双想歌
11.騙すは楽・疑うは浅し
、アレ・・・なに?」
現世の時代は『大正』という時代に当たり、未だ着物が主流とはいえ流石に死神の着物のままでは拙かろうと、それぞれが用意した姿で現世を歩いています。
ちなみに、チビの服はサンが用意したものです。
全く。そこまでしなくても・・・とは言ったんですがね。
聞かないったら。
だから、ワタシも手伝いましたよ。渋々ね。
「ん?
 あれは、ビードロっていうんだ。よし、買うか?」
と、優しい声でチビに答えているのは、現世では必ず着るという白と蒼の濃淡が見事な麻の作務衣だ。
それがまた、光に反射して微かに見える黒赤の髪に映えて、なんともいえない雰囲気を纏っている。
「端から見たら正に親子じゃのぉ」
と、しみじみ言うのは、淡い黄色の異文化漂う格好の不思議な着物を着た夜一サン。
ま、ワタシはというと、いつもの羽織姿なんですが。
さて、一緒に来た一心さんはというと・・・
現世に来て直ぐに単独行動するとかで、どっかに行っちゃいました。
遊び好きな人ですから・・・
ま、家は教えてありますから、大丈夫でしょう。
それにしても
「妬けますねぇ・・・」
と、ビードロを買ってもらってはにかむようにして笑うチビに、正直な感想を喜助が述べる。
柳の下の川べりで、のんびりと過ごす現世での時間。
川辺に来ていた行商人にチビが興味を示し、世話好きのサンがチビにビードロを買って・・・
などと思って流れる川を見ていると、後ろから
「ホイ」
と後ろからニョキッと手渡される形で伸びてきた、少し冷たい瓶が二本。
、コレは?」
と夜一サンがすかさず聞く。
「ん?甘い飲み物だよ。確か『なんとかサイダー』とか言ってたけど・・・
 甘くて美味しいぞ」
と言って、率先して自分が飲んでみせる。
チビは、もう既に飲み終わっていて、行商人のおじさんに「ありがとう」と言って瓶を返していた。
「ほぉ。甘い飲み物なぁ・・・」
と言いつつ、夜一サンが一口。
続いてワタシ。
「これはいけるのぉ」
と言って、気に入ったようで・・・
一瞬でその場から居なくなったかと思えば、行商人のおじさんに
「おやじ。これ全部くれんか?」
と言っていた。
 
 
 
カシャンカシャン・・・
瓶の擦れる音が、新聞紙から響く。
一人十本。
ワタシとサンで二十本、そして買った張本人たる夜一サンが十五本・・・合計三十五本の『なんとかサイダー』を新聞紙に包み、現世で用意してある家にワタシの家へと持ち帰る。
チビはというと、よほどサンが買ったビードロが気に入ったのか、口に含んではポンポンと音を立てて楽しんでいるようでした。
「やっと着いた〜」
と、ワタシの店の中にゴトリとそれを置くと、すぐさまべタ〜ッとサンが畳の上に寝転がる。
そんな格好してると、襲っちゃいますヨン?
などと思っていると
「あ、喜助。この家、冷やす機械があっただろう。アレで冷やしてみようぜ?」
と、ワクワクした様子で言い出すものだから
「お。それもそうじゃの。喜助、頼むぞ」
と夜一サンが便乗する。
「ハイハイ」
と、乗り気ではないワタシだった・・・んですが・・・
「じゃ、風呂借りるわ」
その一言で、やる気が出てしまいましたよ。
ワタシもゲンキンですね・・・
 
 
 
 
「やっぱ冷えてる『なんとかサイダー』は美味しいなぁ〜」
と、風呂から上がったサンが・・・やっぱり、この人天然なんでしょうね。
上半身裸で畳に座り、円卓の向こうでキンキンに冷えた瓶を呷ってます。
視線のやり場、とてつもなく困るんですが・・・
その時でした。
夕刻を示す鐘が鳴ったのは。
「さて、メシどうする?
 蕎麦でもくいにいくか?」
と、流石に飲み物だけではお腹がすいたらしいさんが、言い出したんですよ。
すると
「なんじゃ。蕎麦なら、もう取ったぞ?」
と夜一サンが答える。
「お。じゃ、待つか」
と言って、ゴロンと畳に寝転がってしまいました。
ちなみにチビは、風呂に入ると直ぐに眠ってしまいましたけどね。
その世話をしたのもサンなものだから、やはり妬けないと言えば嘘になるんでしょうけど・・・
 
 
 
 
 
 
 
簡単な出前を取った後は、もう各々勝手に行動してた。
俺は屋根の上にあがって星見てたし、夜一は夜の町に出て行った。
で、喜助は喜助で、地下に篭ってるし・・・
チビは寝てるしな。
「星・・・綺麗だよなー・・・夜風が気持ちいいぜ」
なんて言って、屋根にゴロンと寝転がる。
尸魂界とは違って、現世の星は綺麗だから、思わず言っちまった。
そして、それは独り言で終わるはずだったのに、返事が返って来たから驚いた。
「綺麗ですよね。」
そのまま体をひねって声の方に視線をやると、そこには何かを持った喜助の姿があった。
「なんだ、居たのか」
と、独り言を聞かれたという気はずかしさから、少々口調がつっけんどんになっちまったけど。
でも、そんなこと、喜助なら分かると思ってるから・・・
「なんだとは失礼ですね。いましたよ。さっきからね」
と言い、手に持っていた竹の葉で作った物を置くと同時に、自分も屋根の上に座る。
その置かれたものをみて、聞いた。
「これ、何?」
「ん?見て分かりませんか?おにぎりですよ。
 あれだけじゃ、お腹すいてるだろうと思いましてね」
「ふーん。
 お前、この中に変なもの仕込んでないか?」
と、これまでの経験上何かがチラチラと首筋を掠めていく。
第一『チビ』を作るきっかけとなった雲が、コイツにバレタ後一ヶ月間もの間、毎日居酒屋に行くように仕向けるほどの薬を開発したコイツだ。
絶対何か仕込んでるに違いないって。
と、疑いの目を喜助に向ける。
なら・・・
「お前、先に食え。お前の食いかけを、俺が食べる。そうしたら、安全だからな」
という結論を出した。
大体、作ったのがコイツなら、もし俺に一服盛るつもりなら、それ以外のを取るはずだから。
それなら、安全だ・・・そう踏んだのに・・・
 
 
 
 
クソッ・・・また・・・やられたッ・・・!
アトガキ
あららぁ
2007/06/26
管理人 芥屋 芥