Sky Lord
10.Joint Struggle
 それは、一瞬の戦闘領域の展開だった。
「ジョセフ」
か」
 彼女の張の動きが一瞬止まる。
「どうやら向こうは向こうで始まったようね」
「そのようだな」





 あれがの戦闘宣言だとは気付いた。
 そういえばあの時も、金華と銀華の時にも何か英語で言っていたけど。
 でもなんで領域の展開に、まるで呪文みたいなことを言うんだろう。
 と、場違いにもはそんなことを考えていた。
「さぁて。お望み通り応えてやったぞ」
「その割には領域がないようですが?」
「そうか?」
 そう言ってがニヤリと笑った、その時だった。
「ターゲットインサイト フォックスワン」
 シュゴォォォ……
 という音を立てて、何かが迫ってくる音がする。
「回転……回避!」
 だが間に合わない。




「キャァァァァ!」
 途端、マチルダの周囲から鎖が現れる。
 それに手を縛られ、銃口が張から逸れる。
 それを見て張が
「冷や冷やさせやがるなぁ。全く」
 とがいるだろう方向へと言葉をかけた。



 彼女の声に真っ先に反応したのはジョセフだった。
「お嬢様!」
 と身を翻し戻ろうとする。
「おーおー。戻れ戻れ。じゃ、俺たちも行こうかね」
 それを素直に見送って、を立たせ鉄骨のもう一つの端へと向かう。
「大丈夫。怖くないよ。どうせ落ちても助けるから」
 と言った。



「ホラな。助かったろ?」
 床がある部分に立つとの腰が抜けてヘナヘナと座り込んでしまった。
「立てないのは分かるけど……。良いか。ココに居ろよ? ちょっと旦那の手助けに行ってくるから。な? 何、すぐ戻ってくるよ」
 と言って、彼に背中を向けた時にが何かを呟いた。





「さてと。ここからは大人の時間で行こうか? お二人さん?」
 と言って、張の旦那と自分とで二人を挟むようにしてが立つ。
 目の前には周囲の鎖に繋がれたマチルダと、それを守る形でジョセフがいる。
「ジョセフ。仕掛けて」
 言葉での戦闘を仕掛けるマチルダに、シュウが先手を打つ。
「マフィアにしては生ッチョロイなぁ。言葉なんか使わずに銃で来いよ。それが俺たちの流儀だろう?」
「そうね。そうだったわ。だから……」
 彼女がそう言った瞬間、目の前の二人の姿が砕けた。
 バリンッ!
 という音をさせて、二人が砕ける。いや、二人を映したそれは、鏡!

 しまった! 挟まれた!
 二人同時に思う。
 張の前にはマチルダが、そしての前にはジョセフが居る。
「そっか。お前らの名前、MIRRORLESS。すっかり忘れてたぜ」
 と、この境地でもが余裕を見せて言う。
「お褒めの言葉と受け取っておくわ。家の中でも末席に近かった私が、組織を牛耳ることができたのもこれのお陰よ」
 そう言ってマチルダが銃口を張に向ける。
「戦争上がりの娘が、お宅の親父さんは怖かったっていう噂もあるがね」
 とが言う間にも、二人が距離を詰めてくる。
 挟まれている張との間隔が除々に狭くなっていく。
「そうね。でも、私を兵隊にしたのはあなたよ? 
 うっとりするような声音でマチルダが言う。
「俺?」
 それに訝しげに応えるのは
「そうよ。あの冷酷さ、残酷さに、私憧れたわ。憧れて少しでも近づこうとして。それで身を投じたのよ。でもあなたは急に消えた。そこから先の消息を消したのよ。私は探したわ。でもあの当時の私じゃ動かせるのはジョセフだけだった。だから……」
「だから組織をもらったのか?」
「そうよ。でも探したあなたは全然違ってた。見た瞬間絶望を通り越して笑ったわ。あんなに冷酷で残忍だったあなたが『教師』なんてやってるんですもの。笑い話にもなりはしない」
「長話が過ぎるぜ? 小娘。こっちは退屈で仕方ないんだがね」
 と張の旦那がウンザリした口調で言う。
「さて、どうする?」
「そうねぇ……どうせ後もないんだし。……ね」
 それが合図だった。


 四人が一斉に動いた。
 ガァンッ!
 最初に撃ったのは果たして誰だったか。
 一瞬で向きを変えると、そのまま踏み込んだのは
 それを見たのか見てないのかわからないが、明らかに見ていたら遅いと思われる反応速度で、二人がお互いの目標のスィッチをかけた。


 ダンッ!


 という音をさせて踏み込むの目の前にはマチルダがいる。
 そして、バンッバンッという音をさせて、ジョセフに向けて銃を撃つのは張だ。
「これでイーブンだ」
 張がそう言うが、正直マチルダは驚嘆せずにはいられなかった。
 さっきこの二人、目配せ一つしなかった。
 視線を合わせずに、アイコンタクトの一つもなく、互いの目標を目的のために一瞬で変える。
 経験や勘でどうこうできるような状況じゃないのは明らかだ。
 第一挟撃ができる様、挟んでいたのは自分たちなのだから。
 明らかにこの二人、共闘(戦い)慣れている!



 しかも互いが気にせず戦えるよう、イーブンに持って行ってるのもこの二人。
――張が私の相手をした時点で、ここまで読んでいたとでも言うの?!
 もしそうだとしたら、なんという算盤のセンス!
――信じられない! 信じない! 言語闘争者の性質まで利用するなんて!
 まるで『自分達は違う』と言わんばかりの……
 そこまで考えて、マチルダの脳裏にさっきの張の言葉が蘇る。
『守られるのは性に合わん』
 だから?



「貴様達は一体なんだ!? 『守る者と守られる者』ではないのか?」
 ジョセフが混乱してそう張に問い掛けている。
「知らねぇなぁ。そんなマドロッコシイモンはよ」
 それに答えたのは張だ。
「俺たちにあるのは、ただの純粋な剛力だけだ。俺たちの法にして唯一の戒律」
「正義や道徳っていったものは、日本にいる連中に預けてきてるからな。俺は」
 そう。
 預けてきてる。
 だからあの場所こそ、本当に守りたいと思う場所。
 自分が人として生きていける最後の場所。
 そのためには、例え自分の立つ場所が地獄の一丁目であろうとも最深部であろうとも関係ない。
 そこが地獄だと気付きもしないで戦える。


 捨てることで強くなれる。
 守ることで強くなれる。
 正反対の二人だが、深いところでは繋がっている。
 だからこそ・・・


 ザシュ!
 のナイフがマチルダの大腿に入った。
「グッ……!」
 痛みで膝を折ったその声を聞いて、ジョセフの動きが少し鈍る。
 だが張には、その一瞬で十分だった。
「遅いんだよ。お前は」
「ヤメテェェェェ!!」





 パンッ!!!
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/22 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥