結局、車を動かしたのは三時を過ぎていた。
散々俺が起こしてやったのに、こいつときたら起きネェし・・・
ま、曰く「間に合う」らしいから別にいいと思った。
それに今から行く航空祭とやらにそんなに興味もねぇし、世間一般からみたら所詮マイナーだ。
運転を一切に任せ、俺は助手席でただ座ってるだけだ。
それに、こいつから話を振ってくることなんか、ない。
まるで俺がいないみたいに振る舞いやがる。
「止まるのか?」
そう言うと、
「言っとくけど、飯や飲み物、会場側に行けば売ってるけど、俺は行く予定ないから全部自分で用意が当たり前だぜ?」
そう言って車を降りる。
つられて降りた俺に、何の感情もこもってない表情で
「大体、駐車場に何かあるとでも思ってるのか?」
ちょ・・・ちょっと待て。
「駐車場?」
「駐車場だよ。ま、行けばわかるさ。とりあえず、昼飯と朝飯買ってくる。あんたは自分で買え」
そう言って、コンビニに入っていった。

レンズ越しの世界
高速を降りたら、あとは簡単だった。
いや、周りについていけばいいだけだったから。
除々に増えていく車の数。
そして、目的地が同じなのか、同じ方面を目指してる。
こいつ等、皆航空祭目当てなのか?
信号で停まったとき、後ろのカバンに手を伸ばしがなにやら取り出した。
そういや出るとき荷物整理してやがったな。
と思って、その手にあるものを見てみると・・・
 
 
 
長いアンテナをつけた、電話より大きな・・・無線機だった。
そしてなにやら操作をして、ダッシュボードに置いた。
信号が変わりしばらく行くと、山が目の前に現れる。
どうやらそこがの目的地のようだが、その山沿いの道を進むにつれての顔が険しくなった。
「警察張ってる。回り込む」
そう言ってユーターンをする。
俺には、どこに警察がいるのか分からなかったが、どうやらの目には見えていたらしい。
「戻るのか?」
そう言うと、
「いや?わき道に入るだけだよ」
そう言って、とある十字路で右にハンドルを切った。
その道をしばらく行くと既に車がいて、停まってる。
そう。
完全にエンジンを止めている車が既に何台かいた。
「ま、この時間なら早いほうかな。あとは開門と、本線に入れてくれるのを待つだけさ」
そう言ってエンジンを止め、ドアを開けた。
その時だった。
無線機がなにやら拾ったのは。
 
 
途端響いた物凄い音に、俺は驚いた。
一瞬雷かと思ったくらいだ。
「天候調査にC-1が上がっただけさ。そんなに驚くことか?」
と、まるでなんともないような様子だった。
「慣れてるな、お前」
「そりゃね。」
足を外に出して、空を見上げている。
「こりゃ晴れるな。でも雲量は大体2ってあたりかな。あとシーケンス、今年は高いかもしれない」
「なんだ?その『シーケンス』って」
「知らないなら知らないでいいよ。別に知ったところであんたには関係ないさ」
そう言うと、カバンの中から水筒を取り出した。
「持ってきてたのか」
「そりゃね、あんたと比べて俺は貧乏ですから、できるだけ自前で用意するようにしてるのさ」
がお茶を飲み終えた頃、前の車のエンジンが掛った。
「動く」
それだけを言うと、素早くも車のエンジンを掛け、前の車についていく。
そして俺はなぜが『本線に入れてくれるのを待つ』といったのか、理解した。
ドンツキがT字路になっていて、伏線はこっちだったからだ。
なんとか入れてもらって、どんどん山を上っていく。
途端開けたかと思えば、左がわに連なるフェンスの壁。
誘導にしたがってそのフェンスの内側に入る。
そして、朝からずっと謎だった『駐車場』のことを初めて理解した。
 
 
 
「見事に車ばっかりだな」
だだっ広い空間に、ただあるのは、車・車・車・・・
誘導には従わず、目的のところに駐車した。
そして車を降りると、は後ろのドアを開け、タオルと専用ケースで守られた自前で買ったレンズを取り出し、カメラにセットした。
「デカイな」
率直な感想を言うと、
「レンズだろ?そりゃね。長いよ。40センチ以上あるし・・・重量は5.3kg。今回こいつを持って来ようかどうしようか迷ったんだけどね。」
レンズに向ける視線が、どこか誇らしげだった。
純粋にカメラが好きなんだと、この時初めて分かったような気がした。
「さてと。飛ぶまでに時間あるけど、早めにトイレとか行っておいた方がいいよ?即席トイレだから最後の方なんか、はっきりって・・・あまり衛生面良くないし・・・」
それだけ言うと、ドンドン歩いていった。
すでにそこには場所取りや、人がたくさんいた。
 
 
 
通り過ぎる前までは、ハッキリ言ってナメテタと思う。
なんだ?!
この爆音は!!
「ローパステイクオフや・・・あんな高速で目の前飛ばれたら撮るに撮れん・・・」
近くで関西弁の女の声がしてそちらを向くと、カメラの構えを解いて、肩をかしげていた。
「ローパスやなぁ」
と、その女の彼氏が指を指し、
「来るで」
と言った方向に、思わず俺もつられて視線を向けた。
は既にそこにカメラを向けて、真剣な表情でファインダーを見ていた。
次に来たのは、三機同時。
一機ですらあんな爆音がするというのに、それが三機同時だと?
一体どれほどのものなのか、初めての俺には検討すらつかない。
 
 
 
 
脳天直撃・・・
真上を一機が通って行きやがった。
こんなところに、好き好んでくるヤツは、本当に好きな連中だけだ・・・
そう、心の底から思った。
こんな世界、俺の世界じゃねぇ。
こんな爆音といつ落ちてくるか分からないところに敢えて行く世界なんて・・・俺様の世界じゃねぇ。
たまに事故を起こして、ニュースになるだけだ。
俺にとっては、テレビの向こうの世界・・・
唐突に、俺は分かってしまった。
なぜが『現実じゃない』といったのか。
『お前にとってはお前の世界は現実だ。だけど、俺にとっては違う』
そう言いたかったのか?
それは、認めると同時に、お互い違う世界に住んでいるということを知らしめる言葉。
フィールドが違うと・・・
にとって、この爆音や風を感じることが現実なんだ。
だけど俺は違う。
 
 
 
 
・・・
 ・・・
  ・・・
ふ。
事を急ぎすぎたな。
俺様もまだまだだなぁ・・・

 
 
 
 
「どうだ?跡部。あんたも航空祭にまた行きたくなったか?」
カメラを見、レンズを左手で支えながらが言った。
「俺の世界じゃねぇよ、こんなとこ。でも、たまには悪くないかな」
「その言葉、そっくりあんたに返すよ。」
そう言うと、初めて(かすかにだけど)笑顔を見せた。
「最後のブルーがまだ残ってる。無線聞いてろ。」
そう言って、予備の無線機を渡してくれた。
初めて触れる世界。
カメラを構えるの真剣な表情。
シャッターを切るときの指。
狙ったタイミングを撮った時の・・・嬉しそうな顔。
一瞬の、音と光の世界。
 
 
 
 
「凄かったな。」
『ブルー』ことブルーインパルスの演目は、『第一区分・フル』
いや、よくわらかねぇんだが。
そうだったらしい。
途中から帰る車が多く、振り返ると長蛇の車の列が出来ていた。
「全部終わったろ」
そう言うと
「まだ帰投機が残ってる」
そう言ってそこから動かない。
周りを見ると、確かにカメラを構えている連中はまだ残っていた。
そして今朝の関西弁の女も、
「あ・・・ランプついた」
と言って、カメラを覗いていた。
なるほど・・・と。
次々に離陸していく戦闘機を見て納得した。
そして最後に・・・
「F-1や。気合いれましょ」
そう言って、女がカメラを構えると同時に、も(その女には見えないように)頷いて、構えた。
今までとは違う気迫を両方から受けて、俺は正直戸惑った。
なんでだ?
たかがさっきと同じ、戦闘機が帰るだけじゃねぇか・・・と
そう思っていたからだ。
だが、目の前を通り過ぎた瞬間、何故カメラを構えていた連中が違う気迫を見せたのか、分かってしまった。
『F-1 FinalYear』の文字を、俺も見てしまったから。
ファイナルイヤー・・・最終年
つまり、学校で例えるなら卒業する学年を表し・・・物で例えるならば・・・破棄決定年。戦闘機だから、もう飛ばないことでも意味するのか・・・
 
 
 
 
 
東京に帰ってからは、一気に疎遠になってしまった。
俺は俺の世界で忙しく、またの世界で忙しい。
だけど、二ヶ月くらいに一回は会えるようにした。
相変わらずの姓はのままだ。
そしてまだ俺に対する呼称も「跡部」のままだ。
まーそれについては大目に見てやろう。
今の今まで一人で生きていたんだ。
フッ。俺様も、丸くなったもんだな・・・
 
 
 
「でも、少しずつその世界が、やがて一つに・・・は・・・ならねぇだろうな・・・
 でも近づいてることだけは確かだから、それはそれでいいのかもしれねぇな?」
そう言うと、
「まーこれからさ。先は長いんだしな?兄貴」
そう言って、ニヤリと笑った。
アトガキ
裏のはずが,一気に唐辛子ア〜ンド趣味丸出し!
で,跡部が主人公君にキスしたのには裏設定があって,彼の母親に主人公があまりにもそっくりだったから。
っていう・・・裏仕様にしたらこんな感じになって,暗い話になる予定が,それを全部蹴散らしてくれましたね。
いや〜今回ほど『動いた』主人公って中々居ないよ〜
で,儂 芥が出てます。今回。勢い余りに余って出ちゃった・・・
分かり・・・ます・・・よね・・・(多分)

 
 
もしかしたら,この話・・・この主人公・設定で(また)何か書くかも・・・

2017/07/17 書式修正
管理人 芥屋 芥