「大丈夫か?お前」
スッと伸びてきた手が、額に触れる。
その手は少し冷たくて、気持ちがいい・・・なんて思っていたら、マスターの顔が少しだけ険しくなった。
アレ?
なんて、疑問に思って
『どうしたんですか?』
って聞こうとしたら、一拍速く、彼が、言った。
「お前・・・熱いぞ?」
と。
Heat's on Sick?
「ほぇ?」
自分でも、なんて間抜けな声だったんだろう。
そう思えるほどに、今の僕の声には力はなく、ただ、空気を揺らしただけの声でしかなかったから、少し、恥ずかしい。
「だから、お前、熱いって言ったんだけど・・・
 もしかして、風邪か?」
いや・・・
多分、これは病気じゃない。
第一僕たちは病気にならない。
考えられるとしたら、きっと・・・
「多分・・・アイスの食べ過ぎかも・・・」
これしかない。
冷却も、過ぎれば熱を出すって、メモリのどこかにあった気がするから。
そして、その言葉を聞いたマスターの表情がポカンとなってそして、その後、クスリと笑った。
「マスター・・・笑わないでくださいよぉ・・・」
熱の所為か、いつもよりほんの少しだけ滑舌が幼い感じになっている。
「ごめんごめん。
 で、それは、パソコンに入っていなくても大丈夫な状態?」
「多分・・・大丈夫かと・・・
 ですが、今日は、入ります」
多分、僕がここで起動しつづけていれば、きっとCPUにもメモリにも、本体にも負荷がとても大きく掛ってしまう。
ならば、良くないときは素直に入った方がいい。
長くマスターと一緒に居たいから、無理はしたくない。
「そか」
カイトの言葉に、が額に当てっぱなしだった手を動かして、前髪を優しく掻きあげてから手を離す。
「マスター?」
彼の行動の意図が読めなくてカイトは問うが、それに返事は返ってこなかった。
その代わり
「寝るか」
と言って、席を立ち、カイトもそれに習って、席を立った。
 
 
 
 
 
「それでは・・・おやすみなさい」
パソコンが起動してる。
今から、僕が元々いる世界に戻る。
あまり、好きじゃないんだけどな・・・
だけれど、体が不調なときは仕方が無い。
そう思って、カイトはケーブルを、繋いだ。
 
消えていくのを、初めて見たような気がする。
そして、パソコンの中に、彼のアイコンが現れて
「カイト、おやすみ」
と言うと、パソコンの中のカイトのアイコンがペコリと頭を下げて、消えた。
 
 
 
 
 
・・・マスター?
布団に入った様子がない。
パソコンの中は相変わらず賑やかで、いつも寝てるマスターの部屋とは大違いだから、違和感があって、眠れない。
布団に入っていないマスターのことが気になったけれど、体の異常はまだあって、しばらく出ることは出来なさそうだった。
マスター・・・一体何してるんだろう・・・
さっきはちゃんと『お休み』って言ってくれたのに・・・
そこまで考えて、カイトはこの時初めて気がついた。
そう言えば、彼が眠るところを、今まで見たことがない・・・と。
見るのは、いつも寝起きだけ。
眠りにつく彼を、今まで見たことが無い・・・と。
いつも先に僕が眠りについて、マスターはいつも、後。
朝は、確かに僕が起こしたりするけど・・・
でも、眠るときを、見たことが無い。
気になる。
自分の体のこと以上に、それは気になる事柄で。
マスター・・・もしかして、寝てない?
いや、そんなことは・・・多分ない・・・ハズ。
だって、朝とても眠そうに・・・してるし・・・
そこまで考えて、カイトは少し混乱した。
眠るところを見たことがないのに、寝起きは見る。
ということは、マスターは自分が眠ってからは、かなり起きているということなのだろうか。
でも・・・
・・・
 ・・・
  ・・・
よく、分かりません。マスター・・・
 
 
『人間』を、インターネットで調べてみる。
それでも、よく分からない。
自分たちを生み出した存在。
そして、自分たちを動かしてくれるもの。
ねぇ、マスター
信じて、いいんですよね?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
誰も居ない扉を開けると、彼は、首に手を当てて、静かに誰も聞いていないことを確信して、呟く。
「あー・・・鈍ってる・・・」
そして彼は再び黙って上下の服を脱ぎ、下に着ていたシャツとジャージ姿に戻ると、今度は腕を伸ばして伸びをした。
「ふぁぁ!」
そして、上に着ていた上下の服をいつもところに引っ掛けると、電気を消し、その部屋から出て行き、鍵をかける。
カシャン・・・
金属と金属が擦れる音を最後に、その部屋から音が、消えた。
 
 
 
 
 
支障は、ない。
いつも通りだ。
それは、彼等がここに住みだしてからも変わらない。
ただ、少しだけ、家に待つ者がいるというだけの話で。
少し嬉しくもあり、また、少しだけくすぐったい気持ちにさせられる。
こんなことは、慣れてないから。
家で誰かが待つなんて状況は、今までなかったから、少しだけ、照れくさい。
こんな状況は、照れくさくて。
なんだか、少し、くすぐったい。
そんな現状を、客観的に見つめたが、少し嬉しそうに、呟いた。



「あーあ。
 熱があるのは、俺の方かなぁ・・・」
アトガキ
VOCALOID KAITOメインのオール夢
やっぱり,カイト兄さんメインらしいです。
2008/04/23
管理人 芥屋 芥