Sky Lord
12.Sacrifice is...
「うそ……」
 見上げた空の光景。
 日がピークを過ぎて、太陽に包まれつつある空の中にソレはあった。
 いや、『居た』と言った方が正しいのかもしれなかった。
 それは、まるで鳥のような姿をしていた。
 だが鳥ではない。
 鳥ではないが、絆の糸が広がってまるで天使のようにも見える。




 口をアングリと開けて上空を見つめるの後ろから声が掛った。
「いつまでそうやってるつもりだ? 。目立つんだよ。さっさと降りて来い」
 と上を見上げて張が言うと
「へいへい」
 と言って降下してくる。
 トン……
 という音をさせて二人がいるところに、まさしく『降りてきた』
「でも、飛べって言ったのはあんただぜ? 旦那」
 降りてきて、が呆れたようにそう言った。
「だからって何時までも浮くな。この馬鹿が」
 と軽口を張がとばす。
 そのやりとりを聞いていて、の頭の中にある言葉が蘇ってきた。
 は一度、手塚に聞いたことがある。
 の本当のサクリファイスは、もしかして手塚ではないのかと。 
 しかし返ってきたのは否定だった。
『それは違う。だが、半端なく危険だ。あの人の隣も、そのサクリファイスもな』
「ま……さか……」
 その言葉にと張の二人がを見る。
「あ"ぁ?」
「ん?」
「まさか……嘘……」
 その言葉で、が何を言いたいのか分かったのだろう張が
「まぁ、そういうことだ」
 と言うと
「そういうこと」
 に向かって目配せでそれ以上の発言を止めさせる。
 恐らくこの二人共、言葉にして言われたくないのだろう。
「殲滅は終わった。ったく、しばらく荒事には関わりたくねぇ気分だ」
 そう言って張が銃を仕舞うその時に、は見てしまった。
 二つの銃のグリップに書かれたその文字を。
「天……帝……?」
 それは、万物を支配する中国の神の名前。
 そんなのをグリップに書き込む男のセンスは如何なものかと、少し疑いたくなるのだが。
 だが、それはあながち間違いではない、とは思う。
 少なくとも、は空を支配する。




「いい加減その『天帝』の文字消したらどうです?」
「バカ言え。―泰山府君其れは我也―。大体お前が『そう』なら、俺もそうだろうが。違うか?」
「俺はいつでも『人間』でいたいんだがなぁ」
 と首に手を充ててがそう言うと、張が話しを切り上げて話題を変える。
「まぁいいさ。で、お前この後はどうするつもりだ?」
 と聞いたまさにその瞬間だった。
「あ……」
「あ?」
「あぁ」
 三者三様の「あ」が聞けたのは、きっとこの瞬間だけだったろう。
 最初に声を発したの頭から、ズルッともサラッともとれる動きで耳が、落ちた。
 と同時に、尻尾も落ちていく。
「あ……あぁ」
「正如預期的那樣」
「だろうと思ったんだ」
 さっきの恐怖と今の安心感で、感情がジェットコースターのように揺れ動いた代償だろうとは思う。
 冷静に分析した後、張に向き直り
「どうする? 耳が落ちたらあんたの好きにしていい。そういう約束でしたよね」
 最初の約束を提案するに対し張は鼻で笑って
「ガキに興味は無ねぇよ」
 と言い、それに対してが「了解」と返した。




 その後、張は電話をどこかに掛け話始める。
「あぁ、そうか。こっちも片は付いた。あぁ。死体が二つだ。下のを回収頼む。上のはこっちで運ぶよ」
 そう言って指示を出すのと同時に
「さてと。マチルダの死体、掃除屋んとこ持って行きましょうかね」
 と言った。
「おい
「なんです?」
 彼女の死体に領域を展開して運ぼうとしたとき、電話を終えた張がを呼んだ。
「お前、一度は墓に行け」
 その言葉で、の動きが止まる。
「それは命令?」
 と聞くと
「どっちでもねぇさ」
 そうはぐらかす彼の視線の端が一瞬を捉えたその時、張が微かに笑ったように見えた。





「『掃除屋んとこまで』」
 領域を展開し、が死体を離脱させる。
 こういう時、この力は便利だとつくづく思う。
 重い死体を運ばなくて済むから楽なのだ。
 戦場でもよくやっていたことだから、それがどんなに異常に見えるのか、には分からなかった。
「相変わらず楽な運び方しやがる」
 と、感心した様に張が言う。
「何言ってんです。こういうモンでしょ? 俺たちは」
「確かにな。とりあえず、俺たちより先に正規の方は片が付いていていたらしい。車を一台貸そう。好きに使え」
「謝々。って言いたいところですがねぇ旦那。ひとまず、あんたを事務所に返すのが先ですよ」
 張の旦那が居なくなれば、この街はただ事では済まない。
 鉄火場に立つとついつい忘れがちになるのだが、それ程までにこの街にとってこの男は重要なのだ。
「それもそうだったな」
 そう答える張の表情は、少し晴れやかだった。




 

「さて。は? その耳どうするの?」
 未だボー然と座り込んでいるに向き直ったが、床に落ちている耳を指差して聞いた。
「あ……持って……帰ります……」
 ギュッと拾ってそれだけ言うのに精一杯だ。
 だがは容赦しない。
「そうか。一先ず俺は旦那を事務所まで護衛するけど、どうする? 付いてくる?」
 と聞く。
「行き……ます……」
 そうが答えると
「分かった。立てるなら立ってくれ。そろそろ迎えが来るからさ」
 と言ってを立たせ、は張維新の護衛についた。
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/25 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥