっきり声が裏返った返事をしてしまったのとは対照的に、リンの声は至って能天気だったけれど。
「はぃ!」
「はーい」
その様子を見ていたミクが、
「お兄ちゃん・・・顔、すっごく驚いてたね」
と、ポツリと洩らした。
・・・いや、あれって驚いてるっていうより、怯えてたんじゃね?
と思ったが、レンは何もいえなかった。
 
 
 
 
 
 
 
「ただいま」
帰ってきて、ガヤガヤと一つの部屋が一段と騒がしくなったかと思うと、ドアが勢い良く開いて金髪の二人を筆頭に、カラフルな頭の色の彼等が勢い良く飛び出してきた。
「マスター!
 おっかえりなさーい!」
三人がそう言って、思いっきりに飛びついて思いっきり甘えるのを、一歩離れてみていたメイコとカイトに、顔を上げて
「只今、メイコ、カイト」
といって、続きをカイトに問い掛ける。
「体はもう大丈夫なのか?」
の言葉に、カイトが
「はい。随分よくなりました」
と答えるが、その表情は少し疲れた様子だった。
一体、何があった?
と思ったが、それにあまり触れることなくが、カバンをソファの上に置いた。
 
 
 
「マスターさ」
「ん?何?」
メイコがベッドに座りながら、机に向かうに問い掛ける。
「なんであの時、細工したんですか?」
と。
唐突に投げかけられたメイコの質問に、
「ん?何のこと?」
シレっとは切り返しだが、メイコはその背中の異変を見逃さない。
「とぼける気ですか?
 マスターはあの時、あのアミダクジに細工しましたよね?」
と、確信をもってメイコが言う。
「・・・・・・なんで・・・分かった?」
観念したようにが軽くため息をついて答える。
「分かりますよ。
 まぁ、気付いてるのは私くらいでしょうけど」
と、言いながらベッドから降りると、そのままCDラックの方に足を伸ばして自分の気に入っているディスクを選び始める。
「リンやレンを先に決めて、ミクがどこを選んでもそうなるように。
 あとは私とカイトが逆になっても問題ないように・・・ですよね」
つまり、メイコが自分の部屋で眠っても良いように。
そうなると、ミクとカイトが同室になるわけだが、もしそなっていれば、メイコは自分から変わるように言うつもりだったのだが、結果は納得できる結果に落ち着いたから、何も言わなかった。
だけどまさかあんな追記があるとは思いもしなかったけれど。
メイコがそういうと、は本当に観念したように言った。
「ちょっとその推理は外れてるんだけど・・・
 でもまぁ、一番妥当な案を取っただけだよ」
といって、メイコの方に椅子ごと振り返り、関心したように更に、言った。
「観察力がすごいな。メイコは」
と、がそう言うと、選んだディスクをデッキにセットしながらメイコが答える。
「ありがとうございます。
 でも、マスター?
 今度からは、ズル、しないでくださいね?」
そう言ったものの、彼女の表情は穏やかに、笑っていた。
アトガキ
VOCALOID KAITOメインのオール夢
メイコ姉さんは,色々鋭いといいな。
2008/05/31
管理人 芥屋 芥