双想歌
10.計算行動と天然行動
「そ。その筆は、そっちに置いて・・・
 そう、やれば出来んじゃねぇか。なぁ?チビ」
と、ワタシには絶対向けてくれないであろう笑顔を、机に向かって筆の練習をしている『モノ』・・・サンに言わせるなら『チビ』に向けているので、ワタシは少々ムスッとしたまま、縁側で次の開発の構想を練っていました。
胸に重くのしかかる、この上ない敗北感を感じながら・・・




ずっと縁側をジッと一点を怖い位に見つめている喜助の後ろに立って
「何膨れてんだ?」
と聞くと、振り返った喜助の顔はちょっと・・・怖かった。
なんて言うか・・・その・・・なんだ。
引きつった笑顔っていうのか?
お前、その
『嬉しいんだか拗ねてるんだか分からん笑顔、なんとかしろ』
などと思いながら
「お前何でそんなに不機嫌なんだよ。子供の前で。大人気ないぞ。」
と顎をしゃくって部屋の中へと喜助の視線を誘導すると、そこには正座をしながら筆を持ちジッとこっちを見ているチビの姿。
それをチラリと視界の端で捉えて首を俺の方へと向けて喜助が言う。
「だって、サンずっとチビに構ってばかりで、ワタシのことなんて全然構ってくれなかったじゃないですか・・・」
と。
な・・・
「なに言ってんだ?お前・・・」
と、呆れ半分、ある意味感心半分の声で、やっぱり呆れてたんだろう
「お前とアイツじゃ全然違うだろう。大体な、お前は大人じゃねぇか。
 それに比べてあいつはまだ子供。分かるか?」
そう言いつつも、それでも何となく分かる喜助の言い分に少々困惑してる。
要は、拗ねてんだ・・・
と。
そして、それを隠さない辺り、こいつの計算が入ってるってことも。
「分かりますよ。分かってますよ。
 でも、ワタシの気持ちは、分かってくれないんですね。サンは」
と言われて、矛先が折られた。
そんな言い方をされると、俺が何も言えなくなるって分かってる言い方だった。
流石というか、なんというか・・・
俺の性格知り尽くしてやがる。
と、内心頭を抱える。
ったく、なんだって俺の周りには!
と理不尽な周りの連中に怒りが沸くが、どこか放っておけないのが哀しい性か。
仕様がねぇ。
そう思いながら、視線の先にいる喜助に
「じゃ、明日。
 瀞霊廷出て、人間界にでも行くか?」
と言った。
まさかそんな言葉が出るとは思っていなかったものですから、これは・・・なんて言うか・・・予想外ですよね。
それにしても・・・それは・・・
まさか、人間界で最近言われるようになった
『デェト』と捉えていいんデショウカ?
とウキウキだった浦原だったが・・・
その顔も次の彼の言葉に凍りつくことになった。
「お前も一緒に来いよ。チビ」
と。
いや・・・まぁ・・・
分かってたんですけどね。
サンの性格からして、あのチビを連れて行くことになるって。
でもそうなった場合、やはり親子連れに見える二人に、ワタシの立場は?
と、浦原はあの『チビ』をの子供時代に似せて造ったことを、かなり後悔した。
もし、あの二人が親子連れに見えるのなら、ワタシ除け者じゃないですか!
と。
でも、サンはその場に居る人間は、よっぽどのことが無い限り見捨てることが出来ない性格だから。
だからワタシは好きなんですケド。
だからって、今回はワタシの機嫌取りじゃなかったんですか?
と、天然なんだか狙ってるんだか分からない彼、サンの心の中を少しだけ見てみたいと、この時ほど願ったことは無いですヨ。
でも覗くことができたら出来たで、ワタシは覗かないと思いマスけどね。
でもま。
折角もらったサンからの、滅多にない人間界へのお誘いだし。
ここは大人しく乗りますか。
 
 
 
 
 
「遅いぞ喜助。
 何をやっておる」
と、指定された場所に行くと、そこにはサンとは違う女の声がワタシを呼びました。
というよりも、この声・・・
「夜一サン?」
他にも、
「おう、なんだ。メインはお前か」
と、その後ろで座って煙草を吸っているのは
「一心サンまで・・・どうしてここに?」
「昨日、が人間界に行くから来ないか?って言ってきたからじゃ。
 なんじゃ。ハトが豆鉄砲食らったような顔をしよって。」
と不思議がるのは夜一サン。
「俺もだ。まぁ、面白そうだし、付いて行くぜ?
 なんせ久しぶりの人間界だしな。」
とニヤリとしながら、一心サンがそれぞれ言う。



・・・この二人にまで声をかけていたとは・・・
「なんじゃ喜助。可笑しな奴じゃの」
と、ワタシのことを夜一サンが指して言う。
そして、
「おう、集まってたか?」
と時間ギリギリになって現れたサンと、チビの二人。
相変わらず似てる二人に、夜一サンと一心サンが同時に言う。
「まるで親子」だな」じゃな」
と。
イヤ・・・
そこまで言われると、製作者のワタシの立場は・・・
そもそも、地獄蝶を扱えないチビを一体どうやって人間界へ?
と思っていると、彼の周りに結界が張られているのに気づきました。
こ・・・れは・・・
サンの結界ですか?」
と聞いたワタシに対して
「あぁ。じゃなかったら、コイツだけ飛ばされるだろう?」
そう言って、やはりワタシには向けてくれない笑顔でチビの頭にポンッと手を置く。
それにしても、なんだか、やはり何処をどう見ても親子・・・ですよね。
なんて感心しながら見てたんですが、今回人間界へ行くのにサンまで巻き込まれているとは・・・
青筋立ててなきゃいいデスけどね。あの人。
それにしても、やはり下手な嫉妬心で下手なことは出来ませんね。
そうは思っていても、でも、これはこれで楽しかったりしますから別に構いませんが。
サンの「親バカ振り」が見れますし。
とか考えていると
「喜助。何してんだ。行くぞ」
と言われ、グイッと腕を引っ張れてしまいました。
アトガキ
人間界へ行っちゃいましたね。
さて,どうなることやら
2007/05/31
管理人 芥屋 芥