「なぁ・・・先生来るの遅くねぇ?」
教室にいる、誰かが言った。
確かに、休み時間が終わってから、もう20分が経とうとしている。
授業中>不二の独想 副題 大遅刻
「来ないねぇ。」
そう言いつつ、友人同士のお喋りに花を咲かせる女の子達。
次第にざわつく教室。
隣の教室から先生が来て、
「うるさいぞ六組。って・・・先生いないのか。」
そう言って、「今の時間の先生は?」と確認して、委員長が 「先生です。」と答えると、
「じゃぁ誰か探して来なさい。くれぐれもうるさくしないように。」
そう釘をさして再び自分の教室に戻る先生。
仕方ない。
探そう。
全く、先生が授業に遅刻なんて・・・ね
「じゃ、僕探してくるね。」
僕がそう言うと、
「にゃ?俺も行く。」
と英二が立候補した。
「委員長、僕達先生探してくるからそれまでお願いできるかな?」
「いないなぁ。」
職員室を覗いたけれど、当たり前だけど先生はいなくて。
手分けして探すことになって英二は上の方、僕は下の方になった。
そんな訳で、僕は保健室やら覗いたりしてみたけれど、やっぱりいなくて。
 
 
 
 
・・・あれ?
部室・・・開いてる?
 
 
 
 
授業中で、誰もいないハズなのに開いてる部室。
もしかしたら・・・
僕の中の勘が、何かを告げる。
誰かの靴をドアストッパーにして、かすかに開いていたドアを躊躇いながらゆっくりと開ける。
ガランっとした部室。
外の、いつものザワザワとした喧騒もない、授業中の部室。
始めて来た。
いつもはこんな時間になんか来ないからね。
妙に張り詰めていて、それでいて放課後に備えて休んでいる、そんな空気をもった部室。
時間が違えば、全く違う表情を見せる空気の中で、その人はいた。
部室にある長いすに体を横にして・・・眠ってる。
そして机に置かれたコンタクトケースに疑問を持ったけれど、僕は先生を起こすことを優先した。
先生。起きてください。」
このままじゃ一時間終わってしまう。
授業放棄して寝てるなんて。
先生らしいといえばらしいけれど・・・
でも、授業を考えるとこのまま放置するわけにはいかないし、第一、このままここで熟睡させておけばきっと手塚の眉間にしわが・・・
ま、きっと面白い状況にはなるんだろうけれど。
「ん・・・」
よほど熟睡しているのか、先生は僕の手を振り払って体をそむけてしまった。
「先生、起きてください。」
ゆすってみる。
「ん・・・?」
手を顔に持ってきて目をこする。
どうやら起きるみたいだ。
だけど、こすり終え開いた目蓋の下から現れた瞳の色に、僕は珍しくギクリとなった。
 
 
しばらく、口すら利けなかった。
しばしの静寂が二人の間に流れた。
だって・・・
な、なんて形容すればいいんだろう。
よく緑の瞳の人をヒスイに例える人がいるけれど、それなんかよりももっと薄い。
例えるなら・・・この瞳を例えるとしたら・・・

 
 
 
海の光に反射した、氷山の色。
あの薄い、薄い、青を通り越して碧に見える、海に浮かぶ氷の山の色。
 
 
 
 
二人の間に流れる不自然な静寂。
その静寂を破ったのは、先生だった。
「あ・・・あれ?不二・・・どうしているの?」

 
 
 
・・・こ・・・この人は・・・天然か?
っとそんなことよりも
「先生、授業始まってますよ?」
僕のこの言葉は覿面に効いたらしい。
「なっ!!!」
と叫んで思いっきりよく起き上がると慌てて外に出て行ってしまった。
ところがすぐに
「忘れるとこだった」と言って戻ってきた。
なにを忘れたのか僕はすぐに分かった。
「コンタクト・・・ですね。でもどうしてしてるんですか?」
流れからして、先生は目が悪いわけじゃないみたいだし、だったら何故しているのか疑問が残る。
少し聞かれたくないという顔をしながらも、先生は答えてくれた。
「だってな。俺だけ違うのってなんかいやなんだよ。まぁ目立ちたくないってのが本音かな。」
言いながらもコンタクトを付けた後の瞳は黒。
「でも先生、これで僕に一つ貸しですよ?」
部室を出るときそう言って二人して走った。
途中英二が合流して教室に戻ったときはすでに授業開始から何分かを測るより、次の休み時間まで後何分かを考えた方が早かったけれど。
「時間ないから次の時間までにこれやっておくように」
慌てた様子で黒板に問題を書いていく先生の姿も。
「センセー遅刻w」とはやし立てられながらもそれに「今日はなぁ、まぁ色々あったんだよ」と目を泳がせながら言い訳してる姿も・・・
どこか可愛いと思ってしまう僕は・・・やっぱり重症なんだろうか。
せっかくのチャンスだったのに逃したのは、やはりあの瞳の所為だよね。
まぁ、『貸し』なのは本当なんだし、いつか返してもらうまで僕のとっておきは・・・
 
 
 
 
 
封印
アトガキ
半BLのような,不二の片思いのような・・・
2017/07/17 書式修正
管理人 芥屋 芥