Sky Lord
07.Last one
どうしてあんなことが言える?
空港向かうバス停の椅子に座って、はずっと考えている。
躊躇わないと言った。
楽しむとも言った。
じゃぁ、日本で先生をやってるのは何故?
その理由を聞きたい。でも聞けない。
怖いんじゃない。そこまであの人は自分に干渉させないんだ。
それにしても、先生はどこ行ったんだろう。
と、は辺りをキョロキョロする。
少なくともバス停まで一緒だったのに……
『ちょっとここで待ってて』
と言われて随分経つ。
――それにしても遅いなぁ……
とが考えたときだった。
何かが通り抜けたのは。
――え?
と思った瞬間だった。
一瞬で視界は真っ黒になり、ついでにの意識も無くなって、落ちた。
『要人は捕縛されました』
との報告を受けて、張の旦那が電話を取る。
「追跡開始だ。誘ってるのは向こうだ。深追いはするな。ただ場所を報告しろ」
『了解』
「鉄火場は嫌いじゃないがね。ま、元々俺の島でチョロク稼いでいた連中で、しかも行きがけの駄賃代わりにウチに喧嘩まで吹っかけていった連中だからな」
そう言うと短くなったタバコを消した。
「帰国は明日になりそうだがそれは予定通り。想定、教則67のケース1『特定区域の要人奪取』の開始だな」
「最後の最後で決心ついたか? 」
「決心なんて最初から付いてますよ。でも、これでも後悔してるんですよ。俺は」
と言いながら車に乗る。
「お前が後悔ねぇ。随分と人間らしくなったもんだ」
そう言って新たなタバコを出すと、すぐに隣に座った部下が火を点ける。
「しかし、ぬるま湯から一歩出ればそこは危険地帯だっていうのを今回身をもって知ったはずさ。今後のためだ。気にしないでくれ。それとも旦那。同情でもしたか?」
そうが言うと、張がしかめっ面になり
「誰がするか。まぁ。死んでればそこで終わり。俺たちの世界はそう言うもんだ。大体あのガキに同情するのは、自分のケツも拭けない、しまりが悪い連中のすることとビックリする位似てやがる。そうだろう?」
そう言って煙を吐いた。
『突き止めました』
との連絡で車はそこへ向かう。
そこは、意外にも倉庫街だった。
車を降りたと張に聞こえたのは耳鳴り。
「誘ってるな。あの女」
「お前等はここで待て。ここからは、と動く」
そう部下に命令して
「行くぞ」
と言った。
「それにしても、豪華なところが好きな女にしちゃ、ちょっと殺風景すぎないか」
とそう言って張が自分の銃を抜く。
そのグリップには万物を支配すると言われる中国の神『天帝』の文字が書かれている。
いつ作ったのか定かじゃないが、と出会ったときには持っていなかったはずだから、その後っていうことになるんだろう。
が。
それにしても、何故あの言葉で『天帝』になるんだか、にはさっぱり理解できない。
身なりやセンスや一流だが、駄洒落と銃のセンスだけはどうも理解に苦しむな。
と、思いながらは自分の戦闘ナイフを左手に持つ。
「相変わらず白刃しか持たないんだな。殊勝なこった」
「自前の銃は重くてな。途中で銃を拾えばそれを撃つさ」
「可愛いねぇ。この年齢で、その耳、その尻尾。果たしてどれくらいで売れるか分からない程貴重だわ」
椅子に座らされているのは分かる。
だけど、目の前が真っ暗で何も見えない。
拘束されている訳ではないのに、声が出ないし、足も手も動かせない。
――助けて。怖い……
それに、初めて聞いた女の人の声がする。
さっきから領域が不規則に展開されていて、耳鳴りが聞こえたり聞こえなかったりしてなんだか変だ。
これが、先生が言っていたモールス展開?
あぁ、こんなことなら知りたいなんて思わずに、日本で大人しく待ってるんだった。
でも知りたいと思ったから、気になったからついて来た……
付いてきたんじゃない。ある意味、追いかけたんだ。
「あら震えてる。ビクビクしてるわ。可愛い」
そう言って、ねっとりした空気をまとわりつかせた手で耳に触れる。
途端、の体がすくむ。
――怖い!!
こんなことになって、先生怒ってるだろうな。どうしよう
でも、会えば会ったで怖いかも……
「お嬢様。三合会が来たようです」
と今度は別の誰かが言う。
多分声からして男の人だ。
その言葉に、女の人の手が俺の腕を掴んで立たせて歩くように言った。
「さぁ。子猫ちゃん歩いて」
そう言われた瞬間、背中に何か冷たいものが当たる。
――多分、銃だ。
急に命を握られてる感覚がを襲う。
――こんなのあり得ない
「あら? 突きつけてるのが何なのかは分かるのね。流石の連れだわ。それにしてもただの子猫かと思ってたけど……あなた、もしかしてサクリファイス?」
え?
思わずその言葉に体が反応した。
それだけで満足したのか
「あらやっぱり。だろうと思ったのよ。が連れてるからおかしいと思ったの。道理でねぇ。最後の一人が見つかったのね。なるほど。今まで片岸だったのに、今度からは両岸から引っ張るって訳ね」
と女の人が満足気に話す。
それにしても、何言ってるんだ?
片岸? 両岸? 引っ張る? 何のこと?
分からない単語が多すぎる。
引っ張るって、何を? 誰を?
「あぁいいの。あなたは分からなくても。少なくとも、あなたの存在自体が彼にとっては十分すぎる理由になるのは間違いないんだからね。だから……」
そこで言葉を切って急に耳元に唇を寄せて
「目の前で君を殺してあげる。そしたら、彼、今度は完全に崩壊するわ」
と言った。
「私はね。彼の壊れたところがまた見たいのよ。あの冷酷さ、あの残忍さ。どれを取っても完璧だった。あんな人間初めて見たわ。でも腑抜けになったのよねぇ。あの国に入って、少ししてから直ぐに出てくると思ったのに。何年かしてから、学生なんかやってるなんて情報が入ったときには心底驚いたものよ」
女の人の声が遠くなっていく。
なんで……俺、死ぬの?
殺されるの?
何がなんだかわからない……
は放心した。
自然と涙が溢れてくる。
「さぁ。歩いて? あなたの涙に付き合うほど、私酔狂じゃないわ」
そう言って女が銃での体を押し、歩かせる。
カンッ……カンッ……
と、どこかで金属の音がする。
それが自分の足音だと気づくのに時間はかからなかった。
「そうよ。そのまま真っ直ぐね?」
言われるがままに歩く。
ここは、どこ?
なんだか、風が吹いてる。
「、見ろ」
張の旦那が言い、上を向いたの瞳に映った光景……
「ヤバイな。リミッターカットでいくぜ? 旦那」
アトガキ
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管理人 芥屋 芥