Sky Lord
15.Way which is chosen
「鯖焼けたぞ」
 そう言って皿に盛り付けしていく。
 こうやって面と向かって飯を食べるのは、いつ以来だろうか。
 相変わらず、侑士の食べ方は綺麗だとは思う。
「寝るトコだけど、一部屋あいてるからそこ使って……」
 だが言い終わる前に侑士が
「久しぶりやし、一緒に寝るで」
 とさっさと決めてしまった。
「え?」
「えぇやろ?」
「あ……あぁ……」
 それにしても、やはり頭が良いのだろう。
 飲み込みが早いとは思う。
 糸の使い方に関しても、早速使えるようになってるみたいだし。
 これなら、AIRLESSも使いこなせるかもしれないとは思った。
 実はアレックスから移って以降、今まで一度も使ってこなかったARILESSの名前の力。
 だからどういう戦い方が出来るのか、実のところはほとんど知らない。
 知らなくても良かった。
 昔と今の経験から、言葉にイメージを乗せるその威力が桁外れなのだから。
「じゃ俺、シャワー浴びてくるよ」
 飯を食べてしばらくしてからが言い、風呂場へと足を向けた。






「上がったよ」
 ドアを開け、自室へと入ると侑士がちゃっかりダブルベッドの上で寝転がっていた。
 黒い髪に黒い猫耳と長い尻尾、黒いT-シャツとジャージを見て、猫というよりかはまるで黒豹か何かだとは思った。
 そんな侑士が、頭をタオルで拭き、椅子に座ろうとするに声をかける。
「なぁ
「ん?」
「傷痕見せて」
「なんで?」
「なんででも」
「……分かった」
 椅子に座るのを止め、ベッドの縁に座って背中を侑士に預ける。
 着ていたT-シャツが軽く引っ張られて、傷痕が現れる。
 そこを軽く触れられて、体がビクッと震えるのをは気合で押さえつけた。
「相当深い傷やね」
「あぁ。思いっきり振り下ろされたからな」
「やっぱり俺、許せんわ。手塚のこと」
「侑士。それは……」
 違うと言おうとしたの言葉は、遮られた。
がどう思うかは関係ないねん。これは俺の問題やから」
「侑士……」
「一回、手塚と話してみるわ」
「分かった」
「返答次第じゃ殴るかもしれん」
「侑士それは駄目だ」
 非難の声を上げるが、関係ないとばかりに侑士が傷痕に沿って刻まれた文字を指で辿って呟く。
「MERCILESSか」
「……それだけは直接刻まれてるからな。消えないよ」
「残酷なことするなぁ。これやったん、九歳の手塚やろう?」
「まぁ……な」
 軽い沈黙が降りた後、ポツリと
「それにしても、のココ……性感帯やろ」
 確信を持った声で言われ、が絶句する。
「ッ!?」
「体震えてるやん。バレバレやで?」
 囁くような声で言われ、ソッと傷痕に触られる。
「侑士ッ、コラッ!」
 振り払おうとするが、腰の辺りまで痺れが走って上手くいかない。
 そしてそのままベッドへと引き倒された。
はさ。俺の想いの深さ軽く見てるやろ」
「ゆう……し?」
 顔を真上に持ってきた侑士が真顔で告げる。
「俺はな、。どんなことがあってもを選ぶ。だから、を傷つけた手塚を許されへんし、隠し事してたも許してへん」
「……だからそれは」
「それこその都合やん。俺には関係ない」
 さっきの言葉を再び言われては何も言えなくなる。
「俺に勝手な価値観押し付けて、俺から離れようったってそうはいくか」
「……侑士!」
「ずっと言うてるやろ? 俺はで耳落とすって」
「だからって、今じゃなくたって!」
「あんな事隠してた罰や。『体から力抜け』」
「ッ?!」
「『糸』を通じて命令すると、は逆らわんのやろう?」
「OrderString……」
「俺からすると、StringOrderやな」
 ニコリと笑って、侑士が返す。
「どっちでもいいよ。いつの間に使いこなした?」
 いくらなんでも早すぎる。
 だが、天才と称される侑士には、短時間で十分なのかもしれないとは思う。
が風呂入ってる間にな。背中に集中してたら糸が見えて、これかぁって思ってな」
「さすが天才やな。飲み込み早すぎや」
 それだけじゃない。
 侑士が、この状態を受け入れてることも影響している。
 ということは、の『糸の形』がどんなのか見られたかもしれない、と冷静な頭のどこかが思う。
「心の強さが影響されるって言ったんやで? で、の場合言葉に経験が乗るから強いんやね」
「さぁ。どうやろな。まともに戦ったことないし」
「わかるわ。は強い。強すぎるくらいや。せやから、大人しく罰受けぇや」
「せやからって何言って……」
 前後の言葉が繋がらない侑士の言い回しに問いかけようとしたの言葉を、まさに帝王然とした侑士が強い言葉で遮った。
「何度も言わすな」
「……お前……」
「ほら『ベッド上がって力抜き』」
「……」
 命令されて、は無言のままベッドにずり上がりそのまま体から力を抜いた。
 そんなに、思いついたように侑士が尋ねる。
「せや。手塚とは最後までシタ事あるん?」
「ない!」
 即答したに、侑士がニヤリと笑う。
「やったら、俺が先に貰うわ」
「侑……っ」
 シャツがたくし上げられて、そのまま口付けしようとしてくるのを、慌ててが止める。
「侑士! ヤメロッ! 嫌だッ!」
「否定の言葉は聞きたないから、『黙ってて』」
「ッ……」
 糸が首に集まって絡まり、声が出せなくなる。
 その様子に満足そうな顔をして、侑士が言う。
ってさ、犬みたいやね」
 信じられない顔をするに満足したように、侑士が言葉を続ける。
「ハンドラーに命令されるとその通り動く。今のそっくりやん」
 そう言うとの顎を上に向け
「なら犬らしく『舌出してみ?』」
「ッ!!」
 嫌だと思いつつも、命令には逆らえないの口が開いてゆっくりと舌を出し、侑士が舌を絡めてくる。
「んッ……」
「もうちょいいやらしく絡めてみ? できるやろ?」
 頭に響く水の音が、感覚を麻痺させていく。
「えぇ子や」
「ぁ……」
 言葉を発しようとしたを、侑士が止める。
「あんたの予想通りやらから。まだ黙っててな?」
 その言葉と共に侑士の指がのジャージの中に手を入れてきた。
「ッ!!!」
 その時、が動いた。
 キンッと一瞬だけ耳鳴りを鳴らすと、侑士を睨んで
「ふざけるなよ……お前」
 の低い声で告げるその声に侑士がゾクリなる。
 それは、薄ら寒い恐怖と同時に、このをもっと見たいという欲望だった。
「あぁ。本当の名前の方か」
 の支配権が本来の名前の方に移されたことを理解した侑士が小さく一息吐く。
 そんな侑士の下にいるの体には、既に力が戻っている。
 少しでも変な動きをすれば、ベッドに叩き伏せられるのは侑士の方だ。
 それが分かってる侑士は、自分の腕の中にいるに甘えるような声で願う。
「じゃぁ、普通に抱かせてぇな」
 しかし返答は、普段のの声で返ってきた。
「こういうことは、学校を卒業してからだ」
「卒業してから? それまた先は長いなぁ」
「正確には来年の四月一日以降だ。問題になるのは御免だからな。それに先約がある」
「そんなんあるとは聞いてへんで」
 珍しく焦った声の侑士に
「聞かれなかったからな」
 と、ニヤリと笑ってが答えた。
 


 しばらくそうやって見詰め合っていたが、大きく息を吐いて先に折れたのは侑士だった。
 しかし既に勃ってる自分のものを指して
「なぁ。コレどないしよ」
 などと言ってくる。
「自分で抜け」
 はTシャツを引きおろしながら体を起こし冷たく返した。
「えぇー。、やってくれへんの?」
「……俺から手を出したら犯罪だ」
「じゃ、俺からからならえぇ訳や。『咥えて?』」
「屁理屈抜かすな」
 呆れたように言うが、割り込んできた侑士の命令に脱力しながらもは応えることにした。
 侑士が本気だと知ったからだ。それに、罰云々の話もあって妥協する。
「誰にも言うなよ?」
「俺が言うと思ってるん? ほんとはに入れたいんやけどなぁ」
「それは来年の四月以降にしてくれ」
「四月になったら抱かれてくれるってことでえぇんやね?」
「お前が望むならな」
「じゃ、俺も予約しとく。絶対抱いたるからな」
「分かった分かった」
 意気込む侑士の言葉を軽くいなし、は体を屈ませて侑士の足の間に入った。






「はぁ……」
 眠っている侑士の隣で、は天井を見上げて軽くため息を吐く。
 手塚だけでもため息案件だというのに、忍足まで加わるとなると流石に困る。
『決めた。俺、で耳落とす!』
 声変わりする前の侑士の声がの頭の中に響く。
 侑士と出会ったのは彼が十二の頃、氷帝学園中等部に入学する前の話だ。
『何が決めた、や。冗談も大概にし』
『いーや。もう決めたもんね! 俺絶対で落としたるって』
『はいはい。言ってろ言ってろ』
 などとやり合っていた頃が懐かしく感じる。
 冗談だと思っていたのに、まさか本気だったとは……


 偽善というのは厄介だ


 とは本来の名前のサクリファイスである張維新の言葉だ。
 確かに厄介だよ張の旦那。あんたの言う通りだ。
 しかし、侑士の本気を見抜けなかったのは自分だ。
「なぁ
「なんだよ」
 侑士が起きていることは分かっていたから、は動じることなく応える。
「俺、本気やで? のこと選ぶってヤツ。せやから、許されへんし、許してる。分かるか?」
 ゴソリと動いて、侑士がの腰に腕を回す。
「子供じゃないからな。分かってるよ。だけどお前、いいのか? 俺で」
「この六年ずっと思い続けてるんやで? とっくに覚悟済みやわ」
「頼もしいな。じゃ、この件に関してはお前に任せる。だけど、一つ約束がある」
「約束?」
「あぁ。家族に、ちゃんとお前の気持ちを説明すること」
「わかった。せやけど、なんで?」
「お前将来医者になるんだろう? だったら説明責任も必要だ」
 大人になるなら責任は果たせ、と言外に云って侑士を見やる。
「……」
 渋る侑士に、発破をかけるつもりでが言う。
「なんだ出来ないのか? 手塚は九歳のときにやったぞ?」
 と。
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/08/07 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥