妙に重い、息が苦しい、そして、寝苦しい・・・
マ・・・マスター・・・重い・・・
意識はハッキリしているが目が開けられない、そんな中途半端なまどろみの中をカイトはもがいて、腕を懸命に動かしてその上に乗っているであろう彼から逃げようとする。
だが、恐らく彼ならそれだけで自分の上から退いてくれそうな気がするのに、今上に乗っている『誰か』もしくは『何か』は、そこから離れようとはしない。
不審に思ったカイトは一度抵抗を止めて、自然と目が開くのを待って、やがてゆっくりと目を開けて、上に乗っている『モノ』の正体を見た。
「フニャ・・・ァ・・・マスターの匂いがするですぅ」
「マスタァの寝てたベッドォ・・・」
「いい匂い・・・」
この声・・・ま・・・さ・・・か
「ミク・・・リンにレン・・・」
そして、駄目押しに、ドアから入ってきたのはメイコ。
「あら、随分遅い起床ねカイト。
 マスターならもう『仕事』に行って、ここにはいないわよ?」
見えない不安
「お兄ちゃん、ずるいです」
「そうそう。
 カイト兄さんはずるい!」
 カイ兄ぃはずるい」
朝からずっと、いや、自分が起きたときから、ずっとこの言葉を三人から連呼される。
そして例によって例にもれず、メイコは止めない。
しかも
「あんたが料理とか上手くて助かったわ。
 じゃなかったら、私の料理をマスターに食べさせるところだったもの」
などと、追い討ちをかけてくる。
また、覗かれた・・・
と、ズシリと心が重くなる一言をズバリと言ってのけるメイコに半ば泣きそうになりながら、
「メイコ・・・」
というが、彼女にはそんなこと通じるわけもなく。
「何よ、その顔。
 あんた、私の料理がどれほど下手か知ってるでしょ?
 だから、仕方なしにあんたのメモリを覗いたのよ。
 不可抗力よ。不可抗力。
 それと、ミク、リン・レン。
 マスターが帰ってくるまでに、お掃除がんばりましょう!」
カイトを放って、三人にそう言うとそれぞれ違った反応を見せる。
「お・・・掃除?」
「メイコお姉ちゃん・・・掃除って・・・」
「・・・そ・・・掃除?!」
恐らく、ミクは全然分かってないと思う。
リンやレンは、恐らく分かっていてとぼけている。
それを読んだメイコが
「そうよ。
 帰ってきて部屋が綺麗だったらマスターも喜ぶでしょ?
 だから、この家を綺麗にするの」
というと、口々に
「えー」
「えぇ?!」
「うわぁ」
と揃えて言う。
が、次のメイコの言葉で、そんな声がピタリと止まった。
「それに、今日朝マスターが私に言ったんですからね」
と、メイコがその時のファイルを皆に配る。
それは、マスターのフォルダへと振り分けられ、早速開けて聞いてみる。
『あ、そうだ。
 下の階の片付けを、簡単でいいから、やっていてくれると助かる。
 本当は、頼むのは筋違いだと思うんだけど』
なるほど。
これなら、しない訳にはいかない!
「・・・じゃなかったら、私達マスターに・・・」
ここから先は、五人全員にとって、禁句。
――捨てられてしまうわよ――
それは本能的に分かるのか、三人の顔に少しだけ真面目さ・・・というより、『ヤバイ』という少々焦りの方が勝る表情をした。
「「「はい! お姉ちゃん!」」」
という元気な声が響くと、カイトの身体から三人が離れてそれぞれ嬉々とした様子でメイコが決めた割り振りの表を見て、それぞれの作業を開始していく。
その様子を呆然とした様子で見ていたカイトに、メイコが腰に手を当てながら目の前で仁王立ちになり
「あんたは、水周り・・・できるわよね?」
と聞いた。
メイちゃん・・・それ、質問になってないよ・・・
と、彼女の顔を見てカイトは思ったが、口には出せない。
マスターのためなら・・・頑張れる
「・・・うん」
「じゃ、色々よろしくねー」
そう言うと、手をヒラヒラさせながら彼女はミクや双子達に掃除の手順などを説明しはじめた。
 
 
マスターのために、苦手な水もなんとか触れる。
マスターのためなら、家のことだって、なんでも出来る。
でも、『片付け』と『掃除』ってちょっと違わなくない?メイちゃん?
繋がっている深い部分でそう彼女に言うと
・・・いいのよ。
と、少し照れた彼女の返事が返ってきた。
 
 
 
 
 
 
先生、外線六番にお電話です」
昼休みも終わり、後は午後の六時間目をこなせば終わり。
そんな時間割の中、職員室に響いた自分の名前。
授業がないって言ったって、仕事はあるから、椅子から動けない。
「はい。わかりました」
とは答えたものの、
ハテ?
外線から何か連絡されるようなこと、しただろうか?
そう思いながらも声の主にお礼を言って、は受話器を取り、言われた外線の番号を押して電話に出た。
・・・アイツ等・・・
バキィッ!
とチョークが折れる音が理科実験室に響く。
電話の受話器を戻した瞬間から、家のことが気になって仕方が無い。
ハテサテ、ボーカロイド達に片付けを頼んだのが失敗だったのだろうか・・・
と、は激しく後悔している。
だが、それ以上に後悔しているのが、電話の内容そのものに対してだった。
・・・下の生活空間には防音設備は無いんだ!!
それに、帰った時に家がとんでもない状況になっていたら、もう二度と頼まない。
そんな考え事をしていた彼に
「先生・・・何固まってるんですか?」
生徒が不審がり声をかけてきたから
「あ・・・あぁ、ごめん」
は謝り、授業を再開させた。
 
「すみません、ちょっと俺、先に失礼します」
仕事を早々に切り上げて、は席を立つ。
そんな彼の頭の中には、電話内容がグルグルと渦を巻いていた。
、一体どうなってるんだ?
 お前の部屋から、すごい音が聞こえてくるんだが・・・
 まさかお前、学校に行ってないのか?』
所謂、苦情を受けてしまった。
「・・・あ・・・すみません。
 ちゃんと来てますから・・・ハイ・・・ハイ・・・それでは」
なんとか取り繕ってその場は逃れたのは良いんだが。
あいつ等一体何をした?
俺は片付けくらいしか頼んでないんだぞ?
なのに、なんで大音量が下の階にまで響くんだ?
そんな考えが頭の中をグルグル回り、は家の玄関を一種の覚悟を持って開けた。
 
 
 
「「「おっかえりなさーい!」」」
三者三様の声音がハモリ、見事な調和の音を奏でる。
こう言うときは、結構彼らが『歌うために生まれた』のだということを実感できる・・・なんて、感慨深く考えている場合じゃない!
「お前等一体何・・・を・・・」
意気込んで言ってみたものの、途中からその言葉は失速した。
「・・・した・・・」
の目に飛び込んできたのは、ピッカピカな我が家。
「お帰りなさい、マスター。
 言われたとおり、掃除、五人で頑張ったんですよ。
 マスターのためにって、そう思ったら、こうなっちゃいました」
と、メイコが言う。
「カイトが水周り担当。
 ミクと私が磨いて拭いて、リンとレンが・・・って、マスター?」
メイコが、目の前に立つの表情を見て、問い掛けてくる。
「お・・・驚いた」
メイコの言葉反応したの顔は、半ば放心半ば感心といった具合の、絶妙な表情をしていた。
「驚いた。
 こんなピカピカなの、初めてだから・・・」
そう言うと、ミクがさっきの元気はどこへ行ったのか、少し泣きそうに
「ねぇマスター・・・あの・・・・・・」
と言ってくるが、その後の言葉が言葉にならず、消えていく。
昨日で大体の性格を把握していたがミクの前に屈んで視線を合わせて
「どうした?」
と聞いた。
「・・・ミク姉ェは、マスターに捨てられるんじゃないかって、そう思ってんだろ?」
続きを言ったのはレン。
だが、すぐにリンが
「レン!」
と言って、弟を注意する。
言われたレンは、渋々といった表情をして、そっぽを向いてしまった。
「・・・だってぇ・・・」
ミクは泣きそうな顔で、ますます俯くばかり。
やがて、本当に小さく息を吐いたが彼女の頭の上にポンッと手を乗せた。
「ミク、大丈夫。俺は捨てないよ。捨てないから、機嫌直して・・・な?」
優しい声で、ミクだけじゃなく、レンにもリンにも手を乗せていく。
「レン、横から茶々入れない」
レンの頭に手を乗せたとき、が誰にも聞こえないように、コソリと注意をする。
「だ・・・って・・・」
「大丈夫。分かってるから」
そう言うと、レンの表情が泣き顔へと変化していった。
そして
「・・・マ・・・マスタァァ!」
ボフッと、にしがみつき、そのまま泣いてしまった。
どうやら、彼は彼なりに不安だったらしい。
そして、それにつられるように、リンも泣き出す。
その様子を一歩離れて見ていたメイコとカイト。
「メイコ・・・もしかして、煽った?」
と、意外に冷静なカイトがメイコに聞いていた。
「まさか」
だがその表情は、ほんの少し、安堵ともとれる表情をしていた。
アトガキ
VOCALOID KAITOメインのオール夢
ツンデレンフラグ?
2008/02/09
管理人 芥屋 芥