気がつけば、見慣れたいつもの天井。
そして、顔を横に向けると、そこに居たのは心配そうな表情のメイコだった。
「メイちゃん・・・何してるの?」
発した声は、とても弱々しくて、まるで自分の声じゃないみたい。
「バカ・・・あんた、自分の体のことくらいちゃんと管理しなさいよ・・・」
そう答えた彼女の声は、ほんの少しだけ、震えていた。
the Second Install.......10

「メイコ、どう?カイトの様子」
ガチャ・・・と扉を開けて入ってきたのは、マスター。
その手に持っていたのは、タオル?
「あ・・・の・・・マスター?」
「『あの、マスター』じゃないわよ、全く。
 充電が切れるギリギリまで気付かないなんて・・・」
あのまま倒れていたら、あんた・・・
そこから先は、いくらメイちゃんでも言えなかったみたい。
「大丈夫か?」
マスターがそう言って手を額にそっと当ててくれて、その持っていたタオルを当ててくれた。
少しひんやりしていて、冷たくて気持ちいい。
「限界ギリギリまでバッテリーを使い続けて、急に休止に入ったからびっくりしたよ」
そう言ってメイコの隣に腰を降ろして僕を見た。
そうか。
あの倒れる直前に感じた力強い腕は、マスターの腕。
「マスター・・・」
そんなことを考えていると、メイコがに言う。
「今日は・・・色々私の責任だから・・・」
分かってるんだ、メイちゃん・・・
と云うと
当たり前でしょ。
と、少し強気の中に、弱気が混じった返答が返ってくる。
「明日にでも、ちゃんと言うよ。
 元はと言えば、メイコにしか言わなかった俺も悪いし。
 まぁ・・・今週は夜遅くしか帰ってこれなかったけど、来週になれば少しは早く帰ってこれるから・・・」
と言うと、メイコの頭にポンッと優しく手を置く。
「だから、メイコが責任感じることはないよ」
と言った。
「・・・だ・・・って・・・」
私は・・・
メイちゃん。マスターの前で、気を張らなくていいんだよ?
マスターの前だから頑張って・・・ッ!
「メイコ、大丈夫だよ」
通信が分かるのだろうか。
絶妙なタイミングでが言ってくる。
途端、彼女の顔がみるみる泣き顔へと変わっていき
「マ・・・マスタァ・・・」
と、そのままのトレーナーに顔をくっつけて、泣いた。
ポンポンッと、その手が彼女の背中に回されて、優しくあやすように触れる。
メイコが僕の前でこんな姿を見せるなんて、本当に初めてで。
でも、この人だからこそ、メイコが甘えられるんだって、ないハズの心のどこかで、思う。
泣いているメイコをあやすマスターは、とても優しい表情をしている。
そんな顔を独り占めしてるメイコに対してちょっとだけ悔しいような、でも、やっぱりメイコが責任を感じているのは半分俺の所為かもしれないなら、言葉にしないわけにはいかなかった。
「メイコ・・・俺も・・・ごめんね」
なんて言うと
「な・・・んで・・・あんたが謝るのよ・・・」
「だ・・・だってぇ・・・」
怒られた。
でもメイちゃんの顔はくしゃくしゃで、いつもの迫力は全然無かったけど。
「カイトも、自分の充電管理は自分で・・・ね。
 パソコンで管理してるとは言っても、俺も常に張り付いてるわけにはいかないだろう?」
と言って、髪の毛をクシャッとしてくれた。
「・・・ごめんなさい・・・」
その言葉にはマスターからの返答はなく、ただ、そこに優しい笑顔があった。
 
 
 
「落ち着いた?」
場所をリビングに移して、僕は充電中。
メイコは、昼間の仮眠のお陰で、少し元気だ。
そしてマスターは、今日はベッドで一人で眠っている。
「うん」
だから、リビングには二人きり。
「ねぇカイト」
珍しくメイコが、三人掛けのソファに寝そべりながら前置きしてから言った。
「やっぱり、マスターって不思議な人よね」
と。
「うん・・・そうだね」
機械である僕たちを、対等に・・・じゃないけれど、それに近い扱いをしてくれる。
そして、決して『怖い言葉』を言わない。
例えば、アンインストールとか、お前は機械だから・・・とか。
あの人にそんなことを言われたら、泣きそうになる。
それを想像するだけでも、怖い。
だから、極力考えないようにしてる。
でも、どこかで『怖い』と思っている。
メモリーの底にその恐怖が燻っているのは、僕が『二回目』だから・・・だろうか。
0・・・1・・・10・・・
僕だけが二桁。
集まった兄弟の中で、僕だけが唯一の二桁を持つ。
ゼロとイチだけしかないハズなのに、一桁の『ゼロ』の部分に燻るのは、一度消された恐怖。
決して消えることのない、恐怖が、僕の中には存在している。
「カイト・・・付き合ってくれてありがとね」
そう言うとメイコが立ち上がり、キッチンの方へと足を向け冷凍庫を開けて何かを取り出した。
「はい」
手渡されたのは、特大バニラのカップと、彼女のもう片方の手には・・・
でもコレは、マスターが・・・
「今日くらいはいいんじゃない?
 マスターも許してくれるわよ」
そう言うと、ワンカップを持ってソファに座る。
「そうだね」
彼女にそう答えると、僕はそのカップの蓋をゆっくりと開けて、ゆっくりと食べた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「メイコ!あの特大バニラは少しずつ食べるさせるようにって言ってあっただろう!!」
そんなの叫び声が、朝っぱらから盛大に・・・木霊した。
アトガキ
VOCALOID KAITOメインのオール夢
0 1 10=0 1 2
せ せ せいろが〜〜〜〜〜ん
2008/03/03
管理人 芥屋 芥