放課後,課外授業
レギュラー戦に彼の名前が書かれていたらしいことを、は竜崎先生から聞いていた。
「珍しい事もあるんですね。一年の今の時期から入るなんて。」
職員室でそう言うと、
「ま、手塚の考えだからな。それはそうと、手伝いする気無いのかい?」
「その話は言わないで下さい。別に手伝う為にココに来た訳ではないですから。」
その、『手伝い』の意味を、重々承知しながらもキッパリと断る。
丁度チャイムが鳴って、その話はお開きになった。
次の時間は3-6。
明日くらいに実験ができるな。
と考えながら、教室に入って行く。
最初はざわついていた教室も、が入ると次第に静かになっていく。
は一人一人名前を呼んだ後、
「じゃ、明日の実験の説明するから教科書開いて。」
そうやって概要を伝えていく。
最初の頃は、容赦ない質問がに飛んで来たけれど・・・
今はそんな質問が飛ぶことはない。
彼の、今の生徒的評価は、
『優しいけど、怒ると恐そう。』
だ。
生徒の質問にマジになって考えたり、授業に関係ない事を言っては脱線し・・・
「あ、前の時間言ってた約束な。持ってきたけど、見る?」
その脱線話の運びは上手かった。
『脱線上の約束』に、クラス全体が期待感に包まれる。
は、少し困った様だ。
「大したモノじゃないよ。家で文鎮として使ってるからさ。はい、これだ。」
取り出したのは変な形をした『物体』
まるで、『長餅』だ。
「‥な、なんにゃ?ヘンな形。」
菊丸の声には小さく笑って、
「コレはね?流線型って言うんだよ。」
と。
あれからまた、脱線に脱線を重ね‥。
結局、元の授業内容に話が戻ってしまう。
大回りしながらでも、話を元に戻すのは流石と言うか‥なんと言うか・・・
それでも、生徒は理解出来ているから凄い。
そんな彼が、コートに現れたのは部員が全員帰った後だった。
彼は周りを見て、呟いた。
「もう少しで地区予選か。ホント懐かしいよね。ココ。」
と。
この前、屋上で会った越前リョーマと言う、テニス部員。
多分、彼は越前先輩の息子だ。
それにしても、凄いね。
英語、スペイン語日本語と、色々話せるなんて・・・
そう思いながら、片づけられたテニスコートを見ていた。
「先生?」
いきなり声が掛かったから、はびっくりした。
「・・・手塚?」
アレ?帰ったんじゃなかったのか?
それにしても。良かった、校門前で。
そう思ったけど、声には出さない。
「先生は、どうしたんです?こんな時間まで。」
「もう帰る所だよ。それより、今まで練習?」
どう見ても、『今練習が終わった所』としかには見えなかったけど。
だけど、彼は首を振った。
「いえ、自分は用事で残ってました。」
「そか。」
じゃ、さっきの言葉は聞いてないな。
「それより、今日菊丸と不二が、先生に変わったモノを見せられたと言ってましたが。」
1組で担当も違う手塚が、何故6組の授業中での出来事を知ってるのか。
その話は、練習中に遡る。
『変わった物体』を見せられた2人は、この場合主に菊丸は、部員達にそれを話していた。
話によると、それは飛行機の部品だという。
一般では決して売られていないモノを、どうしてが持っているのかは、この際問題にはならなかったが。
「見る?」
と、その声で我に返った手塚。
「‥はい。」
返事をもらったは、鞄の中をゴソゴソとやって取りだした。
それは、長餅のような形をしていた。
手塚はどう感想を言おうか、流石に困った。
「初めての感触だろ?」
持たされて、
見た目より軽いんだな
と、そう思ったのは事実だが‥
「YS-11という飛行機の部品さ。」
「Y‥S??」
初めて聞くその名前に、戸惑った。
「ま、オレの趣味みたいなもの。文鎮としても使えるし、腕置きにしても使えるから結構便利なんだ、ソレ。」
「何で、出来てるんですか?鉄ではないんですか?」
手塚は、表面を叩いたりしながら言った。
「大体がアルミかな?鉄も、少しは入ってると思うけど。」
「入ってる?」
「合金だよ、合金。」
それで納得がいったのか、手塚はそれをに返した。
「皆は、飛行機のこと『鉄の塊』って言うけど、ほとんどはアルミだから厳密に言えば違うんだ。」
それを、鞄に入れながら言った。
「どうして、先生はそんなに詳しいんですか?」
「趣味だよ、しゅーみ。」
言って、は伸びた。
「こんな所で話もなんだし、時間も遅いし。帰るか。」
そう言って、彼らは別れた。
アトガキ
2017/07/17 書式修正
管理人 芥屋 芥