観察
先生、試合をしてください。」


直接そう言ってきた手塚。




「だって、キミ・・・」
そこから先の言葉には口をつぐんだ。
腕のことや、肩のことはこの前の練習で確証を得ていただが、本人から直接話を聞いたわけではないから言うわけにはいかない。
「今の、自分の力を試してみたいんです。承諾していただけますか?」
・・・・・・・・・・・・・・・

「そ・・・そんなコト言われても、オレの力なんか大したものじゃないし・・・」
そう言うと、彼は首を振った。
「先生は、ずい分手加減をされていた。ですから、こうしてお願いにあがってるんです。」




ハハハー・・・見抜かれてるな。



「・・・分かった。」
「今からで、いいですか?」
「今から?」
半ば強引な誘いに、は驚いた。
「ハイ。」
「・・・そうだな。今からじゃ・・・あ、いいとこあるから、行こう。」





車で約一時間走った所に、がいつも使っているテニスコートがある。
「すみません。こんな夜分にいきなり。コート、空いてますか?」
受付のおばちゃんにそう言うと、
「一面なら空いてるよ。それに、ちゃんなら何時でもOKだよ。それにしても、男の子なんか連れて。イヤァねぇ」







あ・・・あのね・・・




「えぇ。これからちょっとね。でも、変な勘ぐり入れないでくださいよー」
お互い冗談を言い合う。
「じゃ、使わせてもらいますから。」




そうして始まった手塚と、の試合。

の握るラケットは右だ。
と言うか乾には、主に左を使うって言ったくらいで、がマジで左利きだって知ってる生徒はほとんどいない。




サーブも、状況判断も上手い。
『強い』と、思った。




「まいった。強いね、手塚は。」
試合も、30分としない内に終わってしまった。




「まだです。まだ、先生は隠してる。」






は、言葉に詰まった。
「・・・っまさか、マジでやる気なんか?」
そう言った、に力強く頷いた手塚。






「・・・わかった。」
一息ついてそう言って、が持ち替えたのは左。





途端、一気に周りの空気が一変する。
手塚は驚いた。
その、あまりの変わり様に。




圧倒的な何かに、見下ろされているような感覚が手塚を襲う。
河村とは違う・・・そう。
あえて、この感情に名前を付けるなら、『恐怖』とでも言うべきなのか・・・





それに、は手塚の知る限り左利きではないハズだった。
「先生は、左利きだったんですか?」
思わず手塚は、そう聞いていた。
「そう言うことに、なるのかな?」
と、表情だけはいつもの先生なのに・・・
どういう事だ?
と思った、手塚の疑問を感じ取ったのか、
「オレ、鉛筆持つのと箸持つのだけは右なんだよ。後は、全部左。」と付け加えた。




「試合なら、オレも手加減しないから。アンクル、取ってね。」
そう言って、サーブを打ってくる。
一球、二球と交えるうちに、手塚は確信した。




この人‥‥‥‥強い。





「で、なんで俺なんかと打とうって思ったの?」



そうは声を掛けてきたけど、手塚はそれに返す余裕がなかった。



(この人は・・・全力じゃない。)
そう手塚が自分に言い聞かせていると、急にがボールをイナした。
「どうしたんです・・・」
は手塚の言葉を遮って「これ以上はしない方がいい。」と、静かに言った。






ま‥‥さ‥か。
気付かれるなんて思なかった。
(でも、この人ならば‥‥)
そう思って手塚は事実を認めた。




-- Side 手塚 --



「これ以上は、しない方がいい。氷帝戦に響く。」




その言葉に一瞬『黙れ』
そう言いそうになって何とか抑えた。
先生は、小さく息を吐いて、
「ま、いいか。」
と、言った。
この人は‥‥
今、俺の気持ちを汲んでくれた?
しかも『生徒』じゃなくて、一人の後輩として俺の事を見てくれたのだろうか‥‥




「そだね。キミが打ちたいって言えば、いつでも時間空けるから。」
「‥‥よろしくお願いします。『先輩』」と言った。
そしたら、先生は
「なんで・・・知ってるのかな?」
と、照れたように言ってきた。
「乾に、聞きました。10年前の部長だったと。そう聞いてます。」
「あ・・・そうか。」
少し照れながら、頭を掻いた。




「じゃ、もう遅いから。帰ろうか。」




言われて、オレ達は帰路に着いた。
アトガキ
ザンゲ:
実は,コレには続きがありまして・・・
その話が,ちょっと裏行きなんですよね。
しかし当分裏は更新しないので,どうするつもりだったんだ・・・
少し(管理人的に),甘めの話。 いかがでしょう・・・<不安だ
2017/07/17 書式修正
管理人 芥屋 芥