双想歌
12.耳が痛いんですケド・・・
喜助の熱い手が体に触れて、熱に浮かされているようだ。
ったく・・・
クスリ飲ませてまでヤルことじゃねぇだろうにな。
とつくづく思う。
まぁ、そう言ったところで喜助(コイツ)の複雑で単純な性格が直るかっていうと、治らないけどな。
兎に角。
意識だけはハッキリしてた。
ただ体が動かないだけで・・・
サン。感じてますか?」
なんて、耳元で言う喜助を思わずジロリと睨んで
「う・・・るせぇ・・・」
と、なけなしの意地を張ってみる。
無駄なことは分かってるけど、どう考えても納得は出来ないからな。
 
 
 
「お前なぁ・・・」
隣で寝そべりながらビンをあおって飲む喜助に対して悪態を付いてみるが、そこから先の言葉が見つからない。
いや・・・まぁ。
「ん?」
なんて言いながら、喜助に上から覗き込まれたっていうのも理由の一つなんだが・・・
「なんでもない・・・」
下手したら、もう一回くらい襲われそうだ。
ただでさえ腰痛いのに、これ以上ヤラレテ堪るかってんだ。
「じゃ、お休みなさいね」
なんて言いつつ腕を伸ばして頭の下に入れてきた。
「何やってんだよ」
不機嫌さ丸出しで問うと
「腕枕」
って笑顔で言ってのけるから
「必要ねぇよ」
と言って体を背ける形で横を向いた。
「ダメですよ。ワタシがしたいんですから」
なんて宣言すると、グイッと引っ張られて結局腕の中に体を納められてしまう。
一息小さく吐くと
「腰痛いんだぜ?」
「あらら。それは大変ですねぇ。大丈夫ですか?」
なんてトボケたように言ってきやがったから
「誰のせいだ?」
「・・・ワタシ?」
一拍置いて返ってきた返事に
「分かってるなら腕放せ」
「ケチですねぇ」
「ケチとかの問題じゃなくて、自業自得だ」
「あれだけヨガッテタのに?」
「うるせぇ」
声が段々と弱弱しくなっていく。
サン・・・顔、真っ赤ですよ」
こういう会話は、やっぱり慣れない。
ったく。
なんて思っているうちに、目蓋が重くなってきて結局その日はそのまま眠ってしまった。
 
 
 
 
 
 
 
ま、そう素直じゃないところも、ワタシは好きなんですけどね。
彼の寝顔を下に見ながら、つらつらとそんなことを考える。
「なんじゃ。は寝たのか」
と、玄関とワタシがいる部屋を仕切っている襖の辺りで声がしたので顔だけ振り返る。
「あ、お帰りなさい夜一さん」
そう言って見た彼女の顔は、どこか楽しそうだった。
「なんだか楽しそうですね。」
と聞くと
「ん?まぁ久しぶりにの寝顔が見れたからのぉ。
 軍団長になってからは、滅多に自由が効かん身になってしもうたからな」
と、ニッと笑いながら夜一は答えた。
「結構抜け出してサボってる人が、何言ってるんですか」
「何を言うか。これでもワシは忙しいんじゃ。
 それとな、喜助。
 ヤリ過ぎはの体にもよくないぞ」
と、とんでもないセリフを残してそこから消えました。
アララ・・・
 
 
 
 
 
 
 
「おはよう、
朝目が覚めると、目の前には無表情のチビがいてビックリした。
だって・・・やっぱ喜助が俺に似せて作っただけあってソックリだからなぁ。
「あ・・・お・・・おはよう」
と言って、隣を見ると既にそこに喜助はいなかった。
「チビ、喜助は?」
問うと
「台所」
答えたものの、一瞬その顔が『ムッ』としたのをは見逃さなかった。
でも
「そうか。起こしてくれたんだな。ありがとう」
彼の頭にポンッと手を当てて礼を言うとチビはどうしていいか分からないんだろう、困った表情を浮かべている。
元々感情が希薄に作られているチビは、多分こう言うときどういう表情をしたらいいのか分からないんだろうな、と思う。
「なぁ。今日は大衆演劇でも見に行くか?」
と、朝飯の味噌汁をすすりながら、焼きサワラに手を伸ばしている喜助と白メシを豪快に食べている夜一に聞いた。
「ん?それも良い考えだのぉ」
箸の手は止めずに夜一が答える。
「それよりサン・・・今回の休暇、どれくらい取れたんです?」
昨日は気付きませんでしたけれど、仮にも夜一サンは刑軍の軍団長であり、十二番隊の隊長はワタシ。
そしてサンは八番隊の十席の席官で、一心さんもワタシと同じ隊長だ。
そんな要職にある四人が、長期間瀞霊廷を空けることは許されないことだった・・・んですけど。
「ん?三日くらいかな。
 ってな訳で、今日は丸一日遊ぶぜ、俺は。な?」
『な?』の部分を彼の隣でご飯をぱくついているチビに向けて、そう言った。
ということは、今日入れて後二日・・・という訳ですか。
「じゃ、これ済んだら演劇見に行きますか」
 
 
 
こんなにはしゃいだ様子を見せるのは、一体いつ以来なんでしょうね。
出合った頃は、こんな子供みたいな表情を見せていたのに・・・
いつの間にか本気で笑わなくなっていったんですよね。
席官になってから?それともサンの目に止まって、零番隊という隊に入った頃から?
「夜一、喜助!ここ、ここ!」
前を歩いていたサンが後ろを歩いていたワタシ達を振り返って思いきり笑顔で手を振ってきた。
どうやらお目当ての演劇が見つかってようで、嬉しそうに芝居小屋の前ではしゃいでいる。
「ヤレヤレ。まるで子供のようじゃの」
と、夜一サンが笑顔で手を振って名前呼んでいるサンの姿を見て呟く。
「でも、それでもワタシは嬉しいですよ」
この現世行きも、元はと言えばワタシが引き起こしたものでサンは悪くないのに、結局こうして彼に段取りを取り付けさせてしまっている。
彼の好意に甘えているのは、ワタシの方です。
なんて言うと
「なんじゃ。自覚があるなら、もちっとのことも考えてやらぬか?」
と、ジロリと睨まれてしまいました。

アララ
アトガキ
大正時代って,やはり映画よりも演劇?
2007/08/15
管理人 芥屋 芥