抜く?
マスター、それは、アンインストールですか?
・・・それは、ちょっと、イヤです。
いや、『かなり』いやです。
ねぇマスター。
マスターがそうしないために、僕は一体何をすれば良いですか?
Brothers gather!
「帰るか?」
がカイトにそう尋ねると、彼は小さく僅かに体を震わせながら頷いた。
帰れば、消されてしまう。
その恐怖が、カイトの足を進ませなくする。
だけどマスターの言う事には逆らえないように出来ているから、自然と体が車のドアを開ける。
車の中には、重苦しい沈黙。
帰るまで、耐えられるだろうか?
そう思ったときだった。
マスターが、口を開いたのは。
「カイトは、消されるのはイヤなんだろ?」
一気に核心の部分を突かれてしまった。
嘘はつけないから、
「ハイ」
と、答える。
「だったら、消去とか、アンインストールとか、そんなこと考えなくていいよ。
 でも、お前が必要以上に俺に怯えるなら、ソレを考えるってだけの話。
 お前はお前なんだから、堂々としてればいいんだよ。
 それにお前が歌うためにココにいるなら、俺も時間が空けばとことんまで付き合うし。
 第一お前。まだまだ『歌い足りない』っていう顔してんのに、消去なんて勿体無いよ」
「勿体・・・無い?」
「そう。勿体無い。
 声楽に関して俺は何の知識もないけど、歌ってるときいい顔してたし、ホントに好きなんだなっていうのが伝わってきたからさ。
 なんていうか、それだけで十分だと思うよ」
信号で止まった車の中で、はハッキリと横を向いてカイトに微笑み、おまけに手まで伸びてきて、髪の毛をグシャグシャと引っ掻き回される。
「マ・・・マスター、信号がそろそろ変わります」
マスターの車はオートマじゃなくてミッション車だから、片手じゃ車は動かない。
「帰ったら、ちょっとだけ朝のオサライして、それで今日はそこまでだな」
話をそれで切り上げて、車はマンションの駐車場へと戻っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
僕は僕・・・でいいんだ。
そんな、基本的な自信が自己を確立していく。
マスターが仕事で演奏できない時には、色々とお手伝い。
水は苦手だけれど、我慢して水仕事にも挑戦してみる。
『カイト。コーヒー作って』
ヘッドセットから聞こえるマスターの声に『ハイ』と答えた返事は、パソコンを通じてマスターの元に届く。
マスターがそういう風に設定を弄ってくれたお陰だ。
「ハイ」
ドアを開けて、コースターの上に熱々のコーヒーを置く。
「ありがとう」
声だけで返事をして顔を上げてくれないときは、机と画面に集中気味。
こんな時は、黙ってこの部屋から出て行くのが最善。
一週間で学んだ、マスターとの付き合い方。
ピンポーン
あれ?
玄関のチャイムが鳴ったので出ると、宅配の人だった。
アレレ?
マスター、通販か何かで買い物でもしたのだろうか?
疑問に思ったが、これも報告。
「マスター、宅配の人が来ています」
すると部屋から出てきて、対応していた。
そしてその箱が出てきて、僕の顔は思いっきり引きつっていた。
メ・・・メイコにミク?それに、リン・レン?
「マ・・・マスター・・・あの・・・」
妹のミク・リン、弟のレンは兎も角、メイコは・・・怖い。
「ん?何?」
「いや・・・なんでも・・・ありません」
「どうしたの?
 もしかして、女性ボーカロイドに照れてるとか?」
「そ・・・そんなことは!」
そんなこと、笑顔全開で言わないで下さいよ!
だが、カイトの口はその部分は言ってくれなかった。
そしては、カイトの思いとは真逆の方向へ向かっていく。
「まぁ、レン以外は皆女性だし、ハーレム状態だなぁ、カイト。
 良かったじゃないか」
そう言って、パソコンの中に先ずメイコのディスクがセットされる。
あぁ・・・俺の人生、終わったかも・・・
 
 
 
先ずメイコがパソコンの中から出てくる。
徐々に固まっていく立体映像から、やがてソレは質量を持ち出す。
そんな幻想的な光景から、やがて現実的なソレへと変化する様子を黙ってみていた
「よろしく、メイコ」
というと、彼女が目を開いた。
同時に、口も開いて、
「あら。カイトが先?」
と、あからさまに残念そうにメイコが言い、そしてマスターに向かって
「マスター初めまして。ボーカロイド00-01 メイコです」
と、こちらは敬語で挨拶した。
「よろしく、メイコ」
「ハイ」
そうして、カラフルな頭の色をした兄弟五人、全員が揃った。
すると途端に部屋が騒がしくなった。
「お兄ちゃんはわたしより先にここに来たんでしょう?」
ミクが長い髪を床につけて膝たちしながら、一人用のソファに座るカイトにさっきから質問攻めだ。
そして、そんな二人の前の三人掛けのソファで暴れているのが
「マスター!リンがぁイジメルぅ!」
「マスタァ、見てみてレンを弄ってみたのぉ!」
ハッキリ言って、騒がしい。
特に、一番下の双子が!
声量が上の三人とは桁違いにあり、しかも性格の幼さも加わって余計に騒がしい。
「分かった、分かった。分かったから!
 何か弾くから、俺がメシくって風呂に入ってる間に、全員上に上がって静かに待ってなさい。
 いいね?」
そう言った後、
「はぁ」
と大きくは息を吐いた。
まさか、こんなに騒がしくなるとは・・・
ちょっとだけ後悔しただったが、起動してしまったのは自分だ。
今更撤回は、ちょっと・・・したくない。
本気ではないが、それでもが困っていることは察したのだろうか、最初に動いたのはメイコだった。
「上、行こっか」
そう言って、下の三人を二階に上がらせる。
自分も階段に手をかけたとき、メイコはチラリとを振り返り、カイトに何か言うに、少しだけ・・・
――らしくないわね。
 
 
 
 
 
流石に歌い疲れたのか、夜十時を過ぎるとミクと双子はすぐの目蓋が閉じだしたので、それぞれ抱えて部屋に運ぶ。
レンを運び終えたところで
「元気だなぁ」
パタン・・・とドアを閉めながら、が小さく感想を洩らした。
リビングに残っていたのは充電しているメイコと、の為にコーヒーを入れる台所に立つカイトの二人だった。
「マ・・・マスター」
「ん?」
メイコがを呼ぶ。
その顔は、少しだけ照れていた・・・ようにカイトは思った。
「あの・・・カイトの冷却がアイスだって・・・その・・・私は・・・」
そう。
メイコの体の冷却材は、何故か酒。
「メイコの冷却は、酒なんですよ。マスター」
そう言った時、メイコがカイトを凄い形相で睨むがは気づかなかった。


・・・あんた、後で覚えときなさいよ?


インカムを通して、無線でメイコが言ってくる。


・・・ご・・・ゴメン


だが、マスターの顔は驚きと、どこか嬉しさが混ざったような表情をしていた。
何故?
「そ・・・そうなの?」
「はい。設定がそうなってるらしいんです」
恥らうようにメイコが言う。
「どこまで飲める?」
のこの問いには、流石にメイコもカイトも一瞬言葉が詰った。
「「・・・え?」」
二人でハモル。
こう言うときは、やっぱり実感する。
リンやレンとはまた違った意味での、自分達が『双子』だということを。
「いやぁ、そういうことは早く言ってよ。
 それなら・・・」
と言って、がソファから立ち上がり、台所に足を向けてきた。
「カイト、コーヒーいらないから」
カイトの後ろを通るときにそう告げると下の棚を開け、そこから出てきたのは・・・ワンカップが二本。
マ・・・マスター?!
アトガキ
VOCALOID KAITOメインのオール夢
まだまだ続くよ!
2008/01/29
管理人 芥屋 芥