双想歌
08.発端って・・・
「あの・・・?俺のところに来るのもいいんですけれど・・・その・・・」
目の前にいるこの人は、そこで言葉を濁した。
ま・・・分からなくはないけどな。
どうせ、『有事以外の接触は最低限に』って言いたいんでしょうけどね。
しかしんなこと今知ったことじゃねぇんだって。
 
 
隊舎から鍛錬場へと向かうその道で一人歩いているところをつかまえた。
「あの、隊長。俺の噂・・・聞いてませんか?」
と。
隊長は一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、首を小さくかしげて
「もしかして・・・その・・・君が結婚するとかなんとかっていう噂?」
と、とても言いにくそうに答えてくれた。
「そのことなんですけど・・・俺、その噂の出所を知りたいんです」
この際だから、単刀直入に言う。
その、『ふんわり』とした空気をまとう外見からは全然想像つかねぇけど、この人に下手な嘘や言い訳は通用しない。
これは、俺の経験ね。
なんせ入隊当初からして、ある意味強制騙し入隊みたいなもんだったし・・・な。
「それで、僕を?」
お?
『俺』から『僕』に変わったか?
ということは、脈有りかも。というよりも、協力してくれるかもしれない。
しかし
「あのね、。俺のところに来るのは、有事以外はなるべく接触は避けるようにって言いませんでしたっけ?
  ただでさえ君は席官。俺は平の隊員なんです。そしてここは五番隊隊舎の裏・・・分かりますか?」
つまり、調査内偵中・・・ってことなんだろうけど・・・
そりゃ確かに、分かってるって言えば分かってますけどね。
でもなぁ。
「喜助の野郎がちょっと暴走気味になっちゃってて、おまけにコイツまで作る始末で・・・
 だから今日、アイツが起きる前にアイツの家飛び出して来たんですよ?」
肩にしがみついてぶら下がっている『チビ』を見せながら言うと、何かを思案するような顔になった。
そして、
「その子、君の子供?」
と聞いた。
やっぱ聞いてくると思った。
ということは、一心のヤロウ、ワザといわなかったな?
と、彼の確信犯的な行動を心の中で思う。
「いや・・・違います。
 コイツは喜助が作った奴で、俺の子供じゃありません」
とキッパリと否定した。
「こいつは、その・・・喜助の野郎が俺を偲んで作ったらしいです。
 んなことはどうでも良くて、もしその噂の所為で、このまま俺が有事の際でも腰痛で動けなくなったら、隊長・・・どうします?」
そう言うと、何事にも動じないと思っていたあの隊長の顔が僅かに固まった。
ほぉ・・・珍しいこともあるもんだ。
そんな感想を抱いた。
そして
「それって、八席は俺のことを脅す・・・と?」
周囲にあった『ふんわり』とした空気は何処か姿を消し、代わりに吹き付けたのは、身も毛もよだつ冷たぁぁい空気。いや、風。
俺の風梗だかって、あんな冷たい風は起こさないぞ!?
と心の中で毒づいてみる。
それに、何より、目が・・・コエェ・・・っす・・・隊長。
「いや・・・別に・・・そんな気はない・・・っすけど・・・」
「ならいいけど・・・でも、その噂、俺も少し気になってましてね。移動しましょう。ここでは目立ちます」
そう言うと、鍛練場へと再び足を向けた。
どうやら、あまり『聞かれたくない』相手の霊圧を感じたようだ。
この辺りの索敵能力は流石・・・というべきか。
すごいな。と、素直に思う。
霊圧をほとんど『封印』してるはずなのに。
 
 
 
 
 
 
この人が、自分の霊圧を封じてるのは、入隊時に聞かされた。
そして、その全開放をしたことは、未だかつてない・・・とも聞いた。
ただの一度も。
一体このという少年にしか見えない『平の零番隊隊長』は、いつからこの瀞霊廷にいるのかも見当がつかない。
恐らく、この先もきっと分かることはないのだろうと思って、俺は半分諦めている。
平隊員という名に没し、そして有事の際には見えないところで動いて処理をする。
隊長になりたいとか、名を上げたいとか、そんな欲があれば一生勤まらない仕事だろうと思う。
そう言うと
『だから僕はを選んだんじゃないか』
と軽く言われてしまった。
全く以って理解不能。
それが、俺のという死神の総合的な印象だ。
 
 
 
 
 
「さて・・・と。で、は何を知りたいんです?」
そう言って刀を地面に置いて座った。
つられても地面に座る。
「ま・・・噂の出所・・・ですかね。とりあえず、心当たりある奴回ってみたんですが、聞いてる奴もいれば知らない奴もいたりして、出所がハッキリしないっていうのがちょっと・・・引っ掛かって」
こういう、はっきりしない物事は、合わない。
全てのことに白黒つけなきゃ気がすまないって訳じゃねぇ。
ただ・・・こう・・・誰かに振り回されてるっていうのが気に入らねぇってだけだ。
しばらく何かを考えるように地面を見つめていただったが、やがて刀を持ちそれを引き抜いた。
そして
「盤陣を印せ 森羅」
と、偽りの始解の言葉を述べた。
「さてと・・・まず、噂の大元の時間までこの鍛錬場を戻せる?」
刀にまるで友人に話し掛けるように彼が言う。
俺に彼、森羅光玉の声は聞こえないが、には聞こえてるんだろうと思う。
ま、んなことはどうでもよくて・・・だ。
なんで目の前に居酒屋があるんだ?
と、まるで即席麺か何かのように、いきなり現れた居酒屋に驚いた。
 
 
 
 
 
 
 
「あの・・・隊長?」
「ここみたい。ここが、発端」
はぁ・・・なんて驚いてる場合じゃない。
居酒屋が、発端?
なんか、俺・・・いやな予感がしてきたぞ?
そう思いながら、既に扉を開けて入ろうとしていたの後を追う。
しっかしまぁ、森羅光玉ってこんなことまで出来んのねぇ。
すっげぇ〜
なんて思っていた・・・ってことは内緒だ。
 
 
 
 
「だから・・・瑞橋さ、女の人はいいぜ?」
なんてそんな声が奥の座敷から聞こえてくる。
そして、相手の男が発したその名前には、聞き覚えがあった。

 
 
 
瑞橋・・・
十二番隊三席の、瑞橋雲。
 
なんで雲が?
っていうか、なんでアイツの話と俺の噂が絡まるんだよ?!
アトガキ
隊長登場・・・ちょっと違う?
管理人 芥屋 芥