抽選後
 少し遅れて入ってきた手塚に、注目が集まった。
 前の席にいる門脇が言ったことに答えながら、それでも手塚から視線を離さなかった。


 帰ってくる。

 そのことは、忍足から聞いていた。
 多分忍足のその情報は、あの先生からもたらされたモノなんだろうが・・・
 手塚が抽選を引いて、これで終わったと俺たちは会場を出た。
 その中で、まっすぐに「あの先生」に向かって歩いていく手塚。
「どうだった?」
 とソイツが言うと、手塚は相変わらずの無表情で、しかしどこか安堵した様子で
「はい」
 と答えてた。
「これから自由行動だけど、どうする?俺は学校に一度戻るけど・・・」
「時間もあまりありませんし、俺も学校の方に行きます」
 言葉をさえぎるようにして言った手塚にソイツは
「じゃぁ、送るよ」
 そういって立ち上がり、背を向けたソイツの体がグラリと揺れた。
「な・・・」
 ザワリと周囲がどよめいた。
 俺だって、信じらんという風に驚きの表情をしていただろう。
「て・・・づか?」
 ソイツの声が、やけに大きく響いていたが、それでも体が動かなかった。
「な・・・なんやぁあれ」
 と、どこか間抜けな声を出す白石に目もくれない。
 信じられねぇ
「あの」手塚があんなことするなんて!
 呆然って、こういうこと言うんだろうなぁと、俺は漠然と思った。
 後ろにいる樺地も微動だにしない。
 いあ、誰だって予想不可だったに違いない。
 それは、あの先生だってそうだったはずだ。
 重い沈黙が、廊下を支配していた。
 それを作り出したのは、何を隠そう手塚が今している行為。
 目そらせずに、かといってやることもねぇから俺は観察することにした。
 そして気づいたことがある。
 震えてやがる。
 手塚が。
 あの堂々としたオーラを放つあいつが。
 手塚は、ソイツの背中に額を当てて何か言ったが、当然聞き取れるはずがねぇ
 だけど、ソイツの反応で手塚が何を言ったか大体想像できた。
 ったく。
 いい大人が顔に出して赤くなってんじゃねぇよ
 手塚が体を離して去ってからしばらくしてその呪縛が解けた。
「行くぞ樺地」
 俺はいつものようにそう言って会場をあとにした。
アトガキ
あ〜あ
結局名前変換なかったけど・・・最後の一文だけに少し砂糖入れました。
2023/07/21 書式修正
管理人 芥屋 芥