Sky Lord
07.La Jaula fue Abierta
 さてっと。
 どうしましょうかねぇ、この状況。
 ま、どうせ助けるときが一番こちらが無防備になるのは間違いないんだが。
 だからって、アイツを追い詰めている間、の精神力が持たないだろうなぁ、と冷静には考えている。
 どっちを優先させるか……だが。
 判断に迷えば、どちらも中途半端になるな。
 そう思い、相方を呼ぶ。
「旦那!」
 すると張が、さっさと結論を出していた。
「あの女の方は俺がやる。、お前はあっちをやれ」
 と言って、上に上がっていった。


「さて、あの二人どこにいるのかしらね」
 銃を持って倉庫屋上へ向かう階段へと、ゴスロリ姿のマチルダが足を向けたその時だった。
「動くなよ」
 と、後ろから銃を向けられた。
「あら? もう来たの? でも『あなた』の方なのね」
「俺じゃ不満か? 小娘」
「あなたじゃ意味ないのよ。でも、そうやってのこのこ来るってどういう神経?」


 ジャガッ!
 双方から檄鉄を引く音が響き、やがて
 パァンッ!
 と乾いた音が響き渡った。




 果たして、先に引いたのはどちらだったのか。
「いい腕してるじゃないの!」
 と女が言いつつ、銃撃戦が始まる。
「ありがとよ、小娘」
 剥き出しのコンクリートの壁に体を隠し、相手の位置を想像しながら銃を向ける。
 彼の経験とカン。
 そして女の方も。
 踏んできた場数に違いがないのか、お互い一歩も譲らない。
「全く。ウチを噛ませ犬にするたぁいい度胸してるんじゃねぇのか?」
 と、銃を撃つ合間にも会話は為される。
「あら。あなたのところを噛ませ犬にしたのにも、ちゃんと意味があるんだからね!」


 このアマ……


「そうだったな。お前は『俺と同じ』だったな」
「そうよ。でもあなたは『守られる』なんてタマじゃなさそうだけど!」
「当たり前だ。大体守られるなんてなぁ、性に合わん」
 お互い、超攻撃型のソレだと悟ったのだ。
 守られるなんて真っ平御免であり、そんな種類の人間ではない。






 二人が銃を打ち合っている間
「お嬢様……」
 と言いながら影から出てきた一人の男がその時、動いた。







 パァァァン
 どこからか響く銃の音。
 その音に足を止めて、その響いた方へと視線を向ける。
 始まったか。さて……と。
 どうするかなぁ
 一瞬だけ天井を見上げてみる。
 全く『お前』はのん気にそこから見物かい。
 まぁ、いいけどな。
 とは再び視線を戻し、今にも目の前で落ちそうな彼を視界に捕らえる。
 そろそろ限界に近いな。フラフラだ。
 確かにこの階から落ちれば即死に近いだろう高さだからな。
 一瞬だけは目を閉じる。
 そして足に力を入れて、彼はそこから足を進めた。


「何フラフラしてるの。ホントに落ちるよ?」
 と言って一番確実に揺れないところ、の腰にが腕を回すと、途端ビクッとが体を震わせた。
 パニックを起こしかけているのがハッキリと分かる。視線が定まってない。
――オイオイオイ、こんなところで暴れてたら、流石にヤバイ。
「こらこらこら。暴れるな。落ちるぞ。それとも落としてほしいのか? どっち?」
 と落ち着かせるように言って、それをなんとか押さえ込む。
「俺だ。分かるか? 、お前の担任。大丈夫。ほら、もう大丈夫だから,な? 大丈夫だ」
 まだ息が荒いの瞳から、右手で景色を隠す。
 精神が限界にきていたの瞳から涙がこぼれた。
「まず呼吸。それから精神だ。大丈夫。息合わせて。落ち着いて。ほら、ゆっくり、ゆっくり、少し座ろう。その方が安定する」
 そう言って、まず座らせた。
「そう。そのまま。ゆっくりな。大丈夫。大丈夫だ」
 まず落ち着かせることが先決だ。
 流石にパニック状態のまま助けることは無理だからな。
 少しだけ呼吸が戻ってきたな。
 まぁ、まだ生きた心地はしないんだろうがまず一安心か。
「少し落ち着いたら、ほんの少しでいい。俺にもたれろ。大丈夫。俺は平気。慣れてるから」
 その言葉に、少しだけの重心が移動する。



「落ち着いた?」
 と聞くと、少しだけが頷く。
「来て……くれるなんて……思わなかった」
「見てみろ、。綺麗な空だ」
 彼の言葉は聞かない振りをして、別の話題を持ちかける。
「今は下のことは考えるな。大丈夫。怖くない」
 そう言って「はい……」と小さく答えたのを確認すると、ゆっくりと彼の視界を開けていく。
「ほら」
 目の前に広がった,真っ青な空。
 こんな空は、東京じゃ余り見たことがない。
「すごい……」
「さて。こんなところに長居は無用だ。戻るよ」
 と言って、が立った時だった。
「生憎ですが、お二人ともここで死んでいただきますよ」
 と、後ろから声が掛ったのは。



 やはり出てきたか。
 マチルダの執事、ジョセフ・ヤン。
「あんたか。今まで何処うろついてたんだ?」
 の声が変わる。
「どこでも良いでしょう? なるべくなら、お嬢様のお相手はあなたが来てくださるものだとばかり思っておりましたが。予想ははずれましたなぁ」
 と、スーツ姿の彼は言った。
「生憎なんだけど、旦那が彼女の相手をしたいって言ってさ。渋々譲ったわけよ。それにしてもあんたさ、ちょっとその物騒なモノ、仕舞ってくれないかな。今の俺に触れるとヤケドするよ?」
「火傷ね。そんなものは、したくはないものですね」
「だったら道譲ってくれないか? 俺はそっちに行きたいんだけど?」
「お譲りするわけにはいきません」
 なんという毒の入った言葉の応酬だ。
 聞いてるだけで、は胸がムカムカしてくる。
 そして耳鳴りが響くと
「戦闘システム、展開」
 と、その男が宣言した。


「応じていただきますよ。というより、応じざるを得ないと言うべきでしょうか? 
 と後ろの男、ジョセフが言う。
「お前等は……どこまで」
「我々には正義は必要ありません。ただあるのは純粋は破壊行動のみ。私はお嬢様の望みをかなえるだけの、ただの道具ですから」
 その瞬間、体に何かが走ったのをハッキリとジョセフは捉えていた。
 これは怒りだ。
 そしてドッと何かが体の中から流れてくる。
 それが冷や汗だと気付くのに、彼の感覚では随分掛った。
 滅多に出ない汗だから、すぐに単語が思い浮かばなかったのだ。



 お嬢様の推理した話を聞いて、勝てるなんて思えたのも大きな要因ではないのか?
 お嬢様の話の中で、目の前にいるこの男は戦闘の鬼だった。
 戦うために生まれた,そんな男だとも聞いた。
 しかし、お嬢様は今のこの男を見て深く絶望した。
 だからまた壊そうと考えたのだ。
 だから、高級住宅街に住むアメリカ人の子供をさらった。
 あとは囮だ。
 そしてその奪還依頼はに行く。
 その後、彼が居なくなった日本で『彼ら』を殺せば、もしかしたら今度は本当に壊れるかもしれない。
 そう考えて、日本にも一部隊送り込んだ。
 だがその部隊からの連絡が昨日から届いていない。
 秘密裏に消されたのは明らかだった。
 踊っているように見えて、その実踊らされていたのはこちらの方だ。



 ユラリ、と目の前の男が僅かに動く。
 それだけでも勝てる気がしない。
 そして目の前の男が静かに呟く。









―――戻れ 我が治める地
       戻れ 我が治める空域
         我 地平を支配する者
             蒼穹の空 支配する者
                泰山府君 其は我なり―――









「ドッグファイト―エリアオープン」
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
旦那は守れられるタマじゃないです。
2023/07/22 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥