Sky Lord
11.Flying Dog
「ジョセフ!!」
 そう叫んで、彼女の執事であるジョセフの前に出たのはマチルダだった。
 彼には一瞬何が起きたのか分からなかっただろう。
「あ……あぁ……」
 血まみれになる彼女の体。
 何かを失う感覚。
 彼がずっと仕えてきた主の死。
 いつもそばにいた。
 幼い頃に出会った『本家』の人間。
 この人しかいないと思ったあの瞬間……
 だからずっとこの人を助けてきた。
 彼女が、という少年兵を追いかけた時には嫉妬さえした。
 しかしそれを表には出さなかった。いや、出せなかったのだ。
 そして組織を手に入れようと、あらゆることをした。
 それは彼女も同じだった。
『あなただけ働かせて、私が働かないっていうのも変でしょう? だから、私もヤルわ』
 と言っていただいたときは本当に嬉しかった。
 その人が、張の撃った銃弾で倒れた。
 どうしてこうなった?
 どうして!?




「お嬢様」
「私の……最後の……望……」
 
 
 
 
「別れは済んだか?」
 そう言って張が銃を構える。
 女が事切れているのがハッキリと分かる。
 次に彼が顔を上げたとき、その表情は鬼そのものだった。
 片割れを失った狂気が彼を支配している。
 そしてその形相のままを見て
「お前のせいだ……」
 一言そう言うと彼はどこかに向かって走っていった。
――まずいな
 この後何が起きるか察したが彼を追いかける。




 ガンッ
 という音をさせて足を止め、次にと張の二人が目にした光景。
 目の前に広がる倉庫街から、真っ青な空の景色の中に伸びている鉄の腕の端に彼らは居た。
「お前……」
 そこまで言っての言葉が止まる。
「来るな! 来たらこのガキを落とす!」
 後一歩、ジョセフが後ろに下がれば二人共地面と熱いキッスが待っている。
 そんな状況である。
 だが、そんなことに動じずに動くのはやはりこの男。
「って言ってるが?」
 と彼から目を離さずに張が言う。
「さぁて。どうするかねぇ」
 とそれに軽口で答えつつ、は視線だけは二人から外さない。
「ここまで来ると性質の悪い喜劇だなぁ。そうは思わねぇか? よ」
 その言葉に小さくため息をついて
「あぁ。全くだ」
 と が答えた。
 次の瞬間、張の隣から の姿が消えた。
「お前! 来るな! 来るなぁぁぁ!!!」
 ドンッ
 半分錯乱状態のジョセフがの背中を押した。
 と同時にが叫んだ。


「来い、猟犬!」


 その瞬間、の体が宙に浮く。
 と同時に響く何かの音。
 キィィィィィンという金属の音甲高い音と、ゴォォォという何かのエンジンが回る音が微かに響く。
を収容したら張の旦那のところへ行け」
 がそう言うとの体が反転し、ゆっくりと張が居る方へと進んでいく。
 それを目の端で捉えると
「さてと。どうする? 後はねぇなぁ」
 と、これまた冷静に挑発した。
「お前は……一体何者だ!」
 こんなこと聞いてない。
 人を浮かせるなんて……
「只の人間だよ。ちょっとばかし特殊だけどな。さて、後はお前だけだ。来るなら来いよ」
 誰が見ても安い挑発だった。だが、ジョセフはそれに乗った。
 シュッ
 という音をさせてナイフが空を切る。
 それを紙一重でかわすと、そのままが体をそのまま後ろへと体を下がらせる。
 そのまま左手にナイフを持つと
「やれやれ。これで心置きなくヤレるなぁ」
 と言った。
 それを黙って……いや、息を呑んで見つめているのはだ。
「目、逸らすなよ」
 そんなの後ろから声が掛る。
 その声にビクッと体を震わせるが、それでもの視線はから外れなかった。
 それを見て
「ガキにしちゃいい心がけだ」
 とニヤリと笑った張だが、次の瞬間銃を抜き、そして・・・
 ドッドンッ
「グッ……」
 そう言って崩れたのはではなく、ましてや直ぐそばにいたでもなかった。
 いや、おそらくには一体今何が起きたのかすら分かっていなかっただろうと思う。


 ズルッ
 という嫌な音が響く。
 ガクッと膝をつくと、そのまま前に倒れ込んだ。
 それをナイフを構えたままで見ていた
「だから言ったろ。張の旦那はマフィアだってな。守られるなんて性質じゃねぇんだよ。あの人は」
 一瞬だけ気を抜いたのがいけなかったのか、それとも凶弾に倒れたジョセフの最後の力か。
 ガシッ
 という音をさせて
「お前も……道連れだ」
 ジョセフがそのままの足を崩した。


 が息を呑んだ。
「先生!!」
 と叫んで動こうとするが、如何せん腰が抜けて動けない。
 その代わりに言葉を発したのは張維新。



。さっさと解除しろ」



「命令承認   来い!ラプター!!」





 落ちる瞬間も、落ちてからもは冷静だった。
 張の言葉もはっきり聞いた。
 そして『その言葉』だけで『それ』が具現化することも知っている。
 さっきと同じ音が響く。
 いや、それにしては少し変だ。
 上から音が響いてくる。
 なんとかゆっくりでも動くらしい体を立たせ、そして外の様子を見ようと前に踏み出したが見た光景。
 そこでは、初めて見る光景に絶句した。
「うそ……」
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
主人公が冷静に叫ぶ。の巻
2023/07/25 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥