「桜、綺麗や・・・」
昼、出かけるからって言われて興味津々でついて行ったら、どんどん山ん中入って行ってびっくりした。
どうやらそこにある店から緊急で副業・・・本人曰く『ボランティア』で演奏の依頼が入ったらしい。
「付いてってえぇか?」
って聞いたら
「えぇよ」
って答えたから、車に乗った。
夜桜
「山のロッジを春と秋だけ解放してるような、そんな店なんだけどね。たまに演奏依頼が入るんや」
とか言いながら、車を運転してる。
とは言うても道がくねくねやったし、運転も荒いから着いたときには完全に酔ってた。
「ちょい気持ち悪いから、しばらく車におる」
そう言うて、駐車場に停まったの車にしばらくシート倒して寝てたんや。
 
 
コンコン・・・
窓を叩く音がして目を開けると、そこにが居ってドアを開けてきた。
「侑、酔いは覚めた?」
って言いながら差し出された珈琲を飲む。
それは、缶珈琲やなくて、カップに入った・・・
「店から拝借してきた。酔いが覚めたら、入って来い。」
そう言うと、すぐ向かえにある店にが足を向けたから、俺は車を閉めて後追った。
その時風が吹いて、思わず
「寒っ」
っていいながら、なんか周り気になって見回すと、桜が咲いてるのが分かったけど暗くてよぉ見えへんかった。
でも
「もうすっかり桜の季節やってんなぁ・・・」
なんて言いながら、の後追って、店に入った。
 
 
 
のギター聞くの、何年振りやろ。
ってくらい、久しぶりに彼の生演奏聞いた気がする。
二年ぶりくらいか?っていう感じやろうか。
相変わらず、指がよぉ動くなぁ・・・関心するわ。
あの手でコートの中じゃラケット握って教室ではチョーク持って、んでもって空に上がる時にはあれを握って動かして、必要やったらあれも持って指を掛ける・・・
あ・・・あかん。
最後、違法なモン想像してもた・・・
 
 
 
せやけど、相変わらずギターメチャクチャ上手いわ。
今日は予定ちょっと狂ったけど、でもの家に居って正解やったな。
と思いながら、侑士はカウンターに置かれたさっきが渡した珈琲カップに手を伸ばした。
 
 
 
 
「おつかれさん」
そう言って差し出されたのは、いつの間に注文したのか、カフェオレだった。
演奏後の温めのカフェオレは、なんとなく好きだって言ったのはもう随分前の話なのに覚えてたのか・・・
と思いながら
「ありがとう、侑」
と彼の前では関西弁になってしまう言葉のまま、受け取りながらお礼を言い、そのまま彼の隣に座る。
「さて、これ飲んだら、帰るよ」
片付けは済ませて、後は帰るだけ。
外はすっかり夜になっていた。
「侑、学校の方には連絡しといたから、安心してえぇよ」
そう言って、カフェオレを飲んだ。
 
 
 
 
 
車を運転してしばらくして、急にが車を道路脇に出来てた駐車帯に停めた。
「なんで停めるん?」
不思議に思って聞いてもは答えんと、後ろに置いたカバンの中に手を入れて何か探してる。
んで取り出したものを持つとドアを開けた。
冷たい風が車の中に飛び込んでくるけど、それも一瞬。
慌てて侑士が後を追うように車から出た。
はドンドン道を戻っていって、そしてあるところでその足を止める。
ようやく追いついた侑士が見たのは、道に沿って植えてある桜にデジカメを向けるの姿。
「何してんの?」
そう聞くと一枚、パシャリと撮った。
「ん?桜撮ってんの」
と言いつつ、デジタル画面を見てる。
「あんま綺麗に撮れんなぁ・・・やっぱ夜やからか?」
とか何とか言いながら、デジカメを操作しつつ桜にカメラを向けてる。
そして
「あ、このモードやったら綺麗やわ。」
と言って自分ばかり写真を撮る。
「ちょ・・・撮らせてぇな・・・」
呟くように言った忍足をスッと目の端で捕らえて
「ほい」
と言ってカメラを渡した。
「え・・・えぇんか?」
急に渡されたから、ビックリした・・・
と思いつつも、手は自然と桜に向く。
「撮りたいんやろう?」
そう言うと、自分は桜の枝に手を伸ばしてその花に触れて
「やっぱ、綺麗やな」
などと言ってるから、正直
――あんたの方が綺麗や
って言ったら、怒るやろうなぁ・・・と思いつつ、シャッターを切った。
アトガキ
本当に久しぶりの庭球短編になりました。
2007/04/04 up
2017/07/17 書式修正
管理人 芥屋 芥