双想歌
13.顔で笑って心で泣いて
サン。
なんでアナタは破天荒で、性格荒くて、大雑把で、ガサツなんでしょうね。
ホンット、ワタシとは正反対だ。
でも演劇を見た後、蕎麦屋に立ち寄ってそろそろ疲れてきたチビを背中に背負って歩くところなんかは、正直優しいと思う。
そして歩き方も、振動があまりチビにいかないように、気をつけて歩いているところも。
ま、ソレがワタシに向けられることは、滅多にないんですケド、ね。
もしワタシがチビの立場だったら、サンはこう言ったはず。
テメェで歩け。

なんて。
そんな優しさの欠片のない声で、しかも冷たい視線付きで・・・
そしてチビには、ワタシには見せない優しい顔で、そして温かい視線で接していた。
計算高い相手にはホンット、コレでもか!という程に冷たくて、優しさなんてそこにはないのに、純粋な思いで接する相手には、ホントいい笑顔を見せる。
サン。
あなたは本当にガサツで大雑把で、性格荒くて破天荒だけど、子供には優しくて、温かくて、必ず笑顔を見せる。
ホンット、ワタシとは正反対。
ワタシにそんな余裕、全然有りませんから。
だから性格は細かいし、そんな目立つようなことはしたくない性格ですけど、他人には、優しくなれない。
アナタの以外の人には、優しくなれない。
だから、自分の造ったモノが例え壊れようと、ワタシの感情には何の変化も及ぼさない。
なのにあなたは、壊れたその『モノ』を見て、泣くんですね。
 
 
 
 
 
 
時は一時間ほど遡る。
「はぁ、食った食った」
勘定を済ませ、帰路につく。
心地よい風にあたりながら、カランコロンと下駄の音を響かせて歩いていたチビの頭がフラフラしだした。
今日一日中遊んで疲れていたようで、どうやら限界がきたらしい。
ボフっとチビの体がの方へと倒れこむ。
それを慌てて支えて、が後ろを歩く喜助、夜一を振り返る。
「眠いみてぇだ」
と言って体をかがめて
「チビ、ホラ」
といって背負った。
それを見て夜一が呟く。
「フム、やはり見てて微笑ましいの」
その顔はどこかニヤリとしていたけれど、それでもに対する視線はどこか優しい。
「そうですか?」
「なんじゃ、お前はそうは思わんのか?」
「さぁ」
正直、思っていないことを見抜いた上での夜一サンの言葉。
明日尸魂界に帰るまで、このまま何事も起こらなければよかったんです。
何事も・・・
ですが、やはりどこにでも虚は沸くというもので。
襲ってきたのは、普通クラスの虚だったんです。
なので、簡単に倒せるハズ・・・だったんですケド・・・ね。
そこに想定していない事態が入り込んでしまったという訳です。
 
 
 
 
「夜一、喜助。
 二人共、手、出さないでくれるか?」
チンッ
微かな音を立てて、刀が鞘の中に収まる。
そう。
少しだけ相手の攻撃が想定外だったんです。
そのスキを、『ソレ』が縫うように入り込んでしまっただけです。
『そう』いうふうに、ワタシは造っていないというのに・・・
何が『ソレ』をそういう風に行動させたのか、ワタシには理解不能です。
何故ならそういう風には造っていないから。
恐らく相手の虚は、中の下というレベルだったデショウ。
ですが、その想定外の出来事によって、彼の中で何かが切れてしまった。
の抜刀か・・・
 こりゃ、見ものだな」
と、空の方から声がしたので仰ぎ見てみれば、そこに居たのは死覇装姿の一心サン。
「一心。今までどこ行っとったんじゃ」
夜一サンが呆れた声で一心サンに聞いている。
「ん?そりゃぁ、お前。
 久々の現世だぞ?『コレ』のところに決まってんだろうが」
と地上に降り、『コレ』の部分に右手小指を立てて意味を示した。
「まったく、しょうのないヤツじゃよ」
と夜一サンが呆れて言うが、視線は目の前にいる彼から離さない。
「なぁ・・・の霊圧感じてココに来たけど・・・
 アイツ、マジで怒ってるような感じなんだが、何かあったのか?」
事態を飲み込めていない一心サンが聞いてくる。
いつでも倒せる虚が相手だから、ハッキリ言って、余裕だ。
「う〜ん・・・少し想定外のことが発生しましてね。
 サンが怒ってる理由は、多分、『アレ』なんじゃないっすか?」
といって、ワタシが指をさした方へと一心サンが視線を向ける。
「アレって・・・チビ助?」
一心サンの顔が変る。
そして
「なるほどな」
と呟いたきり、それ以上何も聞かなかった。
 
 
 
 
ッザ
が、構え、その周囲から霊圧が引いていく。
彼は、恐らく刀だけの力で目の前の虚を倒すつもりだ。
霊圧のこもらない刀では、虚の昇魂は無理。
本来ならば規定違反になり、罰則が課せられる。
だけど、傍で見ている三人に動きはない。
「来いよ」
が、誘う。
案の定、目の前の虚がキレた。
『ば・・・バカにしやがってぇぇぇぇ!
 霊圧を引いた状態で勝てるとでも思っているのか!?死神が!』
サンが刀を抜く瞬間は、誰にも分からなかった。
しかし、入れ替わった彼等の立ち位置から、何かがあったらしいということくらいしか、今は分からない。
そして、虚が消えていく。
その消え方は虚の昇魂そのもので、少し、意外だった。
サン・・・」
消えていく虚をジッと見上げている彼に、声をかける。
その声に気付いた彼がワタシを見、そして、滅多に見せない悲しい笑顔で、笑ったのです。
 
 
 
結局、現世の二泊三日の休暇は三日目を待つことなく、終わりました。
しばらくいつもと変らない日々をすごしていたのですけど・・・
連れて帰った『チビ』は、ワタシの私物ということで結局何もお咎めはなしでした。
でも、しばらく経ってサンが十二番隊の隊舎にフラリと現れて、こう言ったんです。
「喜助、チビを・・・その・・・渡してくれないか?」
と。
少し俯いて、そしてとても言い難くそうに、そう言ったんです。
元気のない様子言うものですから、
「何に使うんですか?」
と聞いたら、
「お前は嫌がるだろうけど、アイツに墓・・・立ててやりたいと思ってさ」
なんて。
そんな泣きそうな顔でそんなこと言わないで下さいよ。
心ではそう思っていても、口に出た言葉は
「結構サンって、引きずるんですね」
だった。
アトガキ
もう一回で終わり・・・です
2007/10/05
管理人 芥屋 芥