「えらく早く帰るようになったな
エレベーターで同じになった男が、そう、話し掛けてきた。
「ちょっと・・・な」
そう言葉を濁して、エレベーターの階を現す電光板を、話し掛けられたは見る。
「お前、そのネギとアイスとレモンと蜜柑って、一体どうするんだ?」
男は更に言ってくるが、その時、エレベーターは停まり、ドアが開く。
「さっさと降りろよ。
 昨日の騒音は、すまなかったな」
と言って、中に残った男は降りた男にそう言った。
ガサリ・・・
という音を立ててビニール袋を左手から右手へ持ち返ると、男は呟いた。
「これは、あいつ等の大好物だよ」
Go well with them Sound
「マスタ・・・」
帰ってきた!
ガチャッという音を立てて、ドアが開く。
だけど、僕の声は後ろから聞こえてきた三人の大声量でかき消されてしまった。
「「「マッスタァ!おっかえんなさぁい!」」」
そう言って、リンは右から、レンは左から、そしてミクが真中からガバッと抱きつくその姿を、冷静な表情で見ているメイコ。
だけどメイちゃん・・・その手にしてるボールペンがちょっと震えてるよ?
「只今。いい子にしてたか?」
と、それぞれの頭の上にポンッと手を乗せて優しく聞く。
そして僕はと言うと、
「マスター、お帰りなさい」
控えめに言って、彼の持っているビニール袋を二つ、受け取ったまでは良かった・・・んだけど・・・
「アイス・・・大きくないですか?」
その中に入っていたアイス、なんだか・・・いつものよりも・・・大きい。
「あぁ。今日は奮発して業務用に寄ったんだ。
 はい、ミクにはネギ。リンにはレモンと、レンにはミカン」
そう言って、がカイトの持っている袋の、アイスが入っていない一方の袋からそれぞれに手渡していく。
「ありがとね、マスター」
「ありがとうマスタァ」
「ありがと・・・」
と、それぞれにお礼を言うのはいいけれど・・・だけどメイコの・・・は?
「あ、メイコのは明日、別便で届くから」
そう言うと、来ていたコートをコートハンガーに掛けてネクタイを緩め、袖のボタンを外しながらソファに座るメイコと何やら話していた。
話している間、最初こそ不機嫌だったけど、最後には
「マスタァ!大好き!」
「うわッ!」
と、グイッとの首元に腕を回して引っ張るように、正に大人の色気で抱きついたから、流石に皆引いてる・・・よ?
「お姉ちゃん・・・ズルイ・・・」
そう呟いたのは、少しだけ頬を膨らませたミクだった。
 
 
 
 
「マスタァ、この曲何ていうの?」
仕事をしている後ろで、リンがBGMでかけている曲名を聞いてくる。
が仕事をしている間は、普段は元気一杯のリンも、邪魔をすることはない。
大人しくベッドに座ったり、本棚にある本を読んだり・・・しかし、漢字が読めない(デフォ)から直ぐに飽きてしまうが・・・
しかし、そこには常に『音楽』が流れていたから、とても楽しかった。
音楽があるだけで楽しいと思える自分達は、本当に・・・
「ん?
 これは『スペイン』という曲だよ、リン」
机の上のパソコンは、今は起動してないから、このCDは部屋にあるCDラジカセから直接流している。
それを聞いていたリンが、
「カッコイイ音・・・」
言いいながらベッドに寝転がると
「ねぇマスター
 ワタシにあの曲、歌わせて?」
と言ってきた。
「う〜ん・・・どうかなぁ・・・」
ちょっと、渋りながら答えると
「・・・ダメ?」
グルリと身体を向けて聞いてくるその目には、少し不満の色。
「リンの声は、少し高いからなぁ。
 ちょっと、『色』が出難いかも・・・」
少し遠慮しながらも、ハッキリとは言った。
「色?」
首をかしげて、リンが聞く。
「声だけじゃなくて、詩や音楽にもちゃんと『色』があってね。
 それは人それぞれ違うけど、でも、ちょっとリンの声とこれは、『色』が真逆・・・かも」
そう言いつつはグルリと身体を反転させ
「リンは、レンやカイト、ミクやメイコと歌うのは嫌かい?」
と聞いた。
「イヤじゃない。
 イヤじゃないけど・・・でも、やっぱり・・・がいい」
少し俯いて声を小さくしながらもリンが言い終わった時、部屋の中にノックが鳴り響いた。
「どうぞ」
が言うと、ドアがゆっくりと開けられていく。
「リーン、一時間過ぎてる。次、俺」
そう言って入ってきたのは、リンとほぼ似た格好をしたレン。
だけど、今は服がトレーナーになっている。
どうやら今日の昼、インターネットで服のデータを漁ってきたようだ。
・・・まぁ、変なウィルスと、変なサイトに気をつければ、大丈夫だろう。
そう思って、昼のパソコンのインターネット回線は彼ら(特にメイコ)に任せることにしただった。
 
 
 
「マスタ・・・ってさ、カイ兄ぃビイキだよね」
入って直ぐベッドに座り、そしてイキナリレンがそんなことを聞いてきたから、面食らったのはだ。
「レン?」
「だって、いっつも練習のときカイ兄ィってマスターの・・・隣じゃん」
「じゃぁ、次はレンが取るか?
 早い者勝ちだぞ」
そう言って、クルリと机の方へ身体を向けると、キュイと回転椅子の音が鳴った。
その時に呟かれたの言葉は、レンに届くことは無かったけれど。
「・・・モメルぞ、きっと」
コンコンッ
と再びドアがノックされる。
入ってきたのは、白いジャージ姿のカイトだった。
「マスター、レンを引き取りにきました」
そう言って、ベッドで眠る彼をカイトが覗き込む。
「ありがとうカイト。
 メイコとミクは?」
お礼をいい、残り二人の様子を聞くと
「もう、先に寝ると言って、さっさと部屋に入っちゃいました」
その答えに
「リビングにお前一人・・・か。
 いくら決まりごとって言ったって、ちょっとツライなら先にパソコンの中入ってるか?」
と言ってくれたけれど
「いいえ。
 それじゃ、マスターの提案に矛盾が生まれてしまいます」
そう言って断る。
本当は、とても嬉しいけど・・・
でも、この提案はマスターが自分からしてくれたもので、いつも夜遅く帰ってくるから・・・と。
平日、下手すれば休日も、もしかしたら構えないかもしれないから・・・と、そう言って、僕等に与えてくれた貴重な時間。
一日二人ずつ、一人につき一時間だけの、マスターの占有が、許される。
ちなみに、僕にはそれが与えられていない。
何故なら・・・
「レンを運んだら、僕も寝ます」
「今日もベッド?」
「・・・ダメですか?」
「お好きにどうぞ」
マスターが書いた三番目の追記。
まだ知ってるのはメイコだけだけど、僕にはあれがあるから。
今日も、マスターが仕事をしている後姿を見ながら、眠りについたのです。
それにしても、マスター・・・もしかして本来の仕事、終わってる?
一体・・・何・・・を・・・?
 
 
 
 
 
 
 
「リンは高音・・・で、明るい系の赤の曲か、青と混ざるようで混ざらない曲がいいと・・・」
そう言いながら、棚の中からCDを選んでいるのはだ。
「レンは低音だったら深い緑色の曲でも合う気がするなぁ・・・」
そんなことをブツブツいいながら、適当にディスクを取り出して、ラジカセにセットしていく。
そして、それをヘッドフォンで聞きながら、ペンをメモ用紙に走らせていった。
アトガキ
VOCALOID KAITOメインのオール夢
カイトカイトにされています。
2008/02/19
管理人 芥屋 芥