Sky Lord
13.Retribution
 護衛が終わってホテルへ帰る車の中、の二人は無言だった。
 そしてその口火を切ったのはだった。
「どうだった?」
「どう? とは……?」
「さっきのこと」
「すごいと、ただひたすら、凄い……と思いました。あと、物凄く怖い……と思いました」
「俺のこと。知りたかったんだよね」
「そう……ですね。でも……あんな……」
「想像と違った?」
「……はい」
「そか。でも。俺、謝らないよ」
「わかってます」
「そう。ならいい」
 ここで駄々を捏ねるなら、一言言ってやろうと思っていたの答えに口を閉ざす。
「それよりも、俺の耳が落ちたらあの人、張さんの好きにしていいっていうのは、どういう事ですか?」
 たしか、そんなことを英語で言っていたような気がする、とは落ちた自分の耳をギュッと握ってに問いかける。
「あぁあれね。お前をここに連れてくるための条件さ」
「条件?」
「そ。あれが条件。今回俺がお前を連れてきたのは、俺の我侭になる。だからそれなりの条件つけないと通らないんだよ」
「でも、元はと言えば俺が言い出したことですよ?」
「あの人がお前みたいなガキを相手にすると思うか?」
 逆に問い返され、それはアリエナイと実感したは言葉に詰まる。
「それは……」
「そういう事。だからお前にも責任取らせるはずだったんだけどね。まぁ、ガキに興味ないって言って許してくれたのは、単なるあの人の気まぐれさ」
 ここでは言葉を切って、をちらりと見て
「だからお前は、今俺の隣に居れることに感謝しとけよ?」
 と言ってハンドルを切った。





 シャワーを浴びて部屋に戻ると、先にシャワーを浴びたはぐっすりと眠っていた。
 それに領域を掛けて彼に音が届かないようにすると、はそのまま自分のベッドにゆっくりと座り、携帯を手に持った。
 時差を考えると、日本は夜の八時くらいのはずだ。
 まだ起きてるだろうと予想して、はコールする。
『はい』
 ワンコールで相手が出た。
――こりゃ携帯、ずっと見てたか?
「もしもし?」
 と遠慮がちに言うと、受話器から盛大なため息が聞こえた。
「そうあからさまにため息吐くなってば」
『呆れています。あなたの連絡の無さに』
「ごめんって。でも粗方終わったからさ」
『そうですよね』
「なんだよ。怒ってる?」
『えぇ、少し』
「わかった。報酬が出たら、飯でも奢るよ」
『そうして下さい』
 自分に厳しいルールを課している手塚が、こういう時はそのルールを外す。
 人殺しの報酬金だが、金は金だ。
 と、手塚なりに折り合いをつけているのかもしれないとは思う。
 でなければ、九歳のときに自分が欲しいとは言いには来ないだろう、とは思った。
「っと。が起きそうだ。そろそろ切るよ」

「ん?」
『一段落をつけなければ連絡も出来ないのはよく分かる。だが、だからと言ってオレが心配してない訳じゃない』
「ごめん……。悪かった」
 珍しく苛立ちと怒りをぶつけてきた手塚に、は素直に謝って「明日は昼過ぎに成田に着くから」と言って電話を切った。
――こりゃ、飯だけじゃ済まないかも……
 背中に薄ら寒いものを感じて、が目覚めるのを待った。
「起きた? 飯でも行こうか」
「はい」






「あの張って人が、先生の本当のサクリファイスなんですね」
 確認するようにが聞いた。
「まぁな」
 出された麺を食べながら、は短く肯定する。
「マフィアの幹部が名前を持つなんて……」
 信じられない、と言った様子でが呟く。
「信じなくても事実は事実だし。それに、名前なんて誰が持つか分からないだろ? それが俺の場合あの人だったってだけさ」
「いつから出会ってたんですか?」
「さぁな。俺が十代の頃だから十年以上は前かな」
「そうなんですね」
 それきりは黙りこみ、ただひたすら頼んだパッタイを食べた。








「俺、あなたと対等になれません」
 部屋に戻って開口一番、がそう言った。
「だから、この名前は、先生と対等になれる人に……」
「そうが決めたんなら、心配しなくても名前は勝手に移っていく。だからは、これからは普通に生きていけばいい」
「はい。それに俺は、戦闘の指示が苦手です。あと、俺には先生の苦痛は引き受けられない。いくらサクリファイスが苦痛を引き受けるっていっても、あんなのは……無理です」
「俺の流儀に合わないなら、去るほうがまし。そう思ったんだね」
「ですね」
さ」
「はい」
「成長したね。大人になった」
「無理やり成長させられた感じがしますけど。ですが、大分俺は成長できたと思います」
 そう告げるの顔は、どこか晴れやかだった。







「あ……」
「うん」
「今、消えました」
「だね」
 飛行機の中で、お互い顔を見合わせる。
 後ろが居ないことを確認してが背もたれを倒し
「さて、誰んとこ行ったのやら」
 と呟くに、が意地悪そうな顔をして
「昔から先生を知ってる、先生と対等になれる人のところ行って欲しい。そう願いました」
 と言った。
「え?」
「ちょっとした仕返しです。先生」
「え??」
「だって、やられっぱなしじゃ悔しいじゃないですか。だから最後に仕返しです」
「えぇぇぇぇ」
 なんとなく、には一人しか思い浮かばず……
 そして、それが正しいことを、帰ってから知ることになる。
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/26 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥