「ハイ!ハイ!ハイ!
 ワタシはマスターと一緒の部屋で寝たいです!」
真っ先にリンが元気一杯に名乗り出る。
ピカピカになったリビングで、マスターがコーヒーを作りながら、僕は一人座り用ソファに座って、リンとレンは床に敷かれたカーペットにそのまま膝を立ててロウテーブルに置かれた紙と睨めっこ。
メイコとミクは、三人掛けソファに座りながらそんな二人を見守るように・・・しかしメイコの手には酒があったけど・・・
「ダメよ、リン。
 マスターだって、毎日一緒っていうわけにはいかないでしょう?」
と、ツマミに手を伸ばしながらリンを牽制する。
ミクは、そんな三人を見ながらオロオロしていて、僕はというと、ソファに座りながら渡されたバニラアイスのカップの中にスプーンを立ててすくって食べている。
アイスがあれば、今決まろうとしている部屋割りは多分、どうなったっていい・・・
後で後悔することになるんだろうけど、今はアイスがあるから、気にしない。
残り物には福が来る・・・ハズ
「じゃ、阿弥陀クジで決めればいいんじゃない?」
コーヒーカップを手に、テーブルの方へ座りながらそう言ったのはマスター。
「「アミダクジ?」」
と、二人して反応するのはリンとレン。
ミクは、そもそも言葉の意味が分かっていないのか、キョトンとした表情でマスターを見ている。
「うん。えっと・・・なんて説明したらいいのかなぁ・・・あぁ、やってみれば分かる・・・かな?」
そう言っては自分の部屋へと足を向けて
「マスター?」
とメイコが後ろから掛けた声に足を止めずに答えた。
「新しい紙、取ってくるだけだよ」
そう。
双子が肘をかけているロウテーブルに置かれている紙は、双子が『あーでもない、こうでもない』と言い合いながら書いた落書きがあって使い物にならないから、新しい用紙を取ってくると、マスターは・・・
双子が迷惑を掛けて、ゴメンナサイ。マスター
新しい紙と定規とエンピツを持ってきたがリンとレンがしているような格好で膝で立って、ロウテーブルの上で何か真っ直ぐに線を書いて、そして、適当にその線と線の間を適当に横切るようにして、垂直とか斜めとかの線を書き込んでいく。
そして、縦に引いた線の片方の方に何かを書いた後、その部分の紙を折り曲げて隠してしまった。
「即席アミダクジ、完成。
 じゃ、自分の好きなところに手を置いてね」
そう言ってまずリンに
「どこがいい?」
と聞くと
「えーリンが最初かよ」
と、早速レンが抗議を出す。
「分かった。ジャンケンで順番決めよう」
提案したのはマスター。
だけど、
「俺は最後でいいです」
と、ここは長兄らしく遠慮してみる。
すると
「じゃ、わたしはお兄ちゃんの前がいい!」
とミクが言う。
「なら私は、ミクとカイトの間でいいわ」
とメイコがちょっとヒネクレタことを言った。
「じゃ、リンとレンは同時に選んで」
マスターが妥協して二人に提案する。
「「はい!」」
元気一杯の返事をして、同時に指を押さえる・・・が
「もう、レン!同じところ押さえないでよ!」
「リンだって!」
と、同じ箇所を同時に押さえてしまい、また言い争いが勃発する。
「分かった分かった。
 俺が選ぶ。それで文句ないな?」
そう言って、マスターがリンとレン二人の始点を決めて、次にミクが選ぶ。
「わたしは一番端っこで」
「じゃ、私はここね」
と押さえていって、残ったのがミクとは逆位置にある反対側。
「じゃ、カイトはここだな」
そう言うと、まずリンからマスターが手を掴んで動かしていく。
「マ・・・マスター?」
リンが驚いて、少し顔を赤くしながらの彼らにとっての『』を意味する名前を呼ぶ。
はそんなことに頓着せず、ゆっくりとリンの指を動かしていって、
「はい到着。リンの場所はここ」
と言うと、紙に『リン』と書いて次に移った。
そうやって全員が終わり、
「結果発表!」
が言うと、ちょっと・・・緊張の空気が彼らの間に流れる。
だがそれ以上に、マスターに手を触ってもらった。
そっちの衝撃の方がデカカッタ・・・のは、口には出さない。
「リンとレンは、一番なので昨日と同じ部屋。
 メイコとミクは、二番に当たったので昨日メイコが使った部屋。
 んで、カイトが三番で、暫定的にパソコンの中」
と言って、隠されている紙を皆に見せた。
「うわぁ・・・本当だ」
最初に覗き込んで感想を言ったのはレン。
「お兄ちゃん・・・パソコンの中・・・」
ミクが、憐れむようにしてカイトを労う。
だが、次のメイコの言葉によって、状況は変わった。
「でもパソコンの中ってことは・・・
 基本的には、マスターと同室ってこと・・・よね?」
と。
「・・・いいなぁソレ」
「・・・いいなぁカイ兄ぃ・・・」
リンとレンが同じような内容を、ほぼ同時に発する。
基本的にこの二人は、どうやら同じ思考回路をしているようだ。
確かにマスターと同じ部屋・・・それは嬉しい。
嬉しいけれど、『暫定的』って、何?
これ、部屋割りを決定するために決められたモノ・・・のはずですよね?マスター
「あの・・・マスター・・・暫定的って・・・?」
遠慮がちに言った言葉の後、の次の答えで、カイトは固まった。
「あぁ。暫定的じゃなかった。ごめん。決定・・・しちゃったなぁ」
つまり、自分が眠る場所はふかふかのベットではなく、しょっちゅうCPUとかソフトが働くガヤガヤしたパソコンの中。
しかもインターネットの向こう側から、自分と同じ歌声が聞こえてきて、本当に・・・
稀に『手を貸してくれ』って言われて・・・って、どうして僕こんなこと知ってるんだろう?
確かに、眠らなくても大丈夫にはできてる。
それはメイコやミク、リンとレンも変わらない。
だけどなんだか、ちょっとだけホン少しだけ・・・悲しい。
「了解しましたマスター。
 俺はパソコンで休みます」
カイトがそう言うと、時計を見た
「じゃ、もう遅いから、お前等は寝なさい」
と言って、ミクとリン、それにレンを立たせてさっき決めた部屋へと連れて行く。
「ちぇ。いいよなぁ『大人』は」
レンが名残惜しそうに言うが
「ダメだよレン。
 そんなこと言っちゃ」
と、マスターが上手い具合に彼ら(自分もだけど)が傷つく言葉を避けて注意した。
この辺りは、いつも感心する。
でも、心無い人はこう言うのが分かってる。
何故だか知らないけど、何となく・・・『僕(KAITO)』は知ってる。
『仕方ないだろ?
 お前は、『そういう風』には造られてないんだから』
と。
 
 
「カイト?」
「・・・うわぁ!」
ぼんやりしていたところを覗き込まれて、慌てた挙句後ろにひっくり返りそうになったけど、なんとかソファの背もたれにしがみついて耐えた。
ヤバイ。
さっきの手のぬくもりと併せて、今の顔のドアップは・・・心臓(ツイテナイケド)に悪いよ。
うわぁ・・・CPUがバグバグイッテル。
「どうしたの?」
メイコが不審に思って声をかけてくるが、ちょっと・・・ゴメン。
今は余裕ない。
「さってと。
 俺、仕事の続きするから・・・二人共、後よろしく」
そう言うとは自分の部屋に向かうとするその後ろから今度はカイトが声を掛けた。
「マスター。
 もし、コーヒーのお代わりありましたら、言ってくださいね」
と。
 
 
 
「あんたも運がないわよねぇ。
 まさかパソコンの中だなんて」
と、メイコがさっき決まったクジの紙を見ながら呟くように言う。
「うん。
 でも、きっと、これで良かったんだと思うよ」
メイコと僕が入れ替わったとしても、多分、メイコが言うかもしれない言葉を言ってみる。
「さってと。
 私もそろそろ寝るわ。ミク一人放っておけないし」
と言って立ち上がった時、ヒラリと紙がソファから床に落ちていく。
そしてそれをメイコが拾い上げて、驚いた顔をして固まった。
「どうしたのメイコ?」
声を掛けても、しばらく返答がなかった。
というより、メイコの肩・・・僅かに震えてない?
一体・・・何が・・・
そう思ったときだった。
「・・・やっぱり・・・カイト・・・あんた、私と代わんなさい」
そう言い放った彼女の声は、とても・・・言葉じゃ言い表せないほど、怖かった。
「ど・・・どうしたの・・・メイ・・・ちゃん?」
『メイコ』と言いかけて、『ちゃん』付けに代わる。
そして、彼女が持っている紙をヒョイと少し背伸びして上から読むと・・・
『三番追記:使いたかったら、いつでもベッド使って良し』
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・これって・・・
そう思って顔を彼女に向けると・・・そこから先は・・・言いたくない。


マスタァーーー!ヘルプ・ミー!!!
アトガキ
VOCALOID KAITOメインのオール夢
どうしよう。
未来(さき)が見えないorz
2008/02/12
管理人 芥屋 芥