浴衣姿で、外の景色を見ているに、手塚がそっと近づいてその頬にそっと触れた。
「熱いですね」
「あぁ、暑いね。なにせ南国だからね。ここは」
左手で頬杖をつきながら、手塚の方を見ようともせずにそう答えた。
「いえ。あなたの体のことです」
「俺の?」
そこで初めてが手塚を見た。
真っ直ぐな、それでいて熱い視線だな。
はそう思った。
だがそれに答えてやれるほど、自分は甘くないし、そのつもりもない。
領域
「さて、俺は部屋に戻るよ。」
一方的に話を切り上げようとして出て行こうとしたの腕を、手塚が思いっきり引っ張りそのままベットに押し倒す。
「なっ・・・!?」
なにをするんだ?
そう言い掛けたの声は、見事にかき消された。
「ん・・・」
カラーコンタクトを外したの、見開かれたアイスグリーンの瞳に自分の顔が写っている。
本当に、薄いな。
全ての色を反射する瞳。
の瞳は、手塚の瞳の色を受けて少し茶が混じっている。
こんなに間近で見たのは、初めてだった。
いつもはコンタクトで隠しているから、余計に目がいってしまう。
が抵抗して、手塚の肩を押しのけようとした。
途端、顔を歪める手塚に一瞬の抵抗が緩む。
その一瞬を見逃さず、手塚はの両手を一括りにしてしまった。
「ひ・・・卑怯だぞ手塚・・・んっ」
悪言を吐く口に、自分の唇を重ねた。
抵抗が止んでしばらくするまで、手塚はの手を離さなかった。
そして耳元で
「今まで言ってきたはずです。あなたが好きだと」
 
 
何度も何度も、言ってきた。
今まで数え切れないくらい、自分はこの人に言ってきた。
だけど、一度足りとも本気にされたことはなかった。
まるで自分の理性が試されているような、そんな感覚すら途中からあった。
「だからって、実力行使か?」
まるで考えが読まれているかのような言葉を発したに、手塚が驚いた。
その顔を見たの瞳が、少し厳しくなる。
「別にお前を試してるつもりはない。ただ俺は、お前の気持ちには答えられない。それだけだ」
「どうしてですか?」
唇が、触れ合うくらいの距離で、手塚の出すプレッシャーをものともせずに拒否を示すの精神力。
学校では決して現れないその存在感に逆に圧されそうになる。
「なぜ?どうして?そんなの分かりきってるだろう。俺なんか好きになったって、どうしようもないからだよ。」
半ば投げやり気味に言われた言葉に、手塚は切れた。
「どうしてそう言い切れるんですか。本当に分かってないんですね。」
自分が、初めて執着を持った相手にここまで拒否されて、黙っていられるほど手塚は大人でもない。
 
 
 
 
 
「ヤメロッ・・・ン」
それが、最後のの口から出たまともな言葉だった。
あとはもう、なし崩しに傷付けた。
シュルリと浴衣の帯を解いて両手首に巻きつけるとベッドの端にくくりつける。
うつ伏せにして、腰を持ち上げてられて手塚のものが容赦なく入ってくるのをは首を振って抵抗するが、そんなのは手塚にとっては抵抗でもなんでもないのは目に見えて明らかだった。
痛みで気を失いそうになるものの、また次の痛みで覚醒させられる。
生理的な涙が、の頬を伝うのにも手塚は気付かない。
慣らされていないそこは、当然切れて血が大腿を伝って流れている。
それを抜いて、の体がガクッと崩れベッドに突っ伏した。
そこで初めて、手塚が口を開いた。
「これでも、あなたはどうしようもないだとか、そんなこと言えるんですか?」
背中から抱いて、震えているの体が落ち着くのを待った。
落ち着いて呼吸が安定しても、しばらくは何も言わなかった。
長い、長い沈黙のあと一息が長いため息を吐いた。
「なんで・・・俺なんだ」
深い、深い絶望がそこにはあった。

「なんで・・・いつも俺ばっかり・・・」
その声はくぐもっていて、しかも枕にかき消されて聞き取れるほどの声ではなかったが、それでも手塚は聞き逃さなかった。
「いつも、ってどういうことですか。」
その言葉に、の肩がビクッと揺れる。
「答えてください。いつもってどういう意味なんですか」
体をひっくり返し、顔を覗き込もうとするが、腕で隠そうとする。
それを無理矢理外して、手塚はが一瞬泣いてるかと思ったが、涙の跡はあるものの、泣いてはいなかった。
「手塚には、関係ないよ」
明らかな拒絶を示すの声に、手塚の額のしわが少し増えたのは気のせいか・・・
 
 
 
 
「俺は、あなたが好きです。先生は気付いてないのかも知れないですが、あなたは人を惹き付ける。だから・・・」
「『だから』俺はいやなんだよ。」
手塚の言葉を遮って、が口を開いた。
「俺は・・・目立ちたくないんだ。自分が周りと同じじゃない、それが原因で色々目を付けられたりもしたし。この声だって・・・」
思い出したくない。
あの時のことなんて。
 
 
 
 
 
 
 
『お前の声、女みたいにそそるなぁ』
 
 
 
 
 
 
 
そう言って、無理矢理犯され続けた一年の頃。
アレ以来、は自分の心に壁を作って、誰もそれ以上は踏み込ませなくなった。
感情のコントロールとか、相手の心理を読むのとかが上手くなって。
特に、自分に向けられる感情には敏感になった。
そんな相手の感情を、気付いていても気付かない振り。
そんな芸当が身についた。
そんな、独り言のように言うの口を、手塚が塞いだ。
「それでも、俺はあなたが好きです。過去のことは乗り越えていけばいい。俺は、今の先生が好きなんです。」
目を見開いて、驚きの表情をしているの唇に、唇を合わせた。

 
 
 
「少しずつ、触れさせてください。あなたの本当の心に・・・」
その手塚の言葉は、の耳には届かなかった。
アトガキ
少し痛い系と,最後は・・・脱兎状態?なよーわからんSSです。
人って,感情が落ち着くと愛情が現れる・・・と信じてます。
それにしても,先生ってやっぱり現実じゃ難しいわなぁと思う今日この頃。
あと設定としては,手塚の居場所は宮崎です。もしかしたら,表でも前後の出来事なんか書くかも・・・
2017/07/17 書式修正
管理人 芥屋 芥