話した内容とは?
「お前の言っていたことが、正しかったようだな。」
レフトアローンが流れている。
先ほど、榊がリクエストした曲だ。
「なんのことです?」
そんな事言われても、思い当たる節のない。
「確か、こう言われたな。『私の方針には賛成出来ない』と」
そこまで言われて、思い出したようだ。
「あぁ。あの事ですね。自分が、先生の誘いを断った時に言った‥」
「そうだ。そしてお前はこうも言った。『心が大事なんだ』と」
「‥‥そうですね。言いました。」
観念したように認めた。
と言うか、思い出した。
「だから今でも‥‥賛成してませんよ。先生の方針。」
「だが、私は変えるつもりはない。心でつなぐなどと」
「それでも‥」
そこで一度言葉を切った。
「氷帝が‥一回戦で負けるなんて思ってなかったですよ」
そう言った。
「それを言うなら、お前が青学で先生をやっていることの方が驚きだ。」
暗に、『なぜ、青学なんだ?』という意味をしっかりと受け取る。
そこで沈黙が降りた。
マスターが、見計らって「ご注文は?」と聞いてきた。
榊は、すぐに注文した。
おそらく常連なのだろう。
だが、はお酒は強い方だがよく知らない。
だから、
「マスターに、お任せします」
と言った。
「この店、いいですね。気に入りそうです。」
何気に話をもっていく。
実際気に入りそうだった。
バーと言うよりは、ジャズ喫茶みたいな感じ。
「お前、大学の時は一体なにしてたんだ?」
出されたグラスを、手の中で玩びながら質問した。
(不思議に思われてるのか‥‥ま、そうだよね。)
「大学ですか?う〜ん、そうですね。旅とか、音楽とかその他イロイロやってましたよ。」
「学生を満喫してたのか‥‥」
納得するように言った。
「えぇ。オレ、ホントにテニスばっかりでしたからね。」
自分でもよく続いた方だと、は思っている。
実際移り気で、あちこちをフラフラするのが好きなのだ。
『お前は、めんどくさがりだからな』
と、ある人物に言われた言葉が、頭の中に木霊する。
「他のコトに目を向けると、結構面白いって事が分かったんですよね。」
「ところで、自分を呼んだ理由は?」
ずっと疑問だった。
確かに、さっきのの姿ではこの店には似合わないだろう。
だけどそれならば、‥‥
そこから先の思いは途絶えた。
「ま、この店にいれば分かる。」
(ったく。ま〜〜たそうやってはぐらかすんですね。)
でも‥‥
と思う。
(ピアノ‥‥言うことは誰かが弾くんだろうか?まさか‥‥先生?)
実は、が入ってすぐに目を引いたのは、店の奥にあるピアノだったからだ。
そのピアノに向かう別の人物がいた。
(よかった‥‥。先生じゃなくて‥‥)
そして始まったソロ。
「今日は、ソロのようだな。」
独り言の様に言ったのは榊だ。
(『今日は』って言うことは‥)
いつもはトリオか、それ以上で演奏していると言うコトだ。
(これは‥‥)
聞き覚えのあるナンバーだった。
店を出るとき、は聞いた。
「マスター。楽器、持ち込みOKなんですか?」
と‥‥
答えは「Yes」だった。
「‥持ってくるつもりか?」
だが、はそれには答えずに。
「ジャズは好きなので」
とだけ言った。
アトガキ
2017/07/17 書式修正
管理人 芥屋 芥